第62話「逃げ出した先で」
「ハァ……ハァ……」
ただひたすらに、どこに行くでもなく、息を切らしながら私はただただ走っていた。
……私は何で今走っているんだろう?
頭の中が真っ白で思考がうまくまとまらない。
違う。
考えないようにしているだけだ。
他の人から聞いた話だったら、それは真実と断定するのは難しい。
でも実際にその光景を見てしまったら、それは紛れもなく真実だ。
私は自分の目に自信はある方だ。
大勢の人の中から特定の人間を見つけるのは私の得意分野でもある。
それに気づいたのは最近のことだけれど、だからこそ色々とわかってしまったんだ。
その相手は私のよく知る人物である、夏妃ちゃんであることを。
〜〜
どれだけ走ったのだろう。
もうすでに日は落ちていた。
正直走ってきた道を覚えていないから帰り道はよくわからない。
それに、走っていたときにボロボロと溢れていた涙のせいで人前に出れる姿でないような気もする。
近くにベンチがあったのでそこに座り込む。
……零人君と結衣華ちゃんには悪いことしちゃったな。
私の感情のせいで2人を置いてきちゃったからあとでちゃんと謝らないと。
「や、やっと見つけましたよ!」
私の目の前に立ち、そう声をかけてくる。
俯いていた私だけれど、その声で誰かはわかる。
「……零人君」
「綾乃先輩」
「よくここがわかったね」
私でも今どこにいるかわからないのに。
「伊達に中学時代一緒に走ってないですから。途中から見失ってしらみつぶしに探しましたけど」
「……ごめん」
「理由は……聞かない方が良さそうですね。でも、綾乃先輩は謝ることないですよ」
後輩である零人君に気まで使わせてしまった。
もう私は先輩失格だ。
「そうだ、よかったらこれ使ってください」
私の目の前にポケットティッシュとウェットティッシュを差し出した。
「……ありがとう」
零人君からそれを受け取る。
早速その二つを使って顔を整える。
しばらくして、色々と落ち着いてきた。
「よかったらこれどうぞ」
零人君がペットボトルの水を手渡してきてくれる。
「ありがとう。その、本当にごめんね?」
「いいですって。もう謝らないでくださいよ」
「……うん」
まだ心は落ち込んでいるけれど、零人君のおかげで少し元気になれたかな。
そういえば結衣華ちゃんは一緒じゃなかったのだろうか。
もしかしたら手分けをしてまだ私を探しているとか……。
「綾乃先輩、ボクずっと先輩に言いたかったことがあるんです」
私が結衣華ちゃんのことを切り出そうと思ったタイミングで零人君がそのように話してくる。
それにしても零人君が言いたいことって……。
「ボク、中学時代ずっと綾乃先輩のことがすきでした」
……告白だった。
しかし、『だった』という過去形で表されている言い方であるため、続きがあるようだった。
「でも、高校生になった綾乃先輩は中学時代と違ってて、中学時代の時より明るくなって前以上に……」
最後の言葉を発さずに言い淀む零人君。
「とにかく、今ボクが言いたいことは」
私の目の前に立った零人君は深呼吸をした後
「ボクは今の綾乃先輩もすきです。ボクと付き合ってくれませんか?」
そう言った。
言われた私は返答できずにその場には沈黙だけが漂っていた。
「えっと……」
「や、やっと見つけた!!」
少しして声を出そうとした瞬間、息を切らしつつある結衣華ちゃんの声が響き渡った。
「見つけたんだったら場所くらい送ってよ! おかげでだいぶ時間かかっちゃったよ!」
「あ、悪い……」
2人のいつもの光景を見ていると何だか少し安心した気持ちになる。
「それより、そろそろ帰りましょう。結構遅くなっちゃいましたし」
言われてスマホを取りだして現在時刻を見てみる。
スマホのディスプレイには走ってた時の時間だろうけれど、通知履歴が結構な数入っていた。
時間は結衣華ちゃんのいう通り20時を迎えようとしていた。
当初は夕方に帰るつもりだったためだいぶ遅い時間帯だった。
「もうこんな時間……帰ろっか」
「綾乃先輩、返事は今度聞かせてもらいますね」
「何の話?」
その後、結衣華ちゃんが零人君に何を話していたのか聞こうとするが全てはぐらかされていた。
……私はすぐに返答出来なかったその迷いを抱えながら帰宅するのであった。




