第60話「友達というハードル」
「ちょ、ちょっとまって!」
一旦落ち着くために咄嗟に声を上げる。
後輩である零人くんは私のことがすき?
嫌われてはいないだろうけど、多分千奈ちゃんが言っているのは私が姫城君に対して感じる感情の『すき』なんだと思う。
「……私は今まで零人君をただの後輩としてしか見たことなかったんだ」
頭の整理が終わり、零人君に対する率直な回答をした。
私が『すき』という感情に気づいたのは最近のことというのもあるけれど、中学時代の私はそれ以前に本当の友達と呼べる間柄の人といたかったんだと思う。
「零人君や結衣華ちゃんに対しても『後輩』という括りでしか見えてなかったんだ。2人のいる日常が中学時代では当たり前で……中学時代ですでに『友達』と呼べるような間柄であるほどに関わりを持っていたはずなのに」
私自身が『友達』というハードルを上げていた。
だからこそ零人君の気持ちに気づくことなんてなくて……。
私の中では零人君も結衣華ちゃんも『友達』だと思っていなかったんだ。
「私は最低だ……」
今こうして友達である千奈ちゃんに言われるまで自分がそう思っていることにすら気づくことができなかった。
それが今思う中学時代の悔いともいうべきものだろう。
「綾乃ちゃんは最低なんかじゃないよ」
今まで黙って私の声に耳を傾けてくれていた千奈ちゃんがそう発する。
「だって今それに気づけたんだもの、それを伝えられればいいんじゃないかな?」
「で、でも……」
「綾乃ちゃん、前に綾乃ちゃんがわたしに対していったこと覚えてるかな?」
千奈ちゃんに対して私が言ったこと……。
正直色々と言ったことがある気がするからどれを指しているか検討がつかないけれど……。
「あの時綾乃ちゃんは『千奈ちゃんはもう一人じゃないよ。私は知ってるよ。千奈ちゃんがいい子だって。だからもう一人で悩まないで』って言ってくれてたんだよ」
それはちょうど一年ほど前に私が帰り際に言ったセリフだった。
そっか……もう一年経ったんだ。
「えっと、だからわたしが言いたいのは、えっと……」
「あははっ、今度は私が一人で悩まないでってことだよね」
千奈ちゃんには余計な心配かけちゃったな。
いや、そんな千奈ちゃんだから心配してくれたんだ。
間違いなく千奈ちゃんは一年前とは違う。
私も中学時代のしがらみを断つことができなければきっと前に進むことなんてできない。
「うん。多分もう大丈夫だよ。今ので私なりに答えをだせると思う」
「そっか。それならよかった」
ちゃんと零人君と結衣華ちゃんに伝えなきゃいけない。
私が思っている、私が望んでいる友達という関係について。
それに、零人君の私に対する想いは千奈ちゃんの着眼点が正しければ伝えなければいけない。
いずれにせよ、それを伝えるタイミングは早い方がいいかもしれない。
「それじゃあ、そろそろここ出ようか」
「うん。そうだね」
千奈ちゃんが飼育小屋の鍵を返却して、私たち二人は帰路につくのだった。




