第56話「知らないこと」
「多分翔は気づいてると思うけど、最近俺はイライラしてるんだと思う」
「そうだな。恐らく俺以外に気付いてるやつは多いと思うけど」
「……とにかく、翔だから話すけど俺は金森さんの中学時代を全然知らない。でも水戸は金森さんの中学時代を知っている。たったそれだけかって思うかもしれないけど、俺にとってはそれがすごく悔しいんだ」
俺の知らない金森さんの姿を水戸は知っている。
たったそれだけなのに俺の心にはその事実だけがグサグサと突き刺さってくる。
「それに金森さんは人に好かれるような要素が多いから近々こういうことが起こることは目に見えて分かっていたはずなのに、いざ面と向かって直面したらどうすればいいかわからなくなってさ」
分かっているつもりなのに現状維持ばかりで、ただただ一緒にいられたらいいなんて都合の良いことばかりを考えてしまう。
だから俺は金森さんと関係が壊れるのが嫌で自分の気持ちを伝えることすらできない。
「情けないよな、俺」
「本当に情けないですね」
唐突に翔のものとは違う女子の声が聞こえた。
声のした方向は左隣。
その人物は先日水戸を引っ張って去っていったハーフツインテールの、確か白浜さんという後輩の女子生徒だった。
「盗み聞するきはなかったんですけれど、声が聞こえたので聞いてみれば……先輩ってとんだヘタレですね」
「お、おい。何もそこまでいうことは……」
「ゆいかはこういうタイプの人、少しイライラします」
白浜さんのいう通り、確かに俺はヘタレだ。
周りから俺を見れば確かにイライラするのはわかるかもしれない。
「というか、水戸は大丈夫なのか? また金森と接触して……」
「何を心配してるんですか? れいちゃんなら大丈夫ですよ。綾乃先輩は鈍感ですし、何より2人は中学時代からあんな感じなので。それにほぼ断言できますが綾乃先輩がれいちゃんに恋愛感情を向けることはないです」
「……どういうこと?」
白浜さんの発言には色々と気になることが多々ある。
その一つが最後に発言した金森さんが水戸に恋愛感情を向けることがないという発言。
きっとそれは俺の知らない中学時代の金森さんのことと繋がっている気がしてならなかった。
「それを話す前に名前を教えてください。ゆいかは白浜結衣華です」
「ああ、ごめん。俺は姫城、こっちは桜田翔」
「……先輩、ゆいかは名前を教えてくださいっていったんですよ? 苗字じゃないです。ゆいかは人のことをできるだけ名前で呼びたいのです」
グイグイくるなこの後輩……。
「……沙輝、それが俺の名前」
「姫城沙輝先輩ですか。かわいい名前ですね。沙輝先輩って多分自分の名前にコンプレックス持ってますよね」
「ちょ、白浜お前……」
「いや、いいよ翔」
図星だった。
俺はこの名前、苗字にしても女の子のようなこの名前があんまり好いていなかった。
それにしても今まで聞いた白浜さんの発言の一部は中々に的を射ている部分が多い。
恐らく先程の金森さんと水戸の関係もある程度は信用してもいいのかもしれない。
「それより、さっきの金森さんが水戸に恋愛感情を向けることがないっていう根拠を教えてもらっていいかな?」
「それはこの前の綾乃先輩見たらわかりましたよ。ゆいかはそういうの鋭いですから」
根拠というより勘とかその類のものだった。
「でも、そうですね……根拠で表すのであれば今の綾乃先輩は中学の頃の綾乃先輩とは違うってことです。それには正直ゆいかもびっくりです」
今の金森さんと中学時代の金森さんが違う……。
なんとなく思い当たる節がある。
「……友好関係、とかかな」
金森さんが前に言っていた友達がいなかったという発言。
その辺を含めて聞いたらまずいと思って聞かないようにしていたけれど……
「ねぇ、白浜さん。中学時代の金森さんについて聞いてもいいかな?」
俺はきっとそれを知ることで前に進むことができる気がする。
「それは綾乃先輩に直接聞いてください。人の過去を勝手に話すのはゆいかのポリシーに反します」
俺の頼みが秒で却下されていた。
言われてみれば確かに人のプライバシーに関わることを他人から聞き出すこと自体があんまりいい行動とは思えない。
「……まあ、確かにそうだね」
「でも、一つだけ教えてあげますよ。ゆいかが思う綾乃先輩の人に嫌われていた部分についてをです」
白浜さんは俺の隣に座り、そう言った。




