第55話「悩み」
「はぁ……」
朝、教室へと着くと、自然にため息をついてしまう。
「な、なんかちょっと疲れてるね綾乃ちゃん……」
そんな私を見て千奈ちゃんがそう声をかけてきた。
「疲れているというかちょっとした悩みというか……」
「悩みっていうのはなんとなく察しはつくけれどね」
察しがつくほどに私はわかりやすいのだろうか。
いや、違うかな。
私の現状の悩みの種、それは先日入学してきた中学時代の後輩である零人君だ。
零人君が入学してきたのは陸上部だった私を追いかけてきたからで高校に入ってから部活動を行っていない私に対し、中学時代と変わらず接している。
ここ数日、 零人君が 通学路にて『おはようございます! 綾乃先輩!』と声をかけられたり、昼休みに教室に来て『お昼一緒に食べましょう! 綾乃先輩!』と言われたり、放課後には『綾乃先輩! 今からでも陸上部に入りませんか?』と入部勧誘に来たりしている。
……まあ、それがあるたびに零人君は結衣華ちゃんに連れ戻されるわけだけれど。
「私もなんとなく零人君の気持ちはわかってるつもりなんだけれどね」
「綾乃ちゃん……」
「きっと零人くんはさ……」
分かっていたはずなのに数日間何も答えを出さないでいた。
でも、おそらくそれじゃダメなんだよね。
「陸上が大好きなんだよ。だから走らなくなった私を見てもう一回走って欲しいって思ってるんだよ」
「(違う! 多分そうじゃない!)」
綾乃の発言に対し、心の中でツッコミを入れる千奈だった。
「でも、私は陸上部に入らないと思う」
それを聞いて千奈ちゃんは難しい顔から『え?』といった表情をしていた。
それと同時にチャイムがなり、千奈ちゃんも自分の席へと戻ってゆく。
〜〜
授業中、姫城沙輝は穏やかではなかった。
正確にいうのであればここ数日間、始業式のあった日からだ。
金森さんには申し訳ないけれど、後輩がこの学校に入学する事を完全に考えていなかった。
現状金森さんと俺は一定の距離を保っていることでいい関係を築いていると俺は思っているが、多分このままじゃダメだっていうのはわかる。
ふと、金森さんの方を見る。
学年が変わってまた出席番号順が席順となっているため、俺は後ろの席だった。
だからこそ授業中に教室内のいろいろな情報を得ることができる。
まあそれは自分の目標のために身についたスキルなんだけれど、無意識のうちに金森さんを見てしまう。
「はぁ……」
小さくため息をつきながら同じようなことを考えていると、授業終了のチャイムがなり昼休みであることに気づく。
「おーい沙輝、飯食いに行こうぜ」
「あぁ、うん。そうだね」
翔から目線を少し外し、鞄から財布を取り出す。
その際ちらっと金森さんの席を見て、そして教室を出た。
「今日の飯どうする?」
「席が空いてれば学食かな」
そんな感じで本日の昼食の話をしながら学食へと向かうと、学食は大勢の人で賑わっており、座るスペースは残っていなさそうだった。
「……これは購買で買う方が賢明かもな」
「……そうだね」
とは言いつつも、近場の購買部も学食ほどではないが混み合っているのがわかる。
しばらくして購買部で手に入れたパンと自販機で買った飲み物を持って裏庭の方へと向かう。
「ん? あれは柊たちか?」
裏庭にあるベンチに座る2人は俺たちの友人である石川くんと高垣さんの姿があった。
「なんか相変わらずって感じだよな」
「うん。なんか少し羨ましいかな」
仲睦まじいその姿を見てそう口走る。
「とりあえず俺らはあっち行こうぜ」
翔の指差す方向は裏庭から通ることができる校舎裏だった。
翔曰く人があんまり来ない良スポットだとかなんとか。
言われるがまま翔について行き、適当に段差のある場所に腰掛ける。
とりあえず自販機で買ったパックのコーヒー牛乳にストローを刺し、飲み始める。
「ところで金森とあの水戸っていう後輩のことだが」
ぶぅぅーーーっっ!!
狙ったかのように発言した翔にテンプレのように口に含んだコーヒー牛乳を吹き出す俺。
「まあ、分かっちゃいたけどビンゴだよな」
「げほっ! 分かってたんなら落ち着いた時に言ってくれても良いだろ……」
「ハハハ、悪い悪い」
翔に渡されたティッシュで口元を拭く。
そして一通り落ち着いたタイミングで俺は口を開いた。




