第54話「後輩」
私を呼ぶ声が聞こえた方へと振り向くと、そこには肩程までに髪が伸びている1人の少年が立っていた。
「……零人君?」
その少年の名前は水戸零人。
私の中学時代の後輩だ。
「はい! 綾乃先輩が代宮高校に行くって言ってたのでボクもここに決めました!」
「そんな理由で決めちゃったの!?」
「もちろんですよ! それより綾乃先輩、ボクも早速陸上部に入部届出してきましたのでまた一緒に頑張りましょうね!」
零人君は笑顔でそういってくれるけれど、私は……
「ごめんね。私、今陸上部入ってないんだ」
「えっ……」
部活に入らなかった理由は締め切りに間に合わなかったというのがあるけれど、それ以上に私は今の生活を気に入っている。
「そう、なんですね……」
少しがっかりしちゃってるのがわかるからちょっとだけ申し訳ない気持ちになる。
中学時代はよく一緒に走り込んだりしたし、何より零人君は人一倍陸上に打ち込んでいたから私の腑抜けた姿を見て幻滅してしまったのかもしれない。
「こらぁぁぁーーー!! れいちゃーーーん!!」
少し遠くから誰かが声を荒げながら廊下を疾走してくる。
廊下は走っちゃいけないんだけど……って過去の私も同じことやってるから人のこと言えないけれど。
それにこの光景は中学時代に見覚えがある。
声の主は女の子で零人君の前でぴたりと止まる。
「れいちゃん! 待っててって言ったのになんで教室にいないの!!」
「げっ……結衣華」
彼女の名前は白浜結衣華。
顔立ちが良く、ハーフツインテールが特徴の子で零人君の幼馴染だ。
「というか良くここが分かったな……」
「れいちゃんが行きそうなとこなんて大体察しがつくんだよ。あ、綾乃先輩に他の先輩方、お騒がせしました。ほら、いくよ!」
「ちょっ! 分かったから引っ張るなぁぁーーー!!」
結衣華ちゃんに引っ張られてどこかに連れていかれる零人君。
相変わらずだなぁって思った。
「えっと、なんだったの? 俺たち完全に蚊帳の外だったけど……」
「あぁ、うん。とりあえず学食行こうよ。そこで詳しく話すね」
私たちは学食へ移動し、それぞれ自分の食券を引き替えて席につく。
そして零人君と結衣華ちゃんが私の中学時代の後輩であることを伝えた。
「零人君とは陸上部の先輩後輩の関係で、結衣華ちゃんはマネージャーだったんだ。それでよく一緒に行動していたんだけど、まさか同じ高校にくるとまでは思っていなかったよ」
「だからあいつ金森が高校でも陸上部やると思って入ったわけか」
「でも私はもう陸上やってなくて、やっぱり零人君をガッカリさせちゃったかな……」
「少し気になってたんだが、なんで金森は落ち込み気味なんだ? 基本的に男子と女子じゃマンガでよくありがちな大会で一緒に走ろうぜ、なんてこともないだろうし」
確かに桜田君のいうことはもっともだ。
「それは……零人君が陸上部に入ったのは私の走る姿を見たからって言ってたから。私の走っている姿に憧れてくれる人が高校ではもう走ってないなんて聞いたら裏切られた気持ちになっちゃうかなって」
「なるほどな……」
「それにしても零人君たちが同じ高校に入学してくるとは思わなかったなぁ」
私はとても失礼だけれど零人君のことを高校に入って少し立った頃には忘れてしまっていた。
それほどまでに今の学生生活に充実感を得ているのだと思う。
「確かに、金森の行ってた中学の方面であれば他の高校も選択肢に入るもんな」
「うん。だから私を追いかけてきたっていうのがどうしても引っかかっちゃうんだ」
中学時代から零人君は良くも悪くも行動派の人間だ。
後先を考えずに自分の信じた道を進む、そんな感じの。
だからこそ……
「私を追いかけたことで目標や可能性を失わないでほしいな」
具体的にどうすればいいかはわからないけれど、そう思った。
それはそれとして、先ほどから無言で食事を取り続けている姫城君が気になった。
「ところで姫城君、あまり喋ってないけど具合悪かったりする?」
「……え? あ、ううん。大丈夫。そういうのじゃないよ」
本当にそうかな?
なんか心なしか気持ちが沈んでいるように見えるから心配だけれど……。
その後、本来の目的であった放課後の予定が商店街へ行くことに決まり、その日は商店街で遊んでから帰宅するのであった。




