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想い紡ぐ道標  作者: 月見
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第5話「5月と買物と成績と」


 月は変わり5月。

 高校に入学してから約1か月ほど経っていた。

 周りはクラスに馴染んできたようで大抵の人は気軽に話しかけたり話しかけてきたりとそれぞれスキンシップを取っている。

 そんな日の休み時間、綾乃と梓と千奈は話し合っていた。


「はい、とりあえず千奈ちゃん笑ってみて」

「こ、こんな感じかな……?」


 笑顔と言われ、千奈は自分なりに笑いかけているのであろう。しかし……


「……うん。一旦やめよう」


 眉間に力が入りすぎており、その状態で笑顔を作ろうとしているせいかその姿が嘲笑にしか見えない……。

 人のことを言えるわけではないけど、千奈ちゃんはおそらくそういうところが不器用なんだ。

 話の流れで千奈ちゃんの笑った顔はとても優しい。

 千奈ちゃんは気づいていないかもしれないけどその姿を他の人に向けることができればきっと友達も作れる。

 今の現状では前途多難な感じがするけど、きっとできるはずなんだ。


「とりあえず見た目を変えるのとかどうかなー?」

「見た目?」

「髪型とか変えてみれば雰囲気変わるんじゃないかなって」


 なるほど確かにと思い、綾乃は鞄から折りたたみ式の櫛を取り出す。

 そしてそれを千奈の髪に当て、梳かして行こうとする。

 だがなかなか櫛は通らず、いろいろなところで引っかかってしまう。


「櫛が通らない……千奈ちゃんって普段シャンプーとコンディショナー何使ってるの?」

「わたしは普段リンスインシャンプーだけど……」

「リンスインシャンプー!? なんで!?」


 リンスインシャンプーは髪を洗う際、時間の短縮ができることが最大のメリット。

 だが当然デメリットもあり、そのデメリットというのが簡単にいうと地肌にも髪にも悪いということ。

 髪質にもよるけど、たぶん千奈ちゃんの髪には合っていない。


「千奈ちゃん。今日の帰りにドラッグストアに行くよ! 今日大丈夫?」

「う、うん」


 半ば強引ではあったものの、放課後に買い物に行く約束を取り付けるのだった。



 そして放課後。

 宣言通り、綾乃と梓と千奈はドラッグストアに向かっていた。

 この近くのドラッグストアは綾乃や千奈の帰り道沿いが一番近い場所となっている。


「そう言えばさっき聞きそびれちゃったけど、なんでリンスインシャンプー使ってるの?」

「えっと、それはあまり考えたことがなくて……お風呂あがりに髪はちゃんと乾かしてるんだけど」

「髪は梳かしてるー?」

「……梳かしてない」


 さらに話を聞いたところ、どうやら千奈ちゃんはオシャレに関するものも興味があんまり無いようだった。

 話がひと段落ついたタイミングでドラッグストアに到着し、目当てのシャンプー欄へと移動する。

 シャンプー欄には様々なシャンプー及びコンディショナーがあり、種類ごとに配置されている。


「よし、それじゃあ千奈ちゃんに合いそうなシャンプーを見つけるよ!」

「おー」

「う、うん。正直何がいいものなのかわからないけれど……」


 しばらくの間綾乃と梓は自分の知っているシャンプーの情報を千奈に説明していた。

 千奈は最初はよくわからないといった状態であったが、少しずつシャンプーに関して興味を示してきたのか話に食いついてくるようになった。


「なるほど大体分かった気がする……それじゃあこれはどうかな?」


 千奈が差し出してきたのはCMでお馴染みの使うと髪がサラサラになるというもの。

 フルーツのような香りが特徴のタイプのシャンプーである。


「うん。ところで強引に連れてきちゃったけどお金ある?」

「大丈夫。普段お金はあまり使わないからこれくらいなら」


 お会計を済ませて店を出ると、辺りは夕暮れとなっていた。

 どうやらドラッグストアに長いこと居たらしい。


「今日はありがとう」


 唐突に千奈がそう呟いた。


「気にしなくても大丈夫だよ。これからもわからないことがあれば聞いてね!」

「逆にあたしたちが聞くことになるかもだしねー」

「……うん!」


 友達のために何かができる。

 それって多分いいことだと私は思う。

 そんな思いを秘めながら綾乃たちはそれぞれ帰宅するのであった。



 翌日、帰りのHR。

 いつものように担任である彩咲が話をしている。


「えー、予定表を見てる奴らは気づいてると思うが再来週から中間テスト期間になる為、来週から1週間の間授業が5限目までになる。入学してから数日経って気が緩んでる奴らも多いと思うが、ちゃんとテスト勉強しろよー」


 そっかー、もうテストの時期……

 テスト……?

 今までの自分の成績を振り返ってみる。

 小学、中学でどちらも頭を働かせるより運動していた時間が多い気がする。

 そして高校に入学し、勉強したことが頭に入っているかと言われると……

 やばい……。

 そんな思考を巡らせ、HRは終了した。

 申し訳ない気もするけど梓ちゃんに勉強を教えてもらおう。


「あ、梓ちゃん……」


 とりあえず隣の席の梓に話しかける。

 が、梓は机に突っ伏していた。


「梓ちゃん!?」

「テスト……考えたくない……」


 ダメだ……梓ちゃんも私と同じタイプだ……。


「相変わらずだな梓……」

「桜田君はテスト余裕そうだね」

「……なあ、金森。やりたくないことってさ、やらないほうが幸せだと思わないか?」


 あぁ……桜田君は現実逃避するタイプなんだ……。


「なんでここの空気こんなにどんよりしてるの? って聞くまでもなさそうだね」


 自分の席から鞄を持ってやってきた姫城。

 梓と桜田よりはだいぶ余裕が見て取れる。


「姫城君! 勉強を教えてほしいんだけど……!」

「そうだよ! あたしにも教えて!」

「まあ、そんな気はしてたよ。うん、それじゃみんなでやろうか」


 おぉ……救世主がいる……。


「でもまあ、俺が教えられるのは一部だけなんだけどね。どちらかというと高垣さんの方がいろいろ知ってると思うけど」

「そうなの?」


 千奈の方を見ると、どうやら話に混ざるタイミングを考えていたのかこちらを見ていた。


「千奈ちゃんって頭いいのー?」

「梓……成績発表の時絶対自分の順位しか見てなかったでしょ」


 はぁ、と短いため息をついて再度姫城が話し始める。


「高垣さんは中学の時、学年で15位以内には必ず入っていたんだよ」

「えぇ!? すごい!」

「そ、そんなことは……」


 千奈は照れているのか、そっぽを向いてしまう。


「そうだ。それじゃあ来週からあたしの家で勉強会しようよー」

「勉強会はいいけど、親御さんに迷惑じゃないか?」

「大丈夫だと思うよ。ダメだったらその時考えるよー」


 かくして、来週の放課後から勉強会を行うこととなった。

 テストに対して不安を覚えつつ、それとは裏腹に少し楽しみと感じている綾乃であった。

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