第52話「取引」
オレがこの高校に入学した理由は単に近いからだ。
正直オレにとって高校はどこでもよかった。
こう見えても要領はいい方で自分で言うのもなんだが頭は良い方だ。
おそらくテストもまともに受けようものならトップを狙うのもそう難しいことじゃない。
だが先にも説明した通り、怠惰な生活を送りたいのだ。
だからオレは学校のテストで実力を発揮しない。
要はわざとテストの答えを間違え、自分から点数を落としている。
その理由は大きな責任を追いたくないからだ。
具体的には成績が高いと生徒会などの推薦などが行われる。
この高校ではそういう制度があるかはわからないが、少なくともオレの通っていた中学校ではそういう風潮があった。
だから高校受験の際にも合格ラインより少し上の平均点を目安で合格した。
しかし、レベルを自分で落とすのは悪いことではない。
必要以上のことを頑張る必要がないからだ。
オレが高校に入学して数日が経ったある日、廊下を歩いていると1人の先生とすれ違う。
なんとなく立ち止まって振り返る。
体育担当の教師である1-2の担任、彩咲美鳴飛だったか。
確かこの先生もこの学校に来たばっかりだとか聞いた気がする。
まあそんなことはどうでもいいか。
今後授業以外で関わることもないだろうし。
そう思って再度振り返ろうとした瞬間
彩咲先生から『色』が突然現れた。
その色はとても濃い色の赤でまるで血のような色だった。
いや、問題はそこじゃない。
オレの視認できる『色』は基本的に常時見えるものだ。
それが突然現れるといったことが今までに起こったことがなかった。
つまりこの先生は自分の持っている『力』を掌握し、コントロールしていてかつその『力』を極限まで0に抑えることができる人間という認識になる。
理屈がわからない上、『力』を極限まで0に抑えることでどのような結果が生まれるか想像がつかないが、ただ一つ言えるのはこの先生は危険だと本能が言っている。
早々とここを去ろう。
あの人に関わるとなんとなくだが面倒ごとに巻き込まれてしまう気がする。
「おい、そこの男子生徒」
……遅かった。
踵を返そうとしたオレに向かって彩咲先生が声をかけていた。
「……なんですか?」
「ちょっと確認したいことがあってな」
「はぁ」
「お前は確か1-4の倉崎だったか?」
「よく覚えてますね」
「生徒のを覚えるのも教師の仕事だからな。っと、それはどうでも良いんだが」
彩咲先生がそこで話を切ると、先ほどまでなかった『色』が再度発現した。
それも先ほどよりももっと濃い『色』に。
「……やっぱりな」
「やっぱりってなんですか?」
「お前、『視えてる』だろ」
どういうことだ!?
この先生、オレが『色』が見えることを瞬時に察したのか!?
「な、何を言ってるんですか?」
「今さっき、私は一つあることを実行したんだ。それは私自身が体を動かすことなく実行出来る行動、いわば普通の人間にはわからない能力の発現とでも言おうか。それを実行した瞬間、お前の顔が少し引き攣ったというのが証明だな」
確かに少し、それもほんのわずかに引き攣った程度だが、彩咲先生はそれを見抜く程の観察眼を持っていたようだ。
「……参りましたよ」
これ以上誤魔化しは効かないだろう。
それになんとなくだが、まだこの先生は『力』に理解がある人間なのだろう。
そうでなければ『力』を使ってオレを黙らせたり存在を消すと言ったことをしている気がする。
「オレには先生のように『力』を持った人間の『色』が見えますよ」
オレは彩咲先生に自分には『力』を持った人間を『色』で認識できること、『色』によってどのような能力が備わっており、どれほどの『力』を持っているかがわかることを伝えた。
「ふむ……」
「オレから話せるのはこれが全てですよ」
「理解したよ。おそらくお前はその力で面倒ごとを避けてきたんだろうが、それを生かしてみようとは思わないか?」
「全く思いませんね」
「そこまではっきりと回答するか……」
「オレは基本的に面倒ごとは避けたい人間なので」
「なるほどな。ちょうど私は人材を探していたんだ。基本的に面倒ごとにはならないと思うが、そうなった時だけ手を借りたい」
「いやそもそも面倒ごとに巻き込まないで欲しいんですが」
「そうなるかどうかは今後次第ってところだろうな」
人の話を聞いているのかわからないくらいに軽い答えを残して彩咲先生は去っていった。
それにしてもこの『力』を見抜くことができる人間が存在するなんて……早くもこの学校に入学したことを後悔しつつあった。
それから数日、数ヶ月と時間が経ち、すでに年末年始を迎えて学年が上がる時期となっていた。
オレの過ごした日々は変わらないが、唯一彩咲先生のことだけが引っかかる。
何かを予見しているようなそんな口ぶりだったが今のところ何もない。
「倉崎」
そう思っていた時にちょうど彩咲先生が声をかけていた。
「授業とか以外では話すの久しぶりですね」
「面倒ごとに首を突っ込みたくないってことだったからな」
「それはお気遣いどうもありがとうございます。それでどうしたんですか? わざわざオレに声をかけるってことは面倒ごとが起きたとかですか?」
「当たらずも遠からず、ってところだな」
「前にも言った通り面倒ごとはいやですよ?」
「まあそういうと思ったよ。だから私と取引をしないか?」
「取引?」
「私の要望を叶えてくれればお前の要望を私のできる範囲で叶えてやろう」
「つまり対価に見合った施しをもらえるってことですか。とりあえず先生の要望ってなんですか?」
「それはな、部活を作ってもらいたい」
「……はい?」
突然何を言っているんだこの先生は。
「部活といってもただの部活ではない。どちらかというと臨時の手伝いといったものだな」
「それ、部活として設立する必要ありますか? それに校則では3人以上の部員がいないと正式に認められないってあったと思いますけど」
「痛いところついてくるな。実はこの学校は基本的に教師は何かしらの部活の顧問をやることになってるんだが私は顧問をやっていないんだ」
「え? でも一年間やってなかったと思うんですが」
「よく知ってるな。私は基本的に相談役という立ち位置で生徒の声を聞く名目でこの学校にきたこともあって顧問を免れていたんだが、それを良く思わない教師がいるわけだ」
「なるほど、つまりオレが部活を作る申請をしてその顧問として先生が受け持てば周りの目もよくなると言いたいんですね」
「話が早くて助かるよ。流石の私も他の教師と面倒ごとを起こしたくないからな」
確かに人間関係で成り立つ様な教師と言う職業であれば当然なのかもしれない。
それにしても彩咲先生はそう言う理由でこの学校にきていたのか。
「理由はわかりました。ですけど人数とかどうするんですか? 正直あんまり他人と関わりたくないんですけど」
「そこは問題ない。色々理由をつけてお前1人だけで話を通すつもりだ。一応部室も確保してるから基本的に放課後勝手に使ってくれていいぞ」
部室を自由に使えるのか。
それであれば今後も怠惰に過ごすのに問題はなさそうだ。
「わかりました。その話、乗りますよ。オレの要望は特にないですが、手続きとかは全部やってください」
「ああ、それくらいなら任せておけ。一応2年時に進級とともに設立する形にするから他のことは追って連絡しよう」
「わかりました」
正直オレが部活を承諾したことにオレが一番驚いている。
実は何か変わることを望んでいるのだろうか。
いや、それは無いな。
とにかく、2年まであと1ヶ月と少しほどだ。
オレは今後の出来事に大きく関わることになる。
それをまだ知らなかった。




