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想い紡ぐ道標  作者: 月見
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第50話「バレンタインデー」


 時は過ぎ、バレンタイン当日。

 学校へ着くと、下駄箱付近からすでにバレンタインデー特有の現象が起きていることがわかった。

 具体的には一部の男子がソワソワしていたり、一部の女子が様子をうかがってチョコを渡すタイミングを見計らっているような光景が見受けられる。

 私もみんな用のチョコを持ってきているが、それとは別にもう一つチョコを持ってきている。

 理由は言うまでもなく、すきな人にあげるためのチョコだ。

 あんまり意識しないようにしているのだけれど、私も一部の女子と同じなんだろうか……。

 そんなことを考えながら教室へと向かった。


 教室へ着くと、教室内は甘い匂いで包まれていた。

 言うまでもなくこれはチョコの匂いだ。


「あ! あやっちおはよー! はい、これあやっちの」


 私に気づいたせんちゃんが挨拶と同時に小さいラッピングされた小袋を私に渡していた。


「せんちゃん、おはよー。これってもしかしてこの前の?」

「うん。ちょっとネタバレが含まれてるけど味は保証するよ」

「そっか、ありがとう。お返しと言ってはなんだけど、はい、これ」


 私も鞄の中から小さい小袋を取り出し、せんちゃんに渡す。


「ありがとー。と言っても私もこの中身知ってるんだけどね」

「確かにね」


 お互い作ったものを知っているからただの交換みたいになったけれど、多分せんちゃんはそれが楽しいと感じているんだろう。

 かくいう私も結構楽しいと感じている。

 せんちゃんと別れて、いつものみんなの元へと向かう。

 すでにみんなが揃っているようで会話を楽しんでいるように見える。


「みんなおはよー」

「綾乃ちゃんおはよう」

「はい、これ私からバレンタインチョコだよ」


 先ほどせんちゃんにあげたものと同じものをいくつか取り出す。


「あれ? あたしにもくれるの?」

「うん。元々人数分分ければよかったんだけど、正直こういう小袋って余らせても私はあんまり使い時ないから全部使っちゃおうと思って」

「なるほどねー。じゃあ貰っておくね」

「それじゃあお言葉に甘えて俺ももらうわ」


 梓ちゃんと桜田君がチョコを受け取る。


「じゃあわたしも、はい。前回作ったものだから中身分かってるかもだけど」

「ありがとー」

「僕もお言葉に甘えてもらいますね」


 千奈ちゃんとは交換する形で、石川君にはそのままチョコの小袋を渡す。

 残るは……。


「はい、姫城君。どうぞ」

「あ、ありがとう」


 みんなと同じようにチョコの入った小袋を渡す。

 なんだろう、姫城君に渡すときだけ妙にドキドキする。

 まだ本命のチョコを渡したわけでもないのに。

 そう、私の場合はこれからだ。

 姫城君に渡したい鞄の中にある本命チョコ。

 今日の目的はこれを姫城君に渡すこと。

 今はそのタイミングを見計らうんだ。

 すると、姫城君の元にクラスの女子が声をかけてきていた。


「姫城に用があるって他のクラスから女子が来てるよ」

「え? あぁ、うん」


 それを聞いた姫城君は席を外してその他のクラスの女子の元へと向かっていった。


「あいつも変わんないな」

「あれって……」


 ほぼ確信ではあるが、なんとなく聞いてみる。


「十中八九本命チョコでの告白だろうな」


 知ってはいたけどかなり心にグサリときた。

 こういうのは何度か体験しているはずなのに、不安が拭いきれない。


「でもまあ、多分受け取らないだろうな、あいつ」

「……え? なんでわかるの?」

「なんでって……俺も同じ感覚だからそうなんだが、特に意識していないやつから本命です、付き合ってくださいって言われても困るだろ?」

「それはまあ、確かに」

「それにすきなやつがいる場合は特別な事情がない限りすきなやつ以外から本命は絶対に受け取らない。女子のことはよくわからんが、女子もすきなやつ以外に本命チョコ渡したりすることはないだろう?」

「桜田、とんでもないカミングアウトしてるところ申し訳ないけど、あんたにも呼び出しよ」

「マジか……」


 桜田君は気だるそうにその場を去っていく。

 そして私は桜田君の言葉を聞いてから心がざわついていた。

 一旦自分の席に戻り、着席する。


「……はい、これあげるわ」

「え?」


 隣の席の夏妃ちゃんからラッピングされた少し大きめの袋を渡された。


「あ、ありがとう」

「それ他のみんなで食べるのよ」

「この大きさはそういうことね……どうせならみんないるときに直接渡せばいいのに」

「どう声かけていいかわかんないもの。綾乃はその分幾らかマシ」

「なるほどね。うん。みんなに伝えておくよ。それと、はい。これ夏妃ちゃんの分」

「……ありがと」


 小さくお礼を言いながら受け取る夏妃ちゃん。


「ところで、あんたあれでチョコを渡したって言い張らないわよね?」

「えっとそれって……」


 多分夏妃ちゃんが言いたいのは姫城君に対することだろう。


「うん。私はまだ渡せてないよ」

「……そう」


 それだけ確認したかっただけなのか、それ以降は会話がなくなった。


〜〜


 そして時間は過ぎ、午後となっていた。

 姫城君のことを少し遠目で観察していたが、他の女子に呼ばれることが数回あったものの、手にはチョコを持っている様子はない。

 つまり本命は受け取っていないことになる。


 さらに時間が過ぎ、放課後となった。

 おそらく今日はこれがラストチャンスだろう。

 タイミングを見計らって姫城君と2人になれれば……。


「あ、そうだ。綾乃と姫城いるか?」


 みなちゃんが教室に戻ってそう声をかけていた。


「お、いるな。悪いがこれコピーしてきてくれないか? このあとちょっとやること出来てしまってな」

「うん。分かったよ」

「それぞれ枚数は端の方に書いてるから、終わったら私の教卓に置いといてくれ」

「わかりました」


 みなちゃんからコピー元の紙とコピーカードを受け取る。

 ……これってチャンスだよね。

 頃合いを見て姫城君に本命チョコを渡そう。


 この学校のコピー機は職員室にないらしく、職員室から少し離れたところにあるらしい。

 私もあまり関わったことがないからよくわからないのだけれど、どうやら一緒に渡されたコピーカードというものを使わないとコピーできないのだとか。

 購買部には学生用のコピーカードが回数制限式で売られているとかも聞いたことがあるけど、なかなか使う機会はないだろう。


「ついたよ。ここがコピー室だね」


 文字通りコピーを行うだけの場所で、中はコピー機が数台置いてあるだけの小さな個室だった。

 姫城君はテキパキとコピーを取ってゆく。

 私も同じようにコピーを取っていく。

 静寂の中でコピー機の音だけが響き渡る。

 心の中では渡さなきゃと思ってはいるのにそのたびに朝に桜田君が言っていたことを思い出す。


 『特別な事情がない限り好きなやつ以外から本命は絶対に受け取らない』


 もし、断られてしまったら……そう頭の中によぎってしまう。


 その後結局私は本命チョコを渡すことができず、姫城君に用があると言って別れて廊下の片隅に座り込んでいた。


ーーー


「……情けない姿ね」

「え? 夏妃ちゃん……?」


 私の声を聞いた綾乃がこちらをむく。

 綾乃の目は少し涙ぐんでるようにも見える。

 その様子からして、本命チョコを渡せなかったのだろうと察しがつく。


「私、全然ダメだった。心の中では渡そうって思ってるのにいざ目の前にしたら怖くなって渡せなかった」

「………」


 悔しいけど気持ちは分かってしまう。

 私も同じだった。

 自分の思いをすきな相手に伝えることすらできない。

 私は臆病者だ。

 だからだろうか、綾乃を見て臆病な私と重なってしまう部分に苛立ちを覚えてしまうのは。


「綾乃」


 私は鞄から本来姫城にあげるはずだったチョコをあやのに差し出す。


「夏妃ちゃん……それって」

「私も同じよ。それに私の手作りじゃ姫城を満足なんてできなかっただろうし」

「そんなこと……!」

「勿論食べれないことはないけど、食べないなら捨ててちょうだい」

「………」


 綾乃は自分の鞄から大きめの箱を取り出す。

 おそらくこれが姫城にあげるはずだったチョコだろう。


「……交換。私だけそうするのは不公平だもん」

「……そう」


 お互い受け取る。

 そして受け取ったチョコを私は早速開ける。

 丁寧にラッピングされた箱、中身もその想いが詰まっていることがわかる。

 そして私はそのチョコにかぶりつく。


「……美味しい」

「あ、ありがとう」


 甘いけど少し寂しい、そんな味。

 私は……『変わろう』そう思った。


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