第36話「音楽」
学園祭二日目。
昨日はいろいろあって学園祭を楽しめなかったけど、それ以上にわたしはいろいろなものを得ることができました。
その中でも未だに信じられないけれど、柊くんとわたしは恋人同士になりました。
おかげで昨日はなかなか眠りにつくことができず、朝起きても昨日のことが夢なのではないかと思うほどだった。
そして今私は学校へ行く準備を整え、柊くんがお世話になっている楽器屋の前にきていた。
……ここに来るのも久しぶりだ。
柊くんが居なくなってからわたしはここに足を踏み入れる勇気が中々でなかったのだ。
でも今なら大丈夫なはず。
一歩、また一歩と進み、楽器屋へと入って行った。
「あ、あの、すいません」
「いらっしゃい……おお、千奈ちゃんかい?」
この人とは面識がある。
柊くんのおじいちゃんであり、この楽器屋の店主だ。
「お、覚えてるんですか?」
「もちろんだよ。というよりこの商店街に住んでるんだ、たまに見かけてるよ」
「あはは、それもそうですね。ところで柊くんはいますか?」
「あぁ、それがやっておきたいことがあるって学校に行くって言ってたけど、一緒に行く約束とかしていたなら連絡とかはなかったのかい?」
「え? そうなんですか? わかりました。ありがとうございます」
それだけ言って楽器屋を出る。
……やっぱり夢だったのかな。
確かに約束はしていなかったからわたしの落ち度ではあるんだけれど。
とりあえず鞄からスマホを取り出して見てみると、一軒の通知があった。
そこには柊くんから『本当は一緒に学校に行きたかったんだけど、少し準備のために先に学校行ってるね』と書いてあった。
……わたしが見ていなかっただけか。
基本的にスマホを持っているのはいいけど全然使わないのが裏目に出ていただけだった。
そして昨日のことが夢でないことも証明されたことで、通学路を歩くのだった。
~~
教室へ着くと、昨日のようにある程度の人数がすでに準備を始めていた。
「あ、千奈ちゃんおはよう。あれ? 一人?」
こちらに気づいた綾乃ちゃんがそう問いかけてくる。
「おはよー。千奈ちゃん石川くんと一緒じゃなかったの?」
「おはよう二人とも。うん、というより柊くん来てないの? 先に学校に行ってるって聞いたんだけど」
「私は見てないけど……」
「あたしもみてないよー? 多分翔と紗輝も見てないと思う」
どういうことだろう?
じゃあ柊くんの準備って一体……?
その瞬間、教室の扉が開かれた。
「おはよう。みんな」
開いた扉からは柊くんの声がした。
だが、その姿は昨日とは打って変わっており、金髪だった髪色が黒になっていた。
「柊……くん?」
「うん、そうだよ」
クラスのみんなが驚いていたようでわたし以外声を発していなかった。
髪色だけでこんなに印象が変わるものなのかと思うほど、今の柊くんはとても落ち着いた雰囲気だった。
「とりあえず、何とか僕の方は片付いたし、昨日何もやれてない分今日は頑張るね」
「いやいや、さすがに事情が事情なんだ、本来のスケジュール分までで問題ないぜ」
「そうだよ! むしろ楽しめるときに楽しまないとね!」
どうやらクラスのみんなも昨日の事情を知っているようで、同じように柊くんをフォローしている。
最初はその提案に否定的だった柊くんも最終的には折れてスケジュール通りの時間配分となったようだった。
「ははは……ありがとうみんな」
「そう言えば柊くん。準備があるって聞いたんだけど、何の準備をしていたの?」
「あぁ、それはね」
柊くんがわたしたちに対し、そのことについて話した。
~~
二日目の学園祭の開始が宣言され、わたしたちは出店の仕事をし、各クラスの出店に赴いたりなど学園祭を楽しんでいた。
わたしの思い描いた理想の学園生活の像がそこにはあった。
そして、その時は訪れた。
体育館に設置されたパイプ椅子に座り、少ししてから体育館のステージがライトアップされる。
そこには一台のピアノ。
静けさの中、ステージの端から柊くんが現れ、ピアノの前にある椅子に座る。
学園祭のこの枠は柊くんが彩咲先生に無理を言って掛け合ってもらったと聞いた。
椅子の調整が終わり、一呼吸を置いた後、鍵盤に指を置いて音が鳴り始めた。
その音色は依然聞いたものとは違い、弾むような音楽でありかつ繊細なものでもあった。
端的に言ってしまうと『楽しい音』だった。
―――
とある病室。
彩咲美鳴飛は柊がピアノを弾いている間そこにいた。
病室には美鳴飛のスマホを覗き込んでいる一人の女性、石川聡子がいる。
だいぶ早い段階で目が覚めた彼女は見ず知らずである美鳴飛と面会していた。
それは柊の頼みでもあり、目的はスマホに映された映像、そしてその音声を流すことだった。
「なんだか懐かしい感じがします」
「そう思えたならよかったです」
「でも、なぜ私にこの音楽を?」
「どうしても聞かせたいという生徒がいたんですよ。彼はまだ子供ですが、私たちが思っているより物事を考えられるようになってると思います。彼……柊くんは楽しそうだと思いませんか?」
「……はい、とても、楽しそうです」
頬をつたる涙と共に頷く聡子。
旋律が響き渡る病室。
その旋律は『音』を『楽しむ』ことのできる人間が奏でる音色だった。
~~~
僕、石川柊は夏休みで商店街にあるおじいちゃんの楽器屋へ向かっていた。
ほとんど来たことのないところだから、周りを見わたしながら歩く。
そして商店街の一角で地面を見ている一人の女の子を見つけた。
たぶん僕と同い年くらいの子だろうか。
何となく気になったけど、おじいちゃんのところに早く向かうため先を急いだ。
次の日、お使い頼まれたときに同じ場所で女の子を見かけた。
昨日と変わらずに地面を見ている。
その次の日も同じように女の子がいた。
僕は気になって話しかけて見ることにした。
女の子は近づいた瞬間、僕に気づいて家の中ににげてしまった。
でも、とびらからじっとこっちをみていたので、そのまま話しかけた。
「えっと、きみはなにをしていたの?」
それが僕と千奈ちゃんの出会い。
最初は気になっただけだったけど、一緒に遊んでいるうちにだんだんと僕は千奈ちゃんがすきになっていったんだ。
それからその夏休みの出来事を忘れることなんてできなかった。
しばらく時間が経って音楽に打ち込み、心が折れそうになったときでもその時のことを思い出すことで何とか折れずにいた。
それもお母さんの病により僕はいろいろなことがわからなくなっていった。
反抗するかのように髪色を落としたり、音楽と真剣に向き合うこともできなくなり、ただ一つ、僕は逃げるようにして一番思い出に残っている商店街へと戻ってきた。
千奈ちゃんに会えるかどうかなんてわからない。
それに今あっても幻滅されるだけかもしれない。
そんな心境で転校先である代宮高校で僕らはまた出会った。
以前の千奈ちゃんと比べてとても前向きで、クラスに馴染んでいて、何より素直にかわいいと思った。
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思えば僕はあの頃からずっと千奈ちゃんのことを思い続けてたと実感する。
僕のために怒ってくれた千奈ちゃんは悲しそうで、そんな思いはもうさせない。
忘れていた感情が戻ってくるような感覚。
これを音色に乗せて僕はピアノを弾き続ける。
僕一人では到底なしえることのできなかった音色。
できることなら君のために弾き続けたいと思う。
この『音楽』を。
体育館のステージから流れる音色はその場にいた全員を引き込み、演奏が終わった後はその場の全員からの拍手を受け幕を閉じるのであった。
お久しぶりです。月見です。
最近は気温の変化が激しいので体調管理が大変ですが、ようやくお話も終わりました!
今回のお話は悪くないと自分では思ってる反面、もっといろいろできたかなとも思ってます。
次は冬関連のお話になりそうですので涼める話を書ければいいですね。(無理だと思いますけど)
短いですが、今回はこの辺で〆ようと思います。




