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想い紡ぐ道標  作者: 月見
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第34話「千奈と柊」


 彩咲先生が呼んでくれたタクシーで病院へと着いたわたしと柊くんは受付の人に柊くんのお母さんについて聞く。

 聞いた話だと、どうやら脳の腫瘍ができてしまっている影響で手術室に運ばれたという。

 わたしたちは急いで手術室の前へと向かった。


 手術室の前の椅子にわたしと柊くんは無言で腰かけていた。

 何か話そうにも何を言えばいいのか、なんといってあげればいいのかがわからない。

 だからわたしはただ、柊くんに寄り添うだけだった。


―――


 ……暑い。

 そう思いながら、わたしはお気に入りのぼうしをかぶっておうちの前でアリの行列を見ていた。

 理由は小学校の自由研究でとくに書くこともなかったから。

 当時から奥手で、人になじむことがにがてだったわたしはいつもひとりでたのしいことを探していたのだ。

 このアリの観察もその日課の一つだった。

 わたしがずっとそのアリの行列をながめていると、かげができた。

 かげができた方向をみてみる。

 そこにはわたしとおなじくらいのとしの男の子が立っていた。

 わたしはおどろいて、その場からにげるようにおうちのとびらから男の子のようすをうかがう。


「えっと、きみはなにをしていたの?」


 男の子がそうたずねてくる。


「じ、自由研究でアリのかんさつ……」

「……それってたのしいの?」

「……あんまり」


 そういわれて気づく。

 なんでアリのかんさつなんだろう……。

 そうかんがえてると、男の子はわたしに近づいてきてわたしの手を引いて


「おいでよ、もっと楽しいことがあるよ!」


 そう言って歩きだした。


~~


 つれてこられたのは近くの楽器屋さんだった。

 この商店街にずっといるけど、この楽器屋さんは入るきかいがなくて来たことはなかった。


「ぼくは夏休みでこっちにきたんだけど、いまはおじいちゃんの家に泊まってるんだ。そしてここがおじいちゃんの楽器屋なんだ」


 男の子はそうじまんげに話すと、近くにあったピアノの前のいすに座って弾きはじめた。

 その音色はとてもきれいで、思わずわたしは聞き入ってしまう。

 なんだかよくわからないけれど、とっても楽しいと感じた。

 ひととおり弾きおえた男の子はいすからおり、わたしの方へもどってくる。


「ね? 楽しいでしょ?」

「う、うん。なんでかわからないけど、楽しいよ」

「よかった。……そういえばきみのなまえは? ぼくのなまえはしゅう。いしかわしゅうっていうんだ」

「わ、わたしはたかがき、ちな」


 それがわたしとしゅうくんの出会いだった。

 その日はしゅうくんのえんそうをききながら一日がおわった。

 夜になると、そのえんそうがわすれられず、わくわくしてなかなかねることができなかった。


 つぎのひ。

 またあの男の子があそびにきてくれた。


「ま、またきてくれたの?」

「あたりまえだよ。だってぼくたちもうともだちでしょ?」


 ともだち。

 わたしがずっとほしかったものを、あってすぐのわたしにくれるの?

 そしてまたわたしの手を引いてそとにつれだしてくれた。

 きのうと同じように楽器屋でしゅうくんのえんそうをきく。

 前のときとはちがうえんそうだったけど、これもすごくたのしかった。


「しゅうくんはなんで楽器をやろうって思ったの?」

「ぼくのいえにもピアノがあって、ひいてみたらすごくたのしかったからだよ。そうだ、ちなちゃんも楽器ひいてみようよ!」

「わ、わたしにできるかな……」

「だいじょうぶだよ! ふたりでひければ、きっともっとたのしいよ」


 しゅうくんに言われるがまま、楽器をえらぶ。

 それにしてもいろんな楽器があるんだなぁ。


「しゅうくんはピアノいがいもひけるの?」

「うん。だいたいの楽器はひけるよ」

「わたしはなにがひけるんだろう……カスタネットとかタンバリンしかやったことないけど……」

「やってみたい楽器とかない?」

「やってみたい楽器かぁ……」


 ふと、めのまえにバイオリンがうつる。

 たしかまえにテレビでバイオリンをひいている女の人を見た気がする。

 そのすがたがきれいだったなぁっておもったこともあったっけ。


「バイオリンにきょうみがある?」

「う、うん。少しだけ」

「ちょっとまってて」


 そういうとしゅうくんはお店のおくに入っていき、しばらくしてもどってくると手にバイオリンと弓を持っていた。


「これ、練習用のかりてきた!」

「で、でも、バイオリンってむずかしいんじゃないかな……?」

「たしかにむずかしいけど、コツをつかめばかんたんな曲ならひけるよ!」


 言われるがまま、わたしはバイオリンをしゅうくんから教わるのだった。


~~


「……うん。ちょっと、だけへんなかんじだけど練習すればうまくなるよ」

「そうかな……かなりひどい音してたとおもうけど……」


 とんでもなくギイギイいってたのが自分でもわかっている。


「さいしょからできる人なんてなかなかいないよ」


 そんなわたしに気をつかってくれたのかしゅうくんはそういってくれた。

 それからずっとわたしはしゅうくんといっしょに楽器屋さんでずっとバイオリンの練習をした。

 うまくなった感じはまったくしないけれど、しゅうくんといっしょに練習するそのじかんがまるでゆめかのようにとてもたのしかった。

 でも、そんな日もながくはつづかなかった。

 夏休みのおわりが来てしまい、しゅうくんは帰らないといけなかった。

 わたしはそれに対して泣くことしかできなかった。

 そんなわたしのすがたをみたしゅうくんは一言だけ


「またね」


 そういった。

 わたしも泣きじゃくりながらずっと小さな声で『またね』ということばをくりかえしていた。


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