第33話「学園祭開催!」
朝。
部屋のカーテンを開ける。
みんなそれぞれ準備を仕上げ、わたしたちはついに学園祭開催日を迎えた。
開催時間は10時からだけど、わたしたちのクラスは飲食系ということもあり、少し早めに学校へ行って食材のチェックなどを行わなければならない。
そのため時計をセットしていたのだけれど、その時計のアラームより先に起きてしまっていたようだ。
自分でもわかるくらいこの学園祭を楽しみにしていたんだと思う。
それと同時に脳裏に柊くんの顔が浮かぶ。
……わたしは柊くんに対して何をしてあげればいいんだろう。
『失敗を恐れていたら前に進めない』って綾乃ちゃんや先生にそう言われた。
それに先生のアドバイス……柊くんとお互い本気でぶつかるということ。
わたしにはこの意味が未だに理解できていない。
いや……もしかしたらわたしは無意識に理解できないように解釈しているだけなのだろうか?
どちらにしても考えがまとまらなかった。
~~
学校へ着くと、すでに何人かは教室で食材のチェックや開店の準備などを行っているようだった。
「あ、千奈ちゃんおはよー!」
「う、うん。おはよう」
綾乃ちゃんがわたしに気づいてそう声を掛けてきた。
他のみんなも揃っているようで、すでに大半の準備は終わっているようだった。
「確認が早いに越したことはないけれど、だいぶ時間が余っちゃってるね」
「私もそう思ったから、みんなでっていうのは無理だけど一緒に出店めぐりに行く計画表とか考えてるよ」
「なるほど……」
確かにわたしはそういうことを考えてこなかったからたまにはこういうことを考えるのもいいかもしれない。
「わたしも考えようかな」
「うん! 千奈ちゃんも一緒に考えよう!」
「なになに? 二人ともどうしたの?」
わたしたちの様子を見て梓ちゃんがそう質問してきた。
「少し時間が空いたから千奈ちゃんと出店めぐりに行くための計画を考えているところだよ!」
「あー、いいなぁー。あたしの休憩時間二人とずれちゃってるからなぁ」
そう、今回は役割の関係上、梓ちゃんとわたしたち二人の休憩時間はずれてしまっている。
……本当は三人で回りたかったんだけど、仕方ないよね。
「まあ、くよくよしても仕方ないからねー。二人は存分に楽しんでくるといいよー」
それだけ言って梓ちゃんは教室の仕切られた場所に去って行った。
「やっぱり梓ちゃんも一緒だったらよかったんだけどね」
「そうだね……仕方がないってことは割り切ってるつもりなんだけどね」
「それじゃあ梓ちゃんのお土産を計画に入れておこうかな」
「……綾乃ちゃん。さすがに飲食系のお土産すべては梓ちゃん食べきれないと思うよ」
そんな感じで計画を進めていると、唐突に校内放送が流れ始めた。
『1年2組の石川柊くん。至急職員室へお越しください。繰り返す。1年2組の……』
彩咲先生の声で柊くんの名前が呼ばれていた。
「今のって……」
柊くんの方を見る。
……いや、このクラスの全員が柊くんを見ていた。
柊くんは自分に向けられている視線から逃げるように教室から出ていく。
その際、一言も言葉を発することはなかった。
「柊くん……」
そう呟きながら柊くんが呼び出された理由を考えるより先にわたしは立ち上がり、柊くんの後を追っていた。
―――
柊くんを追いかけたわたしだったけど、職員室前で彩咲先生にプライバシーの関係上止められ、立ち尽くしていた。
「……千奈ちゃん?」
「え? あ、綾乃ちゃん?」
「何となく心配になって追いかけてきたけど、今石川君は職員室?」
「うん。そうみたい……」
そう話していると、柊くんと彩咲先生が職員室から出てくる。
何となく柊くんの表情が暗い気がするけど……。
「しゅ、柊くん、呼び出されたのって……」
「なんでもないよ」
「なんでもないって……でもそんな感じに見えないっていうか、何となく表情も暗い感じがするし……」
「だからなんでもないんだよ。これは僕の問題だし。それにきっと千奈ちゃんたちには僕のことがわかるわけないよ」
……なんでもないわけがない。
それに『僕のことがわかるわけないよ』だって……?
「……そんなの」
徐々にこみ上げてくるこの感情……。
わたしの中でそれが爆発するかのように言葉を発していた。
「そんなの当たり前だよ!! だって柊くん何も話してくれないんだもの! 確かにわたしは相談するには頼りないかもしれないし、実際に聞いてもどうすればいいかなんてアドバイスするなんてできないかもしれないけど、それでも話してくれないと何もわからないんだよっ……!!」
わたしが初めて人に対する怒りの感情をぶつけていた。
それを見ていた綾乃ちゃんや柊くんや彩咲先生はあっけにとられていたようだった。
「……ごめん」
少しの静寂の中、柊くんがぼそりとそう言って言葉を繋げる。
「僕は……」
「場所を移動しよう。ここじゃ他の先生や生徒に迷惑がかかるからな」
柊くんの言葉を彩咲先生が遮るようにそう言った。
彩咲先生のその言葉にわたしたちは頷き、歩き出す。
しばらく歩き、校舎の裏庭へと来たところで彩咲先生は足を止めて壁にもたれながら柊くんに向かって頷く。
それが合図かのように柊くんは再び言葉を発した。
「僕はさ、多分もう千奈ちゃんは知ってると思うけど、もう音楽はやってないんだ。千奈ちゃんたちは僕の親のことって知ってる?」
「昔柊くんがお母さんが音楽で有名だって言ってた気がするけど……」
「そうだったの? というか、私はもしかしてここにいないほうがいいかな……?」
「ううん。大丈夫だよ。千奈ちゃんの言った通り、僕のお母さんは音楽界でそれなりに有名だったんだ。小さいころから音楽に触れてたこともあって当然のように僕も音楽に興味を持った。千奈ちゃんと出会ったのはそれから少し後のことだね」
その頃のことは覚えている。
確かにその時はちゃんと音楽が好きだったはずだから。
「僕が音楽に興味を持って、ピアノを始めて、そうしたら恥ずかしいけどお母さんはすごいって褒めてくれて、それがすごく嬉しかったんだ。……でも、僕がピアノを弾くたびにお母さんは厳しくなっていった」
そこからの話はこうだった。
柊くんのお母さんが次第に厳しくなっていくことで、その教育方針についていくことができなくなり音楽がだんだん楽しくなくなってきたこと。
それから少し経って柊くんのお母さんが倒れ、今は病院に入院していること。
そして、柊くんのお母さんは脳に重度の障害が見つかり、徐々に記憶がなくなっていること。
自分が好きだったのも、自分が大切にしていたもの、自分の実の子供のことさえも。
「今思うと、僕はずっとお母さんのためにピアノを弾いていたのかもしれない。でも、僕は厳しくなっていくお母さんを見てなんで音楽をやってるんだろうって思って、お母さんが倒れて僕のことすらだんだん忘れて行って、最終的には逃げるようにこの学校に来たんだ」
「ちょ、ちょっと待って、今の話の流れってそれじゃあ……」
今日職員室に呼び出されたことを考えるとそれって……。
「……お母さん、意識がなくなったって」
わたしの考えたくなかった答えと柊くんの放った言葉は一致していた。
そしてそれを理解した状態でわたしは……
パンッ!!
その場に大きく響くほど、柊くんの頬に平手打ちをしていた。
「なんでそんな大事なこと最初に言わないの!! 先生! 柊くんのお母さんが入院している病院知ってますか!?」
「あ、ああ。先ほどタクシーを呼んだところだが」
「早く行こう柊くん!!」
「……でも僕は」
「でもじゃないよ! お母さんと会えるのが本当にこれが最後になるかもしれないんだよ!? 柊くんがこれからずっとそれを抱えながら生きていくなんて、わたしは嫌だよ!!」
ほとんど強引にわたしは彩咲先生が呼んだタクシーに柊くんを乗り込ませ、共に病院へと向かうのだった。




