第32話「学園祭準備期間」
学園祭まであと一週間。
代宮高校の学園祭準備期間へと入りました。
この期間中、学校の授業はすべて学園祭の準備に変わり、皆準備に取り掛かることとなる。
わたしたちのクラスは桜田君が提案した『食堂喫茶』に決定した。
そのほかにもいろいろと案は出ていたのだけれど、実際に働いている料理経験者である桜田くんや定食屋の娘である梓ちゃんの影響で決まったようだった。
ちなみに彩咲先生の案である『きゅうり限定喫茶』はクラス全員で却下されていた。
「うーん……」
「どうしたの?」
「いやさ、宣伝用のポスターとか考えてみたんだけど、中々決まらなくてさー。あ、高垣さん描いてみる?」
「え? じゃあちょっとだけ……」
渡されたクロッキーブックにササっと描いてみる。
おぉ?
これはなかなかうまくできたんじゃないかな?
「……高垣さん。ごめんね? もう大丈夫だよ」
「え? えぇ?」
「千奈ちゃーん……なにこれなんか悲惨な絵が出来上がってるんだけど……」
「ちょ! 金森さん!」
わたし、絵心皆無だったのか……。
「……ま、まあ。画力はあっても困らないから! それにしても……ちょっと私も描いていい?」
わたしに多分フォローを入れてくれたんだろうけど結構突き刺さるよ綾乃ちゃん……。
わたしは綾乃ちゃんにクロッキーブックを渡すと、綾乃ちゃんは少し考えたのちに鉛筆を動かしていた。
「できたっ! こんなのどうかな?」
横から見てみる。
……すごくうまかった。
それにただうまいだけではなく、今回の『食堂喫茶』のイメージを取り込んでいる。
「すごい金森さん! 私が想像していたイメージともぴったりだよ!」
その女子生徒の発言を聞いたからか、周りからぞろぞろと人が集まってくる。
「おぉ!? これ描いたの金森か!?」
「すごいな……そうだ金森さん。このクラスの全体的なデザインを考えない?」
姫城くんが綾乃ちゃんに対してそう言った。
確かに綾乃ちゃんのあのセンスと画力をもってすれば人の目を引くこともできるし、宣伝効果としてばっちりかもしれないけど。
「あはは……そこまで言うんならデザイン班に入ろうかなー。でもそうすると後のまとめ役ってどうするの?」
確かに学級委員長である綾乃ちゃんと姫城くんがこのクラスのまとめ役、いわば計画進行として動いていたわけだけど。
「確かにそれもそうか……他に計画進行ができて、まとめられそうで意見をちゃんと言ってくれそうな人……あっ」
姫城くんの目線の先、そこには数学の教科書を片手にクラスの予算を計算している有馬さんの姿があった。
「え?」
そういう状況になれてないないのだろう。
有馬さんは少し固まる。
「有馬さん、もし嫌じゃなかったらだけど、計画進行役として手伝ってくれないかな?」
「いやいや姫城、有馬だぞ? 多分無理じゃ……」
「いいわよ」
「「「えぇーーー!!!」」」
皆一斉に声を上げる。
そっか……わたしは綾乃ちゃんと有馬さんの姫城くんに対する感情を何となく察しているからあれだけど……。
ふと綾乃ちゃんを見てみる。
綾乃ちゃんが今までしたことない顔してるし……。
こうしてデザイン班と計画進行が決まった。
~~
クラスの料理班として桜田くんや梓ちゃんが抜擢されていた。
理由は言わずとも現役でやっているからという理由と桜田君は前回の調理実習で腕が確かだということがすでに証明されていることが大きい。
わたしはというと、料理とかはそれなりにできるつもりだけど、基本的には桜田くんと梓ちゃんがてきぱきと進めてくれるほか、姫城くんも案を出しているようだったので買い出し班などを受け持つことにした。
それに、柊くんも買い出し班だったから。
「柊くん」
「どうしたの? 千奈ちゃん」
「今から画用紙とか買い出しに行こうと思ってるんだけど、一緒に行かない?」
「うん。ここにいても僕は役に立ちそうもないし、ついていくよ」
よかった。
来てくれなかったらどうしようかと思っちゃった。
……なんかちょっと嬉しいな。
~~
わたしたちは二人で100円ショップに向かい、白紙の画用紙など必要そうなものを選ぶ。
今の100円ショップって結構何でも売ってるんだなぁ。
しばらくしてお会計を済ませ、領収書を受け取って外に出る。
「千奈ちゃん、僕持つよ」
「え? うん、ありがとう」
荷物を柊くんに渡す。
そして二人で歩き出す。
しばらく歩いてふと柊くんのことを見ると、柊くんは歩みを止めてお店の方に視線を向けていた。
そこにはショーウィンドウに展示されているグランドピアノがあった。
「柊くん……?」
「……え? あぁごめん。行こうか」
何事もなかったかのように歩き出す柊くん。
その後ろ姿はやっぱり少し寂しい感じがして、わたしは言った。
「柊くん、何かあったの?」
「………」
少しの沈黙。
そして柊くんはこちらを向き口を開く。
「何もないよ」
はにかんだような表情でそう答える柊くんだったけど、わたしには何もないなんて思えなかった。
笑顔なのになんで君はそんなにつらそうなの?
わたしはそれを言葉にすることもできず、ゆっくりと歩き出す柊くんの後を追いかけるのであった。




