第31話「難しい問題」
時は過ぎ、お昼休みが訪れた。
「あれ? 千奈ちゃんどっかいくの?」
わたしは彩咲先生に言われたように自分のお弁当を持って進路指導室へ向かうため自分の席を立ったところで綾乃ちゃんがそう言った。
「うん。彩咲先生とちょっとお話があって」
「ふーん? 梓ちゃん、私もお弁当持ってきてないからお昼ご飯を買いに行ってくるね!」
「はーい。行ってらっしゃーい」
わたしと綾乃ちゃんは教室から出ていくのであった。
~~
「綾乃ちゃん? ずっと気になってたけど売店は逆方向だと思うんだけど……」
先ほど教室を出てからわたしの後ろをついてくる綾乃ちゃん。
学食や売店などは職員室や保健室などのある東棟の1階にあるはずなのだけれど、綾乃ちゃんはわたしについてきているため特別教室棟の西側の4階突き当りに向かうことで段々売店からは離れて行っている。
「千奈ちゃんさ、多分だけど石川君の件で今からどっか行くんじゃないかな?」
「え? うん、そうだけど……なんでわかったの?」
「昨日の話を聞いて今日の朝のみなちゃん先生の話、そして姫城君たちの話を聞いてそうなんじゃないかなって」
全くもってその通りだった。
それにしても綾乃ちゃんにここまで推測されているというのも何とも珍しいというか。
「……千奈ちゃん、今ちょっと失礼なこと考えてない?」
「え!? ごめん」
反射的に謝ってしまう。
「まあ、普段の私を考えれば確かに当然かもしれないからいいけど……それよりも! 石川君の件、昨日の話を聞いちゃった言うのもあって私もちょっと気になってて……ついて行ってもいい?」
「えっと、大丈夫だけど」
「やった! それじゃ早速……」
ぐぅぅぅ―――……。
静かな廊下に響き渡る音。
多分綾乃ちゃんのお腹の音だと思う。
「……ちょっとパン買ってくるね」
「う、うん。わたしは進路指導室前で待ってるから」
「わかった。またあとでね!」
颯爽と走っていく綾乃ちゃん……廊下は走っちゃだめだよ。
わたしは宣言通り進路指導室へと向かうのだった。
~~
進路指導室の前に着いてしばらくその場で待っていると、彩咲先生の姿……と綾乃ちゃんの姿が見えた。
「よぉー。待たせたな」
「さっきみなちゃん先生見つけたから一緒に来たよ!」
わたしの疑問に綾乃ちゃんが真っ先に答えてくれていた。
彩咲先生は持っていた進路指導室の鍵で扉を解錠し、進路指導室へと入っていった。
わたしと綾乃ちゃんもそれに続くように入り、扉を閉める。
進路指導室の適当な椅子に座り、それぞれお弁当などを広げつつ彩咲先生が話始めた。
「さて、大体何について聞きたいのかは見当がついているが、何を聞きたいんだ?」
「はい、柊くんのことで少し」
わたしは彩咲先生に今までの経緯を話始める。
「……なるほど、ふふっ。やっぱりお前たちは似た者同士だよ」
「私と千奈ちゃんが?」
「ああ。自分より先に相手のことを考えて行動してる、そんなところが特にな」
「いまいちピンとこないんだけど……」
「前に綾乃が高垣を助けたことがあったろ? それでお前らは友達同士になったわけだが、高垣は私にお前のことをずっと相談していたんだよ。どうやったら友達になれるかってな」
「あはは……今となってはちょっと恥ずかしいけど」
「そ、そうだったんだ……ってそうじゃなくて! 本題本題!」
脱線していた会話を戻すように綾乃ちゃんがそう言う。
「そうだったね。先生、先生はもしかして柊くんのことを何か知っていて、だから昨日ピアノを弾かせようとしたんじゃないんですか? そうだとしたらわたしはその『何か』を知りたいんです」
わたしが話し終えた後、彩咲先生は少し顎に右手の曲げた人差し指をあてて考え込んでいるようだったが、しばらくして口を開いた。
「お前の言ってることは大方あってるよ。だが、すまないがこれ以上のことになると石川のプライバシーに足を突っ込むことになるから私の口からは言えないんだ」
「そうですか……すいません、ありがとうございます」
プライバシー。
柊くんの変わってしまう要因となる根本がそこにあるのだとしたら、わたしたちではどうにもできないのかな。
そんなの嫌だなぁ……。
昼食もとり終え、一通りの話をできたところで片づけを行う。
「高垣、今お前に一つだけアドバイスができるとしたら、石川とお互い本気でぶつかることだと思うぞ」
「わたしと柊くんがぶつかる……? 突撃しろってことでしょうか?」
「いや物理的じゃなく……お前は多分石川が話す時が来たら話してくれるだろうって思ってるかもしれないが、それじゃダメだってことだ。それに話を聞く限りお前のその気持ちはどういうものかすらわかっていないだろう」
「うーん……あんまりよくわからないですけど」
「まあ……それを理解するのもまた経験だ。失敗を恐れていたら前に進めないってことを覚えておけ」
『失敗を恐れていたら前に進めない』……同じことを綾乃ちゃんにも言われたっけ。
「わかりました。といってもわからない部分もまだあるんですが、とにかく考えてみます」
「おう、それと綾乃たちにも頼っておけよ。今後お互いに必要になるだろうからな」
「そうだよ! 勉強以外なら大抵頼ってもらっていいんだよ!」
「う、うん。その時はよろしくね!」
わたしにとって難しい問題が増えたような気がするけど、もう少し頑張ってみようと思った。




