第29話「学園祭の出し物選び」
10月となり、夏の気配は過ぎ去り過ごしやすい季節となりました。
そんな日々の中、HRの時間にわたし高垣千奈は彩咲先生の話を聞いていた。
「みんなわかってると思うが、もうそろそろ学園祭の時期だ。この時期を楽しみにしていた生徒は多いと思うが今日はその概要について説明するからよく聞いとくように」
クラスの生徒が歓喜でざわつく中、彩咲先生から配られたプリントに沿って学園祭の概要を話し始める。
「まず1つ目にこの学校での学園祭は開催一週間前から準備期間として授業を行わず学園祭の準備に専念する。その間の出席は朝と帰りのHRの時間帯に基本的には担任の教師が確認するからちゃんと教室に集まっておくように。また、基本的には1クラスにつき出店は1つという決まりがあるが、部活をやっている生徒たちはその部でも出店することが許可されているためクラスの出し物に出店できない生徒も出るだろうが、お互いカバーしあって作業を進めるように心掛けること」
学園祭準備期間中は学園祭本番までに集中して作業ができるようにという学校側の配慮なのだろうか、と最初は思っていたけれど、部活をしている人がその部の活動をするとなると1週間という時間は結構シビアになってしまう。
「2つ目は基本的に出店するものはほとんど自由だが、基本的には担任から許可を得たうえで学校側と相談し、学校側が許可した段階でようやく出店できるということを頭に入れてよく考えるように。例として飲食店とかは食物を扱う関係上、生ものとかは難しいから覚えておけ」
なるほど、確かに飲食店で食中毒とかが起きる可能性を考えると、海産物とかの生ものは通りにくいとのことのだろう。
「3つ目は学校側から予算は出るが、そこまで額が多いわけじゃない為、基本的にはコストのかからない程度にみんなで考えて行動してもらいたい。とまあ、基本的な概要はこんなところでいいだろう。早速何を出店するか委員長たちが指揮を取って決めるように」
それだけ言って教卓から窓際のパイプ椅子に座る彩咲先生。
それと入れ替わるようにクラスの委員長である綾乃ちゃんと姫城くんが教卓の前に着く。
「それじゃあ早速出店するお店選びを考えるよ! みんな何かいい案あるかな!」
綾乃ちゃん、すごい生き生きしてる。
きっともうこの時点で楽しいと感じているんだろう。
それはわたしも例外ではなく、ワクワクした気持ちでいっぱいだった。
皆の意見を綾乃ちゃんが聞き入れて、それを姫城君が黒板に書いていく。
喫茶店、お化け屋敷、展示会など様々な意見が出てくる。
「そうだ! 演奏とかどうだ?」
一人の男子生徒、中瀬くんがそう言った。
「えー? 演奏って軽音部とか吹奏楽部とかの特権のイメージがあるけど」
「そうじゃなくて、例えば演奏に交えてダンスとかを組み込んだりして」
「もしかして演劇みたいな感じ?」
「あ、それなら楽しそう!」
「それいいね! でもそうすると体育館とか使うことになるのかな……みなちゃん先生、どうなのかな?」
「……どうだろうな。一応確認はしておくが、あまり期待はしないでくれ」
「それに俺たちのクラスには音楽に精通しているやつもいるんだしさ!」
わたしはその言葉に反応するかのように隣の席の金髪の少年、柊くんを見ていた。
いや、私だけではない。
クラスのみんなが柊くんを見ていた。
「そうか、確か石川ってピアノやってたんだっけ」
「そうそう、私も見たことあるんだけど超うまいんだよ」
みんなが柊くんに対して期待の目を向けている。
でも、当の本人の柊くんは浮かない顔をしている。
みんなは知らないからだろうけど、柊くんは今音楽を離れている。
わたしもそれを意味するのがなんなのかは知らないけど、きっと触れられたくない部分のはずなんだ。
「おいお前ら、あんまり無理強いは……」
「……それがクラスのためなら少し考えるよ」
彩咲先生の言葉を遮るかのように、柊くんはそう言い放った。
「よっしゃ! それなら先生、早速石川のピアノ演奏とか聞けないか? そうすれば内容の方向性が決めやすいかと思うんだよ」
「中瀬お前なぁ……」
「いいよ先生。確かに彼の言ってることはあってるから」
なんだろう。
そう言う柊くんの言葉には感情が感じられない。
ただなるように流されている、そんな感じだった。
「……わかったちょっと確認してくるから待っててくれ」
彩咲先生が教室を出た後も他の案を出し合い、再度彩咲先生が戻ってくる。
「とりあえず音楽室は他のクラスが使ってるみたいだったから、代わりに電子ピアノのある空き教室を使えることになった。石川、それで大丈夫か?」
「はい、大丈夫です」
わたしたちはそれを聞いて空き教室へと向かうのだった。
~~
空き教室へと着くと、そこには椅子が並んでおり、柊くんは電子ピアノの前に立ち音を確かめるように鍵盤を押し込んでいた。
クラスのみんなは教室内にある椅子にそれぞれ腰かけ、柊くんも電子ピアノの椅子に座る。
「曲はどうする?」
「ピアノって言ったらクラシックだろ? ゴッホとか」
「……バッハね。ゴッホは画家。とりあえずバッハに関わらず有名どころいくつか弾いてみるよ」
そう言う柊くんは電子ピアノを弾きはじめる。
柊くんの言った通り、一度は聞いたことがあるバッハのG線上のアリアやパッヘルベルのカノンなどのクラシック曲が流れ始める。
その演奏が始まった瞬間から、クラスのみんなは全員演奏に聞き入っていた。
素人でもわかるくらい繊細な音。
なのになんでだろう。
その音からは楽しさを感じなかった。
~~
その日の帰り道。
結局のところ決まらずに今日は解散となっていた。
現状では柊くんの演奏を聞いた影響もあるからか、演奏演劇の方に傾いているようだったけど……。
このままでいいのかな……。
「ねえ、柊くん」
「どうしたの? 千奈ちゃん」
「柊くんは音楽が今も楽しい? 今日の演奏を聴いてわたしには少しだけ悲しいようなそんな感じが……」
「……音は音だよ。今日もただ音を規則通りに並べただけ。僕はやれることをやるだけだよ」
わたしの言いたいことを遮るように柊くんはそう言った。
その後、誰も言葉を発することなく梓ちゃん、姫城くん、桜田くんと別れ、商店街の方へ綾乃ちゃんと柊くんとで歩いていた。
「ごめん、ちょっと今日は早めに帰ることにするよ」
「う、うん。また明日」
商店街の方へと早足で去っていく柊くんをわたしはただただ見送った。
もしかしたらさっきの質問が悪かったかな……。
「千奈ちゃん、もしかして石川君のこと心配してる?」
綾乃ちゃんが優しくそう語りかけてくれていた。
「……うん」
「そっか。千奈ちゃん今から時間ある?」
「え? 大丈夫だけど」
「それじゃあちょっと寄り道していこっか」
そう言うと、綾乃ちゃんはわたしの手を引いて歩き出した。




