第26話「運動大会二日目(前半)」
「おはよー!」
朝、教室に来た私はそう言葉を発した。
周りからは『おはよう』『おはー』などの返事が帰ってくる。
今日は運動大会の二日目、最終日である。
自分の席を目指して教室にいる人や机の間を縫いながら進んでゆく。
その途中、昨日同様に机に突っ伏している夏妃ちゃんの姿があった。
多分今日も憂鬱なんだろうな……。
「おはよー、綾乃ちゃん」
自分の席に近づくと、梓ちゃんが挨拶をしてくる。
他のみんなは桜田君の席に集まって何かを見ているようだけど。
「うん。みんなおはよー。何やってるの?」
「昨日の集計を見ていたの。わたしたちのクラスは学年で3位、全体で8位みたい」
千奈ちゃんがそう答えてくれる。
そっか、集計結果か……。
「ここから逆転することもまだ全然可能だ。だが勝負は時の運ともいうし、なるようになるだろう」
そう桜田君が答える傍ら、姫城君を見てみると、何かを懐にしまっていた。
そしてワンテンポ置いてから会話に参加している。
少し違和感を覚えたが、こうして運動大会が再開されるのだった。
~~
グラウンドに集まった私たち生徒は校長先生の話を聞き、それが終わった後で再度種目を確認する。
「えっと、最初に短距離走、そのあとに借り物競争、パン食い競争。そこからお昼を挟んで二人三脚とリレー」
「あたしと千奈ちゃんは午後からだねー」
「う、うん。その分綾乃ちゃんを応援しようね」
「それじゃあ短距離走がもう始まるみたいだから行ってくるね!」
~~
圧勝だった。
タイム計測もされていたようで計測をした生徒が私のタイムを見て二度見された。
二位が二階堂さんだったけど、だいぶ大きな差をつけていたようで何も言葉を発さずに去って行っていた。
「現役の陸上部員、それも上級生よりも早いからな金森は」
「これだけ早いのになんで大会とかに出なかったんだろう?」
「多分いろいろ事情があるんだよ」
「そっかー。後で聞いてみようかな」
「あー、楽しかった!」
何かを話していたみんなの元に戻り、適当な場所に腰かける。
「はい、綾乃ちゃん。お茶どうぞ」
「ありがとー」
千奈ちゃんがくれたお茶を一気に飲み干す。
「次は借り物競争だったね」
「それじゃあ俺たちは行ってくるよ」
次の種目のメンバーである姫城君と石川君が立ち上がる。
「二人とも頑張ってね!」
「うん」
それだけ答えてグラウンドの中心へと向かって行った。
そして夏妃ちゃんとせんちゃんも同じように姫城君たちの後をついていった。
「夏妃ちゃん、せんちゃんも頑張ってねー」
「頑張るー!」
せんちゃんが私にそう返して借り物競争は始まった。
~~
最初はせんちゃんと夏妃ちゃんの番らしく、箱の中からお題を引いていた。
「ねえ、綾乃ちゃん。ちょっと聞きたいんだけどさ」
「うん?」
「綾乃ちゃんって足が速いのになんで大会とかで優勝したことないのかなって」
「それは……」
「綾乃」
梓ちゃんの問いに答えようとした時、夏妃ちゃんから声がかかる。
「え?」
「借り物競争のお題。一緒に来て」
「ああ、うん。ごめん梓ちゃん。後でいい?」
「うん。大丈夫だよ」
その場から立ち上がり、夏妃ちゃんと共に審査員のいる場所へと向かう。
「ところでお題って何?」
その言葉を聞いて夏妃ちゃんはお題の紙を見せてくる。
そこには『ライバル』と書かれていた。
「……なるほど」
~~
借り物競争は上々の結果で終わった。
結局梓ちゃんの問いには答えられなかったけど。
「ごめんね。梓ちゃん」
「大丈夫ー。綾乃ちゃんは人気者だね」
「そうなのかなぁ……」
だとしたら少し嬉しいかな。
「それじゃあ次のパン食い競争行ってくるね!」
「多分また圧勝すると思うけど頑張ってー」
そんなことはないと思うけど。
~~
……圧勝した。
「……走りと食を混ぜたパン食い競争は最強?」
「桜田君、何言ってるの?」
「いや、なんでもない」
私が帰ってくると桜田君が何やらよくわからないことを言っていた。
「もうお昼かー。あれ? 姫城君は?」
「紗輝なら少し席外すって言ってどっかに行ったけど」
「そっか。ちょっと探してくるね」
姫城くんを探すため私は走り出した。
「多分すぐ帰ってくる……って聞いちゃいないか」
「なんか今日の綾乃ちゃん運動しているからか生き生きしてるね」
~~
走ってきたのはいいものの、どこにいるか見当もつかない……。
とりあえず周りを見たわすもそこに姫城君がいるわけも……いた!
結構遠いが、校舎の裏へと入っていくのが見えた。
それよりあの場所って何かあったっけ?
まあいっか。
姫城君を追って校舎裏へ向かうのだった。
校舎裏へ向かうと姫城君ともう一人の女の子がいた。
……この風景、前にも見たことがあるような。
「あの、私……昨日の姫城君の球技をしているところを見て、目を離せなくなって……自分でもわからないくらい気持ちを抑えられなくなって」
女の子は何やら若干俯き加減で本当に伝えたいことを言い淀んでいるようだった。
そして思い出す。
この光景は私が姫城君のことをすきだと自覚する前の光景と同じだったことを。
決心がついたかのように女の子は顔を上げた。
「私、姫城君のことがすきです。私と付き合ってくれませんか?」
……またこの感覚だ。
心にズキッと痛みが走るような重い感覚。
姫城君の答えはわからないけど、もしそれを了承したとしたら……。
「ごめん。気持ちは嬉しいけどその想いには答えられない」
そんな私の考えを跳ねのけるかのように姫城君はそう答えた。
少し安堵したが、女の子の気持ちを考えるととても複雑な気持ちだ。
「……ありがとうございます。一つだけ聞いてもいいですか?」
自分の想いを告げた女の子はまだ聞きたいことがあるようだった。
「姫城君は、好きな人がいるんですか?」
ドキッとした。
よくよく考えたら私は自分の事ばかりで姫城君の気持ちを考えたことがなかった。
もし姫城君に好きな人がいたら……。
「……うん。いるよ」
姫城君はそう言った。
私は……頭の中が真っ白になる。
そして気づいた時にはその場から逃げるように走っていた。
どこを目指すわけでもなく、ただ、ひたすらに。




