第18話「夏の終わり」
お盆休みが終わり、夏休みがあとわずかになったそんなある日のお昼。
特にやることも無かった私は自分の部屋でテレビのチャンネルを切り替えて面白い番組を探していた。
平日のこの時間帯のテレビ番組と言ったらドロドロの昼ドラや最近のニュースについて議論する番組だったりだ。
しばらくチャンネルを変えていくと、一つの番組に目が留まる。
内容は過去のピアノコンクールであり、年少の子が弾いている光景だった。
年少ながらその演奏はうまく、正直なところ私には他の子との違いはわからなかった。
しばらくその光景を眺めていると、数多くの参加者がいる中で一人だけ男の子が壇上に上がっている。
男の子がピアノを引き始めた瞬間、雰囲気が変わった。
その旋律は他の子とは違って繊細であり、クラシックをそんなに聴かない私でも聴き入っていた。
しばらくしてテーブルに置いてあるスマホに着信が来ていることに気づき、テレビを消音にして通話を始めた。
私は忘れていた。
……いや、本当は気づいていたのかもしれないが目を背けていたのかもしれない。
それを通話の相手、千奈ちゃんが気づかせてくれた。
『……というわけで、夏休みの宿題を梓ちゃんも誘ってやろうと思ってるんだけど』
「……うん。助かるよ」
『だ、だけどまだ場所が決まってなくて』
「だったら私の家に来る? 今日は家に私一人だし」
今日はお父さんは仕事、お母さんは町内会の用事とかで今家にいるのは私だけだった。
そんな暇な状態で千奈ちゃんに宿題のことを思い出させてくれたおかげで暇ではなくなったわけだけど。
『う、うん。わかった。それじゃあ梓ちゃんと一緒に綾乃ちゃんの家に向かうね。あとで住所とか送ってもらっていいかな?』
「はーい」
通話を切り、私の家の住所を千奈ちゃんに送る。
千奈ちゃんたちが来るまでに少し時間があるし、軽く部屋の掃除でもしようかな。
~~
一通り自分の部屋の掃除が終わったタイミングでチャイムが鳴った。
急いで玄関へと向かい、玄関の扉を開けるとそこに梓ちゃんと千奈ちゃんがいた。
「こ、こんにちわ綾乃ちゃん」
「あづいー……」
梓ちゃんがめちゃくちゃ暑そうだ……。
「こんにちわ。暑かったでしょ、入って入って」
「お、お邪魔します」
「お邪魔しまーす……」
二人を私の部屋へと招き入れ、飲み物を持って二階の自分の部屋へと持って行く。
「あぁー……文明の利器って素晴らしいねー」
クーラーに対して賞賛の声を上げていた。
確かにここの所、35度を超えるレベルの猛暑であったためこうなるのも無理もない……のかな?
「あ、そうだ。アイス買ってきたんだよー」
「おぉ!」
「綾乃ちゃんにはこれ。チョコジャンボモナカ!!」
「なんで私の好みがわかったの!? ありがとう!!」
これめっちゃおいしいんだよね。
「……綾乃ちゃんの好みは見てれば一目瞭然だと思うんだけどなぁ」
このままアイスを食べてしまうと宿題が始まら無い為、一階のキッチンにある冷蔵庫の冷凍室に受け取ったビニール袋ごとアイスを入れて戻ってくる。
「そ、それじゃあ始めていこうか」
千奈ちゃんの発言により、宿題を行うのであった。
~~
「ふぅ……だいぶ片付いたね」
「まさか綾乃ちゃんが宿題を全くやっていなかったなんてびっくりしたよー」
「でも千奈ちゃんの教え方がうまかったからどうにかなったよね!」
「あはは……」
夏休み前半の学校へ登校していた(言い訳)ということもあり、忘れて溜りに溜まっていた宿題が数時間でどうにかなってしまった。
それにしてもやっぱり千奈ちゃん勉強教えるの上手だな。
「私がここまで勉強を理解したことってあったかな」
「それは言い過ぎだと思うよ?」
「いやいや、千奈ちゃんの教え方がいいんだと思うんだけど」
「そ、そんなことは……でも、長い時間やってたし少し休憩しようか」
「あ、そろそろアイス食べよっか。持ってくるからちょっと待っててね!」
部屋を出て一階のキッチンにある冷蔵庫の冷凍室からアイスの入ったビニール袋を取りだし、再度部屋へと戻る。
「お待たせ。それじゃあ私はチョコジャンボモナかもらうね!」
自分のアイスを取りだし、残りのビニール袋を二人に渡す。
それぞれアイスが行き渡ったところでみんなで食べ始めた。
「やっぱり夏はこれだよね! まあ冬でもよく食べるけど!」
「あはは、綾乃ちゃんらしいね」
「そう言えば綾乃ちゃん。花火大会の時のことなんだけど」
ぶふぉっ!!
梓ちゃんの唐突のセリフに噴出してしまう。
「ごほっごほっ……ごめん、そこにティッシュあるからとってもらっていい?」
「う、うん」
千奈ちゃんにティッシュを取ってもらい私がまき散らしたものをふき取る。
幸いにも誰にもかかっていなかったようだった。
「……その反応、絶対紗輝と何かあったでしょ?」
「い、いや? 何も、ないよ?」
「……視線こっち向いてないけど」
確かに完全に梓ちゃんから目をそらしているけど。
実際私はあれ以降、姫城君を意識しすぎて会うどころか自分から会話ができていない状態だった。
まあ姫城君は予定があるとも言っていたのだけど。
「まあ無理にとは言わないけどねー」
「なんか最近私ばっかり自分のこと話している気がするけど……あ、梓ちゃんは桜田君のことどう思ってるの?」
少しだけ仕返しと言わんばかりにそう言ってみる。
よく考えたら私は二人のことをあまり知らない気がする。
「うぇ!? ど、どうって?」
「見てる限りだと、二人とも仲がよさそうだからどうなのかなって」
それは以前から疑問に思っていたことだった。
一番初めのテスト勉強の時、姫城君は何かに気づいていたみたいだったけど。
「うん。あたしと翔は仲がいいよ。でもそれだけ」
心なしかその質問に対して梓ちゃんの表情は少し寂しさを感じさせていた。
「え? そうなの? てっきり梓ちゃんと桜田君はお互い好き同士なのかと」
「あ、綾乃ちゃん……かなりぐいぐい行くね……」
……確かに踏み込みすぎたかな。
「確かにあたしは翔のことが好きだけど、たぶん翔はあたしに対してそういう感情ではないと思う」
そういう感情?
つまり好きだけどそうじゃないとか?
「つまりはそうことなの! はい、次は千奈ちゃん!」
「え!? わ、わたし!?」
いまいちよくわからない状態で千奈ちゃんにパスされていた。
今までの流れ的に恋愛的内容の話になるわけだけど、千奈ちゃんにはそのイメージがわかないというか。
「わ、わたしは綾乃ちゃんと梓ちゃんみたいな好きとは違うんだけど、小さいころによく一緒に遊んだ男の子がいたの」
「それって、小さいころの友達?」
「うん」
少し、安心した。
身構えてしまうことで他人と距離を置いていた千奈ちゃんに一人でも気の許せるような人がいた。
それだけで安心だった。
「その男の子は一人だったわたしに声を掛けてくれて、わたしはいつもみたいに身構えていたけど、それでもその男の子は逃げたりせずにちゃんと向き合ってくれたの」
その男の子は私と同じように見かけだけで判断せず、本心を知りたかったんだろうか。
「それからずっと遊んでいたのだけど、その子は夏休みで近くに来ていただけですぐにいなくなっちゃったんだけどね」
「そっか……」
「でもね、その子は『またね』って言ってくれたの。もしかしたら次に会うときにはわたしのことを覚えていないかもしれないけど、もしまた逢えたらまた一緒にいたいなって」
そう話す千奈ちゃんは嬉しそうで、前に比べてとても前向きだった。
「こう思うことができたのも、綾乃ちゃんと会うことができたからだとおもうの」
「そ、そうかな? なんか照れる」
私は前に千奈ちゃんに言ったセリフを思い出していた。
『なんなら高垣さんがもっと他の人と話せるように私たちが協力していくよ!』
友達を作るのが苦手だった千奈ちゃんがここまで前向きになれたのは本当に私のおかげなのだろうか。
だとしたらこんな私でも誰かのためになれるということがとてもうれしかった。
「よし! それじゃあ千奈ちゃん次は化粧を覚えようか!」
「あ、調子に乗り始めたねー」
「お化粧……わたしにできるかな」
一通りの説明を行い、実際に化粧をしてみることに。
~~
「……これは、うん」
「なんというか……」
正直に言ってしまうとひどい。
なんというかシンプルに化粧が濃い。
「ごめん……最初に私がやってあげるべきだったね」
千奈ちゃんのメイクを落としながら謝罪する。
「……すでに自信をなくしてきたのだけど」
「大丈夫だよー。あたしも化粧できないし!」
「多分それは自身もっていうセリフではないと思うよ」
メイクを落としきり、私が千奈ちゃんに施すメイクはナチュラルメイクだ。
下地にファンデーションを薄く延ばしてベースメイクを作り、アイシャドウを塗って大きめの目を作る。
次に眉を整えて軽くチークを入れる。
「こんなものかな?」
「わぁー、すごい」
「これがわたし……? 違和感がすごいけど」
鏡を持った千奈ちゃんがそう答えるが、特にシミもなく全体的に整っていた分かなりやりやすかった。
「後は髪型とかを少し変えてみたりすれば違った自分を演出できるよ!」
「そうなんだ……綾乃ちゃんってすごいね! わたしにもできるようになるのかな……」
「千奈ちゃんこのまま学校行ったらみんなびっくりするかもねー」
「あ、それいいね! 登校日の朝に千奈ちゃんちに行っていい? メイクしてあげるよ!」
「えっと、大丈夫だけど……それじゃあお願いしようかな」
きっとみんなびっくりするだろうな。
それが少し楽しみとなった一日だった。
―――
「よっと……これで全部かな」
多めの荷物を持って僕は歩き出す。
少し歩いて僕は振り返る。
僕が生まれ育った家。
楽しかったことや悲しかったことを思い出させるその光景。
その家に背を向けて再度歩き出す。
「さようなら」
最後にそう告げてもう振り返ることなく、石川柊は再び歩き出すのだった。
どうも月見です。
夏もそろそろ終わりを迎えますね。
お盆休みがあった影響で投稿がかなり遅れた気がしますが、
本編の1年生の夏も終わり、何かが始まりそうな感じがしますね。
今回の話の最後に出てきた少年の正体も次回明らかになると思います。
めっちゃ短いですがこれくらいで〆させていただきます。
今後ともよろしくお願いいたします!




