第17話「君と一緒の花火大会」
「ふぅ……これでおしまい!」
夏休み中の学校のお手伝いが終わり、一息つく。
なんだかんだ言ってクーラーの効いた部屋でみなちゃんとおしゃべりをしながら書類作成やなんやらをしていたわけだけど、これはこれで結構楽しかった。
「お疲れ様。まあここまで頑張ってくれたわけだし、学食でなんかしら奢ってやろう」
「やったぁー」
みなちゃん先生の言葉に甘え、学食へと向かうのだった。
~~
学食へ着くと夏休みということもあり、人だかりがいつもできている平日とは違い数人の生徒や職員がいるだけだった。
さっそく私とみなちゃんは食券を購入し、出てきた食物を開いているテーブルへと運ぶ。
「……みなちゃん、それおいしいの?」
みなちゃんの目の前にある食物、それは丼に大量のきゅうりが敷き詰められていた。
「見た目と偏見でものを語るのはよくないぞ」
さらにとどめと言わんばかりに丸々一本のきゅうりを丼の中心に突き刺すみなちゃん。
この時点ですでに意味が分かんないのだけど、あれきゅうりの下にご飯敷き詰めただけの料理なんだよね。
「私には水っぽくなってるしゃきしゃきの触感が混じったご飯のイメージなんだけど……」
「食べてみなければわからないだろ?」
そう言ってそのきゅうり丼を食し始める。
「このしゃきしゃきのきゅうりの下に広がるきゅうりの水分が落ちてご飯がべちゃべちゃになっていて口に広がるのは水分の感覚……やっぱり別々に食べたほうがうまいな」
「ですよね」
というよりどうやってそんなものを頼めたんだろう。
呆れながら私も目の前にある冷やし中華と親子丼を頂く。
「んー、やっぱり冷やし中華は夏の風物詩だよねー」
「ところでお前はいつものメンツと遊びに行かなくていいのか? 高校生の夏休みなんてあっという間なんだからやれることはやっておいた方がいいぞ」
「……それ手伝いさせた生徒に言うセリフじゃ無いと思うんですけど」
「あっはっは、でもまあいい経験にはなっただろう?」
「まあそうですけど。それに、今日はみんなと花火大会に行く予定なんですよ」
それは先日姫城君に誘われた花火大会。
数日前にスマホでみんなのグループチャットに今日の18時に神社から少し離れた場所にある噴水広場に集合との連絡があったのだ。
「お、いいじゃないか。楽しめよ」
「もちろんですよ」
そのあと少ししてから私は学校を後にした。
~~
その日の夕方。
時間にして18時。
待ち合わせの時間丁度に私は噴水広場近くにいた。
キョロキョロと周りを見渡してみんながいる場所を探す。
程なくしてみんなを見つけ、慌ててかけて行く。
「お、おまたせ! 待ったかな?」
「わー、浴衣だ!」
「わ、わたしたちもさっき来たばっかりだよ」
このメンバーで私以外は全員私服だった。
私はというと、なでしこ柄の青い浴衣を着つけ、お母さんに何度か確認してもらった後、髪型をシュシュで一本結びにしておさげにしている。
「……浴衣は私だけだったか」
「え? でも可愛いよ浴衣姿」
「か、可愛いと思う」
「似合ってると思うぞ? な、沙輝?」
ちらっと姫城君を見る。
「うん。とっても似合ってるよ」
少し目を逸らしながらそう答えていた。
姫城君に言われるとみんなが言ってくれるよりちょっと嬉しい。
「それじゃ、早速行こうぜ」
桜田君が先導を切ると、それに続けて神社へと向かうのだった。
~~
神社前へ到着すると、神社の敷地内はかなりの人だかりが出来ていた。
「やっぱり人多いねー……」
「祭りだからな。そんじゃ俺たちも中に入ろうぜ。腹減ったし」
「私も!」
神社の敷地内には沢山の屋台が出店しており、その中でも美味しそうな匂いがする屋台の影響で私の食欲がさらに増幅していた。
「よし、じゃあとりあえず飯の屋台でなんか買うか」
「桜田くん…綾乃ちゃんは既に三つ目の屋台で買い物してるみたいだよ」
「おまたせ! それで食べ物系の屋台に行くんだよね? どこから行こうか?」
フランクフルトとイカぽっぽとたこ焼きを持ちながらそう答える。
「まだ食べるの!?」
「ははっ、いつもながらすごい食欲だね」
しばらく屋台を回っていると、見知った顔を見つけた。
「あれ? 夏紀ちゃんにせんちゃん?」
夏紀ちゃんとせんちゃんは私と同じように浴衣を着て花火大会に来ていたようだ。
「あー、あやっちも浴衣だ! 可愛い」
「ありがとー。二人も可愛いよ」
夏紀ちゃんは桜柄の赤い浴衣、せんちゃんは蝶柄の黒い浴衣を着ており、少し悔しいくらいにとても似合っていた。
「そこの若者達、良かったら私の出店も見ていかないか?」
声のした方向、そこにはクラス担任のみなちゃんが屋台を開いていた。
「えぇ!? 何やってるのみなちゃん!?」
「見ての通り屋台を開いている」
「へぇ、先生何の屋台やってるんすか?」
みなちゃんの屋台ではりんご飴、チョコバナナ、かき氷の他にメジャーな食べ物のお品書きが並んでいた。
「……割と本格的だな」
「確かに先生にしてはまともだねー」
「と、とりあえず何か頼んでみようよ」
「それじゃあ私はりんご飴頼もうかなー」
みんなそれぞれ注文していく中、私と姫城君だけは注文していなかった。
「お前らはいいのか?」
「ちょっと様子見ようかなーなんて」
「……俺もそんな感じで」
「……そうか」
少し悲しそうな顔をしたため、ちょっと罪悪感がある。
どうやらみなちゃんの屋台は注文を受けてから作るらしく少し待っていた。
そして数分後。
みんな注文していたものが出来上がり、みなちゃんから受け取る。
「いっただきまーす」
シャリッ!
梓ちゃんの頼んだチョコバナナからあり得ない音がした。
「「………」」
全員無言になる。
「これ……きゅうりだ」
「いやいや、さすがにたこ焼きは大丈夫だろう」
ジャリッ。
桜田君のたこ焼きからなぜか変な音が聞こえる。
「タコじゃなくてきゅうり入ってる……」
「………」
その後、他の人たちの食べ物には必ずきゅうりが入っていたのだった。
買わなくてよかったと思う綾乃と姫城だった。
~~
「……口直しに何か買うか」
「……うん」
みなちゃん先生の屋台から離れ、桜田君はそう発していた。
ちなみに夏妃ちゃんとせんちゃんは他によるところがあるとかで別れた。
「それじゃ、俺と金森さんは花火見れる場所でも探しておくから、後で合流しよう」
「あぁ、頼んだ」
梓ちゃん、千奈ちゃん、桜田君の三人はそれぞれ他の屋台へと向かって行った。
「それじゃあ行こうか」
「そうだね」
少し歩くと、同じ思考の人たちが多いのか人通りが多くなっているように感じる。
ふと隣にいる姫城君を見るが、そこには誰もいなかった。
「あれ? 姫城君?」
まさかこの人混みにのまれてはぐれた……?
そう思った瞬間、急に手を引かれ、その反動で足がもつれて引かれた方へと倒れこんでしまう。
「だ、大丈夫!?」
目の前には姫城君の顔があった。
どうやら私は完全に倒れたわけじゃなく、姫城君の胸元に寄りかかるような形になっていたようだ。
「あ、ありがと……」
よく考えるとこの状態は抱きしめあうような感じになっている。
それを自覚したからだろうか。
私の顔がだんだん赤くなっていくのがわかる。
「あ、その、えっと……」
「と、とりあえずはぐれないように大通りに出ようか」
私の手を引いて歩き出す姫城君。
そうか。
好きだとはわかっても、こんなに接近したことはなかった。
それが私が本当の意味で姫城君のことを意識し始めた瞬間だった。
ふと姫城君の横顔を見てみる。
心なしか姫城君の顔が赤いような気がしたのだった。




