第9話「違和感?」
「おー、千奈ちゃん髪がサラサラになったね」
時期は6月。
昼休みに梓ちゃんと共に千奈ちゃんの髪を梳かしながら私はそう呟く。
最初に梳かした時に比べてかなりサラサラになっており、櫛がよく通る。
さらにくせっ毛になっていた部分も改善され、きれいなロングストレートが出来上がっている。
「ふ、二人が言ってくれたようにお手入れしてたから……」
「んー……やっぱり千奈ちゃんって表情とかまだ固いよねー」
確かに今までに比べてマシになったとはいえ、梓ちゃんの言うとおり千奈ちゃんはまだ固い。
「多分人前に出ることが少ないからだとは思うけど、うーん……何か人前に出るようなことってあるかなぁ」
腕を組んで少し考える。
「とりあえず髪型変えてみたりとかしてみよう! とりあえずいつも目元が前髪に隠れているから出す感じで!」
「え、えぇ!? あの、これは、他人を睨まないようにするために……」
「あ、ヘアピンと髪ゴムあるよー」
梓からヘアピンと髪ゴムを借り、千奈の前髪を左右に流してヘアピンで留める。
その後、後ろ髪を首元より下付近で束ねる。
「おー、これだけで印象がずいぶん変わったね! かわいいよ!」
「千奈ちゃんきれいだよー」
「え、えっと……そう言われるとなんか恥ずかしい……」
顔を赤らめながら俯いてしまう。
本当にかわいいんだけどなぁ。
「そう言えば最近この時間帯に姫城君たちあんまり見ないね」
「あー、それは翔が『高校生になったし学食とか行ってみたいよな!』って言って紗輝も連れていかれてるみたいだよ」
「が、学食かぁ……」
確かに私たちは大抵いつもお弁当で学食へ行くことはあんまりない。
「じゃあ今度みんなで一緒に行こう!」
「うん。そだねー」
―――
5限目が終わり、休み時間。
とはいっても6限目が体育であるため、着替えて校庭へと向かわなければならない。
私たち3人も更衣室で着替え、校庭へと向かう。
「体育は私が最も輝ける授業……!!」
「綾乃ちゃん、勉強もがんばろーねー」
校庭へ着くとすでに何人かの生徒は集まっており、体育担当のみなちゃん先生も校舎から出てくるのが見える。
それと同時に授業開始のチャイムが鳴り、授業が始まった。
「それじゃあ、男子と女子それぞれ分かれて一人二組のペアを作れー。まずは準備運動から始めるぞー」
二人一組かー……ん?
「……私、他の人捜してくる!」
「あ、綾乃ちゃん」
梓が声を発したときにはすでに綾乃はペアを探しに行っていた。
しばらくペアを組んでいない人を探していると、ミディアムストレートの髪型でメガネをかけた少女が一人でいることに気づく。
この子は確か有馬夏妃さん。
顔立ちが整っており、少し近づきがたい雰囲気を出しているため声を掛けにくいが、他に一人の女子がいなかったこともあり、勇気を出して声を掛けてみる。
「あの、有馬さん」
「……ん?」
「もしペアが決まってないなら私と組みませんか?」
「……そう。いいわよ」
気のせいか、なんだか少し威圧を感じた気がする……。
何はともあれ私たちが最後のペアだった為、みなちゃん先生の掛け声により準備運動が始まるのだった。
「それじゃあこれからグラウンド10周を行う。休憩しながらでも構わない。終わったものはそのまま休憩や球技など好きにやってていいぞ」
程なくして準備運動が終わりみなちゃん先生がそう言うが、周りは不満の声を上げていた。
「えー、持久力ない奴めっちゃ不利じゃんー」
「グランド10週とか鬼かよー」
また、一部の人たちはそれに反して歓喜の声を上げている者もいる。
「じゃあ10週をちゃっちゃと終らせてみんなでサッカーしようぜ!」
「お、いいね。俺らも混ぜてくんね?」
「まず10週誰が早く終わらせるか競争しようぜ!」
校庭のトラックは見た感じ1週200mといったところだろう。
中学時代に陸上をしていた綾乃にとって、10周は日常的に走っていたため大したことも無く終わってしまうだろう。
早速走りながらそんなことを考えていた綾乃の正面に先ほどペアを組んだ有馬さんの姿が見える。
ぜぇぜぇとすでに体力を切らしているのか息遣いが荒くなっている。
「だ、大丈夫……?」
私の問いかけに対し、俯き気味だった顔が少しこちらを向く。
「声……かけないで」
「……え?」
唐突に言われたセリフにより、綾乃の言葉が止まる。
「………」
「ごめん……」
しゃべりながら走るということは普通に走るよりも体力を使う。
それに気づかずに声を掛けてしまったのは間違いだったかもしれない。
「それじゃあ、先に行くね」
そのまま走り抜け、少し走ったところで梓と千奈の姿をとらえた。
ただ先ほどのこともあり、走ってる人に対して声を掛けるべきか少し迷う。
「金森さん」
前方だけを気にしていたため、いつの間にか隣にいた人物に声を掛けられ、一瞬ビクッとなる。
「びっくりした……姫城君?」
「うん。金森さんはやっぱり結構余裕ありそうだね」
「……うん。でも私が余裕でも他の人たちが余裕がないからしゃべれないし、なんか今は複雑かな……」
「そっか……それなら自分のペースじゃなくて相手のペースに合わせてみたらどうかな? 金森さんってよく自分のペース
で行動してる気がするし」
言われてみればそうかもしれない。
早速目の前の二人に合わせて行動してみよう。
「それじゃあ俺は先に行くね」
「うん。ありがとう」
ペースを上げて加速していく姫城君を少し見届け、前方の梓ちゃんと千奈ちゃんに声を掛ける。
「二人とも調子はどう?」
「わたしは大丈夫。でも梓ちゃんが少しバテてきたみたい」
「あ、あたしのことはいいから……二人は先に……」
「大丈夫だよ。少しペースを落とそっか」
先ほど姫城君に言われたように梓ちゃんが走りやすいペースに調整する。
「あ、ありがとう。でも綾乃ちゃんはもっと走りたいんじゃ……?」
「確かに全力で走るのは楽しいけど、やっぱり誰かといたほうが楽しいかなって」
「そっか。綾乃ちゃんがそれでいいならあたしもうれしいけど、もし走りたかったら気にしなくても大丈夫だからね」
それからしばらく梓ちゃんのペースで走り、授業時間を残り10分ほど残して10周を走り終えた。
そして、残り数名になったトラックには有馬さんの姿もあった。
―――
翌日。
いつもと同じ授業風景。
私は先生の話に耳を傾けながら、窓際の一番前の席にいる有馬さんを見ていた。
改めて見ると、やっぱりかわいい子だと思う。
……でも、なぜだかよくわからないけど違和感がある気がする。
授業が終わり、クラスのみんなは次の授業の準備をして教室を出て行く。
「綾乃ちゃーん? 次移動教室だよー?」
「うん」
そういえば移動教室だったっけ。
「まだいかない?」
「うん」
「わ、わたしは今日日直だから早めに行って準備してくるけど……」
「うん」
「……綾乃ちゃん、すごいボーっとしてるけど、先行ってるよー?」
「うん」
相槌を打っている綾乃にそれだけ伝え、二人が教室から出ていく。
残された綾乃は、相変わらず有馬の方を見ていた。
ずっと見ていると、何やら他の女子生徒と世間話をしている。
だがそれも少ししたら終わり、次の授業の準備をして教室から出て行く。
「金森さん、金森さん!」
「……え?」
ボーっとしていた影響か、いつの間にか隣にいた姫城君に気づかなかった。
「早くいかないと次の授業始まっちゃうよ!」
「え? あ!!」
急いで用意して教室を出る。
「っと、ちょっと待って」
急に姫城君が止まる。
何かが落ちていたようで、それを拾い上げる。
「それは?」
覗き込むと、それはかわいい柄の入った細いシャーペンだった。
「これ、たぶん有馬さんのかな」
「え? そうなの?」
「おそらくね。多分困ってるかもしれないし、後で返しておこう」
宣言通り姫城君は移動先の教室で有馬さんにシャーペンを渡していた。
有馬さんのその顔は、先ほど女子生徒と話していた時には見せなかったような笑顔だった。
私はその光景を見て、何か自分自身に突き刺さるような違和感を覚えた気がした。




