表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

童話(対象年齢:小学校中学年~大人まで)

ゆびとそろばん

作者: Kobito

 ある日の、お昼休みに、ゆびとそろばんが、長机の上の陽だまりでくつろぎながら、こんな話をしていました。

「おいらももうずいぶん前から、時代遅れだの、骨董品だの、嫌味を言われ続けてきたがね、こうやって、子供にも大人にも、使われ続けているところを見ると、まあ、おいらの事を悪く言ってた連中こそ、見当違いだったって事だろうね。」

「そうでしょうね。この教室も、けっこう繁盛しているようですし。」

「そうそう。そろばんはね、指先を使うからね、右脳に良いらしいよ。若い人は、判断力が身に付くし、大人は、年をとっても、けないんだって。みんな言ってるよ。それなのにね、悪く言う連中にかぎって、『もうみんな、そろばんなんか使ってないでしょう。』なんて言うんだ。おいおい、もっとよく見ろよ。お前さんが知らないだけだろう。お前さんの知っているみんなは、本当のみんなじゃないだろう。」

「ここではみんな、そろばんを使ってますからね。」ゆびは、前方に並んだ長机の上に置かれた、大小さまざまなそろばんたちを見渡しました。

「そうよ。おいらは、間違った事は言わないよ。筋の通った事だけを言うんだからね。まあ、連中の言いたい事も、分かるよ。確かに、電卓がありゃあ、大抵の計算には事足りるさ。でもね、だからといって、そろばんをお払い箱にする権利なんか、連中にはないんだからね。」

「そうですよ。電卓には電卓の、そろばんにはそろばんの、良さがあるんですからね。」

「うん。」そろばんは、嬉しさに右端の玉を一つぱちんとはじきました。

「おっと、先生が戻って来たぞ。」

 ゆびやそろばんと同じように、がやがやおしゃべりをしていた、大人や子供の生徒たちが、「やあ、お待たせ。」と言いながら用事から戻って来た先生を、「お帰りなさい。」と言いながらわきへよけて、教室の奥へ通しました。

「ええと、じゃあ、始めますよ。用意は良いですか。」

 先生は、教本を開いて、みんなが落ち着くのを待ってから、

「願いましては、三円なり、六円なり、二円なり、ひいて四円なり、五円なり、くわえて八円では。」と大きな声で問題を読み上げました。

 先生の声に合わせて、教室にはパチパチと、そろばんをはじく音が響きました。

 あれ、先ほどのそろばんは、机の陰で、指折り数を数えるゆびを、口をへの字に曲げて、見下ろしています。

 先生が、気が付いて、そのゆびを、のぞき込むと、「あら、そろばんで計算しなきゃ、だめだよ。」と言いました。

 ゆびで数えていた子供は、ばつが悪そうに、先生を見上げて、「指で数えた方が、早いもん。」と言いました。

「せっかく、おじいさんから立派なそろばんを、頂いたんじゃないの。だんだん、上手くなったら、指で数えるより、早くなるよ。さ、やってみよう。」

 先生にうながされて、子供は仕方なさそうにそろばんを持ちました。

 ゆびは、顔を真っ赤にしながら、「ええ、ええ、これからですよ。」と、おずおずそろばんに耳打ちしました。




挿絵(By みてみん)




評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[一言] 擬人化すると面白いモノはたくさんありますね 今のアニメの主流の一つのような気がします そろばんは指の動きに合わせて脳が反応するので見え無くても検算出来るようです 極端な所、眠った状態でも指…
[良い点] そろばんに着目しているところが新鮮で良いと思いました。 ほんわかした空気に癒やされます。 [一言] 私もずっとそろばんを習っているので、そろばんというテーマが面白く読めました。
[良い点] 普通 ふたりの会話という形なら ゆびとソロバンだけの物語として完結するのだけど この物語にはもう一人、登場人物がいるらしい… 先生が話しかけていた小さな男の子は ソロバンが少し苦手…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ