第1話 禁忌の存在
時は西暦3000年。人々は「新人類」と呼ばれ、各個人が別々の能力を持っていた。
戦闘に適した能力、救護に適した能力、日常生活を手助けする能力など様々な能力があった。
能力によって人々はランク分けされていた。このランク分けによって人々の中に格差が生まれた。上位ランクの者は下位ランクの者を差別していた。特に最下位に近づくほど扱いは最悪だ。
そんなランク分けがされるこの世界に1人の少年がいた。その少年はいつもこんなことを呟きながら歩いていた。
「なんで僕はこんなに弱い能力なんだろう。」
いかにも泣きそうな声でいつも何度も呟いている。
この少年はスロット。この世界最下位ランクに振り分けられた最弱能力の持ち主。
「落ち込むな。いつかお前も上位ランクになれるさ。」
親はそんなことをいつも話すが、そんな話は信じられるか。何年たっても上位ランクどころかひとつもランクが上がらない。
彼の能力は他人の能力の表面コピーを行う能力。一見強そうに見えるが、そんなことはない。表面コピーという名の通り、表面だけコピーする。いわゆる幻のようなものだ。
相手にすぐ見破られてしまうため、あっさりと負けてしまう。これが世界最弱の由縁である。
だがスロットには不思議に思うことがある。1年に数回彼を見た人が、
「あの人、もしかしたら世界を滅ぼすかもしれないわよ。とても危険な存在ね。」
「そんなことあるわけないじゃない。彼は世界最弱の新人類よ。そんな人が世界を滅ぼせるわけないじゃない。考え過ぎよ。」
「それがあり得るかもしれないのよ。私の能力に異常がなければ、彼はあの能力の持ち主かもしれないわ。」
「あの能力ってまさか禁忌の能力のこと?」
「そうよ。禁忌の能力を保有する禁忌の存在ってことよ。」
と会話しているのだ。
スロットも聞いたことはある。この世界にあるとされる禁忌の能力。その能力は世界を瞬く間に滅ぼし、人類を滅亡させるものらしい。そして、その能力者を禁忌の存在というそうだ。
「僕が禁忌の存在であるはずがないよ。そんな恐ろしい能力の持ち主なら上位ランクなはずだよ。僕は最下位ランクだ。関係ない話だ。」
そう言い聞かせながら歩みを進めて行く。