夏の月明かり木曜日。
『夏の昼下がり日曜日。』のお祭り後編です。
ぜひとも『夏の夕暮れ木曜日。(前編)』と『夏の夜のはじめ木曜日。(中篇)』をご覧になってからお読みください。
――私の中のあなたは、昔から変わらない幼なじみのまま。……だけど……。
小さな星が輝きを増す、漆黒の空。
すでに神社の奥の広場では盆踊りが始まっていて、音頭や和太鼓、楽しそうな声が聞こえてくる。
一方、屋台の連なる道はさっきまでの混雑が嘘の様。屋台の方も一息ついていた。
……そんな中、石段で一休みする私たち。
「〜〜はぁ。楽しいね、お祭り!」
神社の少し奥にある、末社の石段。
あまり人気はなく、辺りにいるのは私たちだけみたい。
普段なら真っ暗なのだろうけれど、今日は提灯や屋台の灯でぼんやり明るくなっていた。
「……俺はちょっと疲れた」
ため息混じりに呟く梢君。
……そう言って、ちゃっかりと私に膝枕させているのが梢君らしい。
私は恥ずかしいから嫌って言ったんだけど、駄々こねられた結果がこれ。
だから疲れたといいながらも、その端整な顔は嬉しそうに微笑んでいた。
まぁ……しょうがないか。梢君頑張ったし。
私は梢君のサラサラな黒髪を撫でてあげながら、右手に提げた透明な袋を眺めた。
――光を淡く反射しながら、すいすい泳ぎまわる、2匹の金魚。
梢君の金魚すくいの賞品で、赤い小さな金魚と黒い出目金を一匹ずつもらった。
ひらひらと小刻みに尾ヒレを動かしては袋をつっついていて、とても可愛らしい。
……とはいっても、実際にすくったのは2匹だけじゃない。
梢君が、あまりにすくいすぎてしまったため、水槽に返してこの数になった。
だって、――……さすがに40匹も、飼えないから。
水に入れただけでやぶいてた昔とは違い、的確な手さばき。
毎年同じ屋台のおじさんもすっごく驚いていて。
だって、本当、去年とは全く比べ物にならない程すごかったんだもん。
普段よりも数倍真剣な表情。繊細な手つきで次々とすくっていくその動き。
掛かる黒髪に、いつもと違う浴衣姿。……そして、真っ直ぐなまなざし。
――すごく、格好よかったな……。
40匹すくい終わった時には、周りの人も拍手喝采だった。さすが梢君。
……だけど、さすがに全部は持って帰れないので、2匹だけもらってあとは水槽に返した。
まぁ、梢君はせっかくつかまえたのに、ってぼやいていたけど。
「……それにしても……梢君、いつこんなに上手くなったの? 金魚すくい」
前髪を撫で上げてあげながら尋ねると、そっと切れ長の瞳が見上げてきた。
去年までは本当全然だったのに、一体何があったんだろう。
「わからない?」
「? うん」
首を傾げると。
「そう。よかった。……じゃあ、秘密」
「ええ? なんで?」
尋ねると、梢君は膝に頭を乗せたまま、人差し指を立てて見せた。
「……内緒だよ。特に君にはね」
聞きたかったけど。
――その後、すごく優しい目で見つめられて、問い詰めることはできなかった。
一体、何があったんだろう。
それに、内緒と言えば、二人っきりでお祭り来たかった理由も聞いてないし。
「梢君……」
……しかし、梢君は言うつもりはないらしく、満足した顔で目を閉じてしまった。
「しょうがないなぁ……」
言わないと決めたことは、どうあっても自分からは言わない性格の梢君。
それを私が知ってるとわかってて、こんな態度をとるんだから。
まぁ、私も問い詰めるのって嫌いだし……。
仕方なく、そのまま頭を撫でてあげていると。
……なぜか聞こえてきた、寝息。
……え……まさか。
こんな時、こんな場所で寝ないよね。
――でも。目を閉じている梢君からは、あきらかに寝息が聞こえてくる。
「梢君?」
耳元で名前を呼んでみる。……しかし、全く反応なし。
もしかして、寝てるふり?
軽く頬をつっついてみたり、試しにくすぐってみたけれど、顔をしかめるだけで目を閉じたままだった。
……寝ちゃった。
普通、お祭りの最中に寝るかなぁ。
……でも梢君なら普通にありえることで。
「もう……自分勝手なんだから」
やっぱり傍若無人な梢君に、ため息をついた。
――……二人っきりって自覚あるのかな?
まぁ、膝枕はある意味二人っきりだからできるのだろうけれど。
すると。
「……あれ? そこにいるの、梢ちゃんたち?」
横から聞きなれた声が聞こえてきた。
この声は……。
振り返ると、そこには。
「やっぱり! 遠目でもすぐわかったよ! このバカップル!」
「……おばさん!」
はちまきがカッコイイ、粋な法被姿の……梢君のお母さん。
毎年町内の役員としてお祭りに参加していて、いつも元気ハツラツなおばさんである。
……毎年一緒に来ていたけれど、今年は別々になったから会えないかと思った。
と、梢君がまだ膝で寝ているのに気づき、慌てて起こそうとする。
しかし、おばさんは私の隣に座ると、からからと笑って制した。
「あーいいよ、あたしなんて気にしなくて! 今起こされたら梢ちゃんも拗ねるだろうし」
「う……すみません」
さすがお母さんだけあって、梢君のことよくわかっていた。
……いつも思うけど、梢君はお母さんと正反対な性格だよなぁ。
梢君は誰より物静かだけれど、おばさんは誰より元気な人。だからこそ、逆におばさんも好きで。
「それにしても、梢ちゃんたら彼女ほったらかして寝て! ごめんね、面倒かけちゃって」
「ううん、こんなの大丈夫です。というかおばさんの方こそ大丈夫ですか? ……お祭り会長」
「全然! 楽しくて会長でも物足りないね!」
そう言うと、おばさんは轟くような大きな声で笑った。
おばさんは今年、町内のお祭りの実行委員の会長を勤めることになっている。
……しかし、やっぱり梢君のことが気がかりな様。
ばれないようこっそり見に来たのだと言う。……まぁ、梢君が寝てるようだからここにいるけれど。
「けど、本当にだいじょうぶかい? 面倒だったら、帰ってもいいんだからね」
「そんなことないですよ? 今年は拗ねてないし。……まぁ意地悪は変わらないけど」
昔から一緒なおばさんだから、その意地悪の内容もだいたいわかるのだろう。
おばさんはからかうように微笑んだあと、そっと頭を撫でてくれた。
「まぁ可愛いからいじめたくなるんだろうね。浴衣、よく似合ってるよ」
「〜〜ありがとうございます」
梢君と同じような台詞。
照れながらも、そんなところが似てるな、と思った。
「はぁ。ところで」
軽くため息をつきながら。おばさんは梢君の浴衣を見た。
梢君は浴衣のまま石段に座り込んで……というより、寝転んでいる。
「――もう、この子ったらさっそくお父さんの浴衣汚して。せっかく借りたのに怒られるわ」
「あ、この浴衣、おじさんのなんですか」
どうりで。いつ買ったんだろうって思ってたけど、おじさんのだったんだ。
「ええ。若い頃のだから、丈もちょうどよくて使いまわしたの! 親孝行者ね!」
「ふふ、そうですね」
それにしては似合ってるから、別に気にならないけど。……きっと顔もお父さん似なんだね。
微笑んでいると、おばさんも優しげに笑いかけてきた。
「まぁ突然浴衣着るなんて言うから、何事かと思っちゃったけど。……やっぱり浴衣でよかったわ」
「? そういえば、なんで今年は浴衣なんだろう。梢君」
梢君は毎年普通の私服で来ていた。小さい頃は無理やりおばさんに着せられて拗ねていたけれど。
ここ10年くらいは着ていないのに、どうして今年は着る気になったのかな。
……おしゃれしたい年頃? そんなことを考えていると。
「いやあね、決まってるじゃない! ……あなたの隣を歩きたいからでしょ?」
「え?」
私服だと歩けないの? ……そういいたげな私に、おばさんは笑った。
「浴衣って一人じゃ格好つかないじゃない? 女の子が浴衣の時は、それに合わせるのが男よ!
……それに、浴衣は男の色気も出せるし、彼女も惚れ直すかも……って、言ったからじゃないかな」
お、男の色気って……まぁ、ちょっとはくらっときたけど……じゃなく!!
「言った、っておばさんの策略ですか?!」
「まぁね。だってー、久しぶりに浴衣姿みたかったし!」
やっぱり、雰囲気がどことなく梢君だ。
「でも、着たいって言ったのは、梢ちゃん自身だからね?
……あれ、ということは梢ちゃんってば、結構男らしいじゃない。やるわねあたし」
「〜〜もう、自分で感心しないでください!」
――あんまり人の話を聞かないところは梢君そっくり。
……それにしても……梢君が、私のために浴衣着てきてくれた……?
そうだったら嬉しいけど。
……こんな風に、膝ですーすー眠ってる梢君が、そんなこと考えてるとは……。あんまり思えない。
「……で、どうだった?」
考え込んでいると、いつの間にか覗き込まれていた。
「? 何がですか?」
突然、悪戯気な笑顔に変わるおばさん。……やな予感。
「梢ちゃんに……惚れ直した?」
「なっ?! ええぇ?! 何ですか突然」
そんな、ストレートに聞かれるなんて。
……って言うかなに? 浴衣の色気のこと?!
私が顔を真っ赤にすると、おばさんは笑った。
「あらー、ダメだったの? しょうがない子ねー。せっかく教えてあげたのに。まぁ2匹じゃねー」
2匹……?
「な、何がですか?」
そっと尋ねると。
なぜか、おばさんの方が驚いた顔をしていた。
「え? 金魚すくい、したんでしょ?」
「え、あ、はい」
隣に置いてあるのをみたのだろう。
……でも、40匹とれたと教えると。
「ま、あたしが教えればこんなものか!」
「え?」
「あ。もしかして言ってない? ……さっすがあたしの子! で、どう? カッコよかった?」
楽しそうに尋ねるおばさん。……おばさんも嬉しいみたい。
「はい。すっごく格好よかったです」
「でしょーね! やっぱり女の子は男の子の真剣な顔に惚れるのよ!」
「〜〜はい……」
「あら、照れなくてもいいのよ!」
……言い切るおばさんに、思わず照れる。
確かに、真剣な表情にも惹かれちゃったけど!
だけど、心の片隅はなんだか複雑だった。
すると、おばさんはそれを感じ取ったのか……。
「――なんで上手になったか、教えようか?」
「え……」
――実は、さっきから気になっていたこと。
思わず顔を上げると。……おばさんの悪戯な微笑み。
「梢ちゃんには教えるなって言われてたけど、もうさっき口滑らしちゃったし。
……これ聞いたら、絶対惚れ直すわよ?」
梢君を起こさないよう、そっと耳打ちされる。
静かな暗闇から虫の声が響いた。
「――あなたに格好いいとこ見せたいからって。
……あたしに、金魚すくい教えてくれって頼み込んできたんだから」
「ええっ……?!」
大声を出しそうになり、慌てて口を押さえる。
――だって……あの梢君が教えを請うなんて……!!
そこかよ? って思うかもしれないけど……梢君知る人にとっては前代未聞のできごと。
昔っから人一倍プライドが高かった梢君。
他人はもちろん、私にさえもあまり『教えて』なんていうことなかった。
まぁ、教えてもらわなくてもだいたいのことならこなせる梢君だけど。(できないことはしない)
……まさか、おばさんに頼むなんて。
――しかもそれは……私のため……。
聞いた時の、あの優しげな瞳を思い出す。
……そんなことしてくれてたなんて、知らなかった。
こっそり教えられた、梢君の秘密。
――……聞き終わった時。
嬉しいと思うと同時に……なんだか、申し訳ない気持ちになった。
……あたりがざわめき始めた。
そろそろ、盆踊りに行っていた人々も花火会場へ移動する時間。
人々の声に眠っていた梢君も起きたらしい。
「〜〜……ふぁ」
「あ、起きた? 梢君……」
眠そうに瞼を擦りながら、辺りを見回した。
しかし、あるのは変わらない神社の風景。
おばさんはとっくに持ち場へ戻ってしまっていたので、私たち以外誰もいなかった。
けれど。
「ねぇ。さっき誰かいなかった……?」
さすが梢君。勘が鋭い。……とは思いつつ、そっと微笑む。
「えと……内緒?」
「……何。内緒って」
不思議そうな梢君をよそに、さらに微笑んでみせる。
……おばさんに、来てたってわかると拗ねるかもしれないから、黙ってて! と言われたから。
バレるかと思い、少し様子を伺ったが。
「……まぁいいや」
梢君が気づくことはなかった。
そして少し浴衣を直した後、梢君はすっと立ち上がった。
「……ほら。花火見に行こう」
「うん」
差し出された手をとる。
花火間近だけあり、さっきとは違って大勢の人が道を行き交っている。
私は離れないようにぎゅっと手を握りながら……ぼんやり、さっきのことについて考えていた。
梢君は……今年のお祭り、私のためにいろんなことをしてくれた。
浴衣に、金魚すくいに。考えたら、この人ごみも頑張って我慢してくれてるんじゃないかと思う。
――なのに……私はどうなんだろう。……梢君に……何もしてあげてない。
そっと、前を歩く梢君の背を眺める。私とは違う、大きな背中。
歩く今も、私が人とぶつからないように気を使ってくれてる。
……子供っぽいのはどっちだろう。
何も知らないで、ただお祭りを楽しんでるだけの私。
――しかも、何かしてあげたいと思っても、何をしてあげればいいのかさえわからない。
こんな私、梢君に必要なのかな。
自分がふがいなく思えてきて。……思わず俯いてしまう。
すると。
「きゃ……っ!?」
砂利道に足を取られて、大きくバランスが崩れた。
――転ぶっ!!
咄嗟にぎゅっと目を瞑る。
……しかし。
覚悟していた痛みはなく。
――代わりに……強く抱きしめられる感覚。
安心したようなため息が、うなじにかかる。
「……何やってるの、君。あれほど気をつけてっていったのに……馬鹿?」
梢君……助けてくれたんだ……。
言いながらも、私を支える手は、少し震えてて。
「……ごめ、ん。馬鹿で。……でも、なんで、助けてくれたの……?」
恐る恐る、見上げると。
……やっぱり、あの優しい微笑みがあった。
「……だって……助けるって言ったでしょ? ……君が、泣かないように」
やっぱり。
梢君はすごく優しい。
私は、迷惑かけるしかないのに。
――自然と……頬に涙がこぼれた。
すれ違う人たちが、不思議そうに眺めてくる。
「……っ、ごめっ」
慌てて、袖で拭おうとする。
……泣いたら、さらに迷惑かけちゃう。
しかし。
……その手は、梢君の手に阻まれた。
「……え……」
「擦んないで、目が腫れる。……こっち」
そのまま人混みから逸れ。
……花火会場とは、全くの逆方向に向かっていく。
「梢君……?! こっち、逆……」
腕をつかまれたまま、ずんずん進んでいく梢君。
暗い砂利道。何度も躓きかけながらも懸命についていく。
すると――……。
目の前には、広い広い原っぱ。
丘のようになっていて、月が幻想的に照らしている。
「……梢君、ここは?」
尋ねた瞬間。
――……大きな、ドーンという音が鳴る。
振り返ると、森の木の陰でチラチラと花火が散るのが見えた。
ここじゃ見えないよね……会場とは正反対の場所だし。
……どうしてここに来たんだろう。
「梢君……」
不安になって振り返ると。
――今度はそっと……抱きしめられた。
「え……」
尋ねるように呟くと。
「――……泣かせたくはないけど。……泣くんなら、俺以外、誰も見てないとこで泣いて」
耳元で聞こえる、梢君の囁くような声。
……その優しさに。
――再び、涙が込み上げてきた。
「っ……梢君……っ!」
……そのまま、泣きつく私。
どんどん涙があふれてきて、なかなか止まることがなかった。
……どれくらいの時間がたったのだろう。
先ほどからの花火の音は鳴り止まないけれど、大分時間が経ったように感じられた。
梢君は私の頭を撫でながら、黙って話を聞いてくれていた。
そして、だんだん気分が落ち着いてきた頃。
沈黙の中、梢君は小さな声で呟いた。
「……君って馬鹿? そんなことで泣いてたの?」
馬鹿、って……。
「……そんな言い方……ひどい……」
……私はすごく落ち込んでるのに。
また涙が零れそうになって、視界がぼやけてくる。
すると、梢君はさらにきつく抱きしめてきた。
「違う。そうじゃなくて。……君は、特別何もしなくても、いつも通りでいいってこと」
「え……?」
見上げると、真っ直ぐな瞳と合う。
「君は……俺が、君に何をして欲しいかわかってる?」
小さく首を横に振る。
――……だって、わかんないから悲しいのに。
「だろうね……」
と、梢君は笑うと……そっと、私の頬に手を添えた。
「俺は別に、君の笑顔があれば十分だなんて、キザなこと考えてない。
……だけど。……君が笑顔なら、もっと嬉しい」
「え、がお……?」
尋ねるように繰り返す。
「まぁね。笑顔だけじゃなくて……怒った顔も、泣いた顔も、全部見たい。
……これで、俺がしてほしいことわかった?」
「……わかんない」
そんなこと言われたって……なぞなぞ? でもないけど、それくらい難しい。
梢君は呆れたようにため息をつくと。
「……本当、仕方ないね。君は」
そう言って。
――こつん、と、額と額が合わせられる。……涙の跡を、あったかい手が拭っていった。
「――側にいてほしい。……でしょ。今まで何回君に言ったと思ってる?
……それが、俺が君に一番して欲しいことだよ」
「……梢君……っ」
思わず抱きつくと。嬉しそうに微笑む梢君。そのまま、さらに強く抱きしめられた。
「梢君……私、梢君のそばにいたい」
「そんなこと言われたら、君の事、絶対離さないよ……? 嫌いになっても後悔しないでね……?」
「嫌いになんて、ならないよ……」
……だって、梢君のこと大好きだもん。
重なる鼓動の音と、あたたかな体温。何よりも心地よくて……安心する。
――子供っぽい梢君。
私にとって、梢君の側にいられることが幸せで。
……それが、梢君の一番してほしいことだと言うなら。
子供っぽい私でも……側にいてもいいかな。
――それは、すっごく幸せなことだと思うから。
私はそっと、梢君の腕の中に身を預けた。
……だけど。
しばらくそうしていた私は……なんだか不安になった。
「梢君は、それだけで……いいの?」
抱きしめられたままの体勢で問いかける。
私がずっと梢君の側にいる。それは、梢君が優しくしてくれることと同じくらい大切なこと?
梢君が優しい方が、なんかもっと大切な気がして。
……すると。
梢君は……意地悪げに笑った。
あ……なんか嫌な予感。
「そう……なら、もっと何かしてくれる……?」
そっと、耳元で囁いた後。
……頬に手を添えられ……。
そのまま、額に口付けられる。
「っっ〜〜なっ……っっ?!」
突然のことに、真っ赤に上気する私。
しかし、梢君の方はなおも意地悪そうに微笑んでいて。
……やばい。
逃げようと手足を動かそうと思ったけれど……梢君にがっちり押さえつけられてて逃げられない。
「……そういえば、俺が2人っきりで来たかった理由……教えてないよね」
「いいっっ!! 聞かなくてっっ!!!」
すっごく嫌な予感がして、必死に耳を塞ぐけれど。
……梢君の甘い声は……何よりも身体に響いた。
「……こーゆーこと……親の前じゃ、できないからね……」
――降りてくる……熱い唇。
リップ音と共に……私は、リンゴ飴のように真っ赤になった。
……花火の音はまだ鳴り止まない。
丘の上では、その華やかな姿を見ることができないけれど。
夏の月明かり木曜日。――花火より綺麗な月が、私達を照らしてた。
お読みくださりありがとうございました。
えー……今回は色々長くなってしまい申し訳ありませんでした。
このお祭り編はあまり考えないで突発的に仕上げたものなので、後半部分、すっごく苦しかったです。
……が、何とか力を振り絞って書いたものなので、最後の方、少し流れが変だと思ったかもしれません。しかし、あれは苦悩の跡なのでお許しを……!
でも一応書きたいものは書けたので、アドバイスや感想をもらえると嬉しいです。
やっぱりぐだぐだですが、お付き合いありがとうございました!