第二話『ココロアラズキョウキアリ』
『悪縁契り深し』ということわざがある。
意味は悪い縁ほど切りにくいという意味である。
僕はこれだと自分で自負している。
菜季という悪縁から切れず、どんどん悪縁が結ばれていく。
まさに最悪最低非情不必要不可知な縁を初めに結んでしまったからこんなこ
とになるのである。
そんなことを愚痴っていながら(心の中で)、服を着替えていた。
「うわあ~さっすがたーくん!!スーツも似合うねえ♪まるでサラリーマンみたい!!」
「いや、サラリーマンじゃなくて交渉人に見えないとダメだろ」
と、サラリとしたボケにさらりとツッこむ。
そんなたわいもない漫才をしていると・・・まあたわいもない漫才なんてあるかわからないけど
ピンポーンとチャイムが鳴る。
次は曲ではないらしい。
と、そんな馬鹿げたことを心の中でボソリと呟き、扉を開ける。
そこには僕よりちょっぴと低い男が立っていた。
『初めまして鬼流 巧言(偽名)さん』
僕はこの時、絶望した。
先ほどの出来事から一時間。
僕はさっきの考えを訂正しようと思う。
『菜季にいると集まるのでない』 『菜季が集めるのだ』と。
だから菜季の周りにいると、周りのやつは変な奴しかいない。
・・・・いや僕以外か・・・・
変な奴というのは大雑把なものだが、変な奴というのにもいろいろある。
僕はその中の普通というカテゴリに振られる変態なのだろう。
そう・・・青空嵐は変態だった。
青空嵐は『声を出さない』のである。
決して病気とかそういうものではない。
自分から出そうとしないのである。
理由は果たしてなんなのか?
そんなことはどうでもいい。
さて僕は今、第94刑務所第46番拘束室に来ている。
なんて最悪な番号の羅列なのだ。
病院だったら即退院だぞ。
まあ、病院で使われない数字だが。
ここではもうそんな数字なんてものは気にされていないのだ。
なんたって全員死刑判決が出されているためである。
さて・・・
『では開きます』
とスマートフォンに打ち込み僕に見せる。
それを見て、僕は頷く。それを見たあと嵐くんは鉄の扉を開く。
そこには《矛盾殺し》がいた。
体を革の拘束器で拘束され顔だけが視認できる。
あ~怖ッ
「初めまして。有無有無クン。僕の名前は鬼流巧言という」
そう言って名刺を見せる。もちろん手は拘束されているし、名刺は見せるだけとなる。
それを見た有無クンはニヤリと笑う。
「初めまして。巧言ちゃん。あんたは取り調べ役?」
と聞いてくる。
「ええ、そうです。どうやら僕以外にもいたようですが全員病院送りにしたそうですね」
僕に依頼が来たのは正確には回ってきたことになる。どうやら取り調べをしているうちに、逆に精神を犯され精神科に病院送りにしたらしい。
「ああ、俺の話についてこられなくなったらしい。ハッ所詮バカは馬鹿だ・・・・なあ巧言ちゃんよ~」
「なんですか?」
どうやらお話はするらしい。てっきり聞いた限りでは黙秘をずっと続けるのかと思っていた。
まあ、それだったら精神科になんか行かねーか。
「俺のモットーなんだか知っているか?」
「さあ、わかりません」
「『零断一割百殺し』だ。かっこいいだろ?」
と睨みつけながら笑う。
「零は断てないし、一は割る事はできませんよ?それに百人も殺せないでしょう?」
そう俺は緩やかな口調で反論する。
それを聞くと有無クンはニヤリと笑う。
「それができるから《矛盾殺し》って言われてるんだよ」
「なるほどね」
僕は肯定する。
「すべての矛盾を殺す。これでも有無家の次男だからな」
「そういえば、あなた以外の殺人兄妹は逃亡してるそうですね?一体どこにいるんですか?」
殺人兄妹は今やかなり表舞台に現れる殺人鬼として有名である。
長男《表裏殺し》有無 愚狡
長女《黒白殺し》有無 憎愛
次男《矛盾殺し》有無 有無
次女《攻防殺し》有無 未成
三男《善悪殺し》有無 真偽
三女《終始殺し》有無 日月
「ん~っ知ったこっちゃね~な」
有無クンはつまらなそうにぼくの質問に返す。
「巧言ちゃん。闇ってなんだと思う?」
「闇・・・ですか。・・・・そうですね~光と相反するもの。暗いものじゃないんですか?」
「まった~。かあ~つまんねえな!!巧言ちゃん。名前みたいに巧く言葉を操れよ~!!
俺はな闇とは黒い光だと思うんだよ」
「なるほど」
そして自分で名づけたとは言え名前の意味を思うと反省してしまう。
「すいませんね。どうやら私は巧くではなく朽ちる。つまり、壊れた言葉の使い方をしているのかもしれませんね」
僕は自虐的に笑う。
その言葉を聞いた有無クンは、カハハッと爆笑する。
「巧言ちゃん面白いな~。俺が要求していないところで面白いことを言いやがる。巧言ちゃん。君のことはこれから《言霊生かし》と言わせてもらぜ」
「はあ~光栄に思います?でいいんですかね?」
「ガハハッ!!これで俺らと相反する対義の存在になったわけだ!!つまりはライバル!!つまりは友!!つまりは結ばれた存在!!」
「大げさじゃありませんか?」
そう言うと、いいやという表情をする。
「大げさじゃねーよ・・・・なあ、《言霊生かし》。だからよ~教えて欲しいんだけどよ」
そう言って一回言葉を切る。
そしてこう続けた。
「てめえ『何者だ』?」
バレていた。
勿論、自分が交渉人じゃないという事がバレないという可能性はない。
だが、『バレる』という可能性も多くはなかったはずだ。
僕は少々動揺しながら(少々と動揺をくっつけていいか分からないが)切り替える。切り替えるといっても気持ちだけであって、素になりはしない。
そもそも素とはなんなのだろうか?
そんなことを考えようと思っていたが、今はそんな場合じゃないと『切り替える』
「どこでバレたんですか」
僕は眼鏡(伊達眼鏡)をクイッと上げ、冷静に問いかける。
「んなもん簡単だ。お前は主張がない」
「ん?主張?何を言っているんですか?あるじゃないですか。さっきの闇の意味を聞いたとき私は答えたじゃないですか」
「そのあと、お前はなんて言った?『そうですね』と言ったよな。いいか?主張っていうのはな『凝り固まり、間違いに気づくまで持っている意見』のことを言うんだよ」
なるほど・・・・また納得してしまった。
「お前は流され屋だな」
そう言われ、僕は
「ええ、そうかもしれませんね」
と納得してしまった。