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魔の四天王は4人いるのだ

「いい加減にしろ……何度も何度も何度も……しつこいんだよっ!」


 サンが叫ぶ。彼女の周囲に炎が現れ、それは放射線状に広がっていく。魔力を纏ったその紅蓮の炎がマリカに襲い掛かる。火炎が彼女を包み、爆発を伴って吹き上がる。


「……っ!」


 サンは感じた。自らの後ろに現れた『鏡』を。そこからマリカが剣を構えて飛び出す。


 美しい剣。宝石を纏った水晶のような刀身。それを構えてマリカが斬撃を放つ。


「ちっ」


 サンが右手を現れたマリカに向けて炎を放つ。超高温のそれを受ければ剣など一瞬で溶かすはずだった。


 炎が切り裂かれる。サンの放ったそれが真っ二つに両断されて四散していく。サンが歯ぎしりをして羽を広げて距離を取る。マリカはその場に静かに浮いている。魔法の力でそうしているのだろう。


(……四天王のアホどもが合体する技……。だとしても)


 サンは自らの手を見る。全てを燃やす炎が纏っている。


(私の炎を受けることも、ましてや斬るなんてことができるはずがない。あの剣……何か特殊な力がある……のか)


 そもそも彼女の放った全力の一撃を『あの剣』が打ち払った。プラズマを纏った超超高温の一撃をたかが斬撃でどうにかできるわけはない。仮にバオウの持つ冷気を纏わせてもそんなものは焼け石に水のはずだった。


 燃やし尽くせない。それがサンを苛立たせた。彼女の生み出した炎の世界の中心で唇をかんで、マリカを睨みつける。


「お前の力、その剣が生み出しているのか」

「……そう」


 マリカが剣を掲げる。サンからは彼女の表情の半分が刀身に隠れているが、透明な剣の向こうにマリカの瞳が見えた。


「『鏡の魔法使い』の力を使い、『閃光』の剣術で振るう『幻惑』の力。これが私たちの力」


 マリカ達の力を束ねる。それが『ダーク・ユニオン』。その力の結晶として現れたものがマリカの持つ剣である。彼女は静かに言う。


「この力はすべてに新たな形を与える」


 シャドウの力は現実を改変する力


 マリカの力は世界全てを映す鏡の力。


 全てを映す剣。そこに映ったすべてを否定する幻想の剣。


 そしてバオウの剣術。閃光の速度ですべてを切り裂くそれに抗えるものはない。


「この剣は剣の形をして、剣(ツルギ)ではない。力の結晶。目に見えるものが正しいわけじゃない。そう」


 その時、サンにはマリカの声が重なって聞こえた。四天王の3人の声が言う。


「我らの剣を『ヴァニタス・イルシオ』(存在しない幻想)」


 この世界のあらゆるものを両断するのではない。あらゆるものを『両断された姿』に改変される。例えばそれが核融合を生み出す超高温の魔力の塊であろうとその刀身に触れればあらゆる原理を否定して別のものになる。


 サンがマリカを見る。この世界はすでに炎に当たらずとも数百度を超える高温になっている。しかし、マリカの剣に触れている大気の空間だけが穏やかだった。常に世界を改変し続けている力を見て唇をかむ。


「……そんな力、長く持つものか」


 そう言ってサンは笑った。説明をされれば神にすら等しいような力。だが、まだ自分は生きている。そしてそんな力が自由に使えるのであれば世界征服を行うなど容易なはずだと彼女は計算した。その能力の発動には条件があるはずだった。


 事実すでにマリカの体の結合は崩壊し始めていた。わずかにドレスが光になって消えそうになっている。


 マリカの周辺だけ高温から逃れている。つまりあくまで剣に『触れる』ことで改変が生み出される。そしてその力の範囲は限定されているはずだった。それでもサンの魔力もかなり消耗している。しかしマリカ達の力も相当な消費をし続けるはずだ。


「私の炎を斬れるなら。何度でもやればいいっ。黒の太陽の力を思い知れ……!」

「……………」


 マリカが剣を構える。


 ――『ブラック・サン・リアム』


 サンのワールド・エンドの生み出した世界は燃え上がった。あらゆる方向からマリカを襲う炎。あらゆる形を持つそれをマリカは鏡の中に入り回避する。全てを剣で打ち払うには魔力が足りない。


 黒い羽をもつサンは縦横無尽に飛び回り、炎を操る。どこにいても、どこから来ても焼いて堕とすために彼女は魔力の限りに世界を燃やす。高速で動きまわりながら両手を動かす。それは炎を演奏するように。


「あははははは!」


 マグマが柱となって吹き出し。あるいは空から火の粉が降る。地獄の世界。そこを飛び回るサン。彼女が手を振るえば炎が竜の形になってマリカを襲う。だが、この紫の髪の少女は剣を振るえば炎の竜は両断され消えていく。


「…………」

「いつまで続く? 私の世界で」


 サンは空を飛ぶ、羽を広げて。マリカからの距離を取りながら炎を無限にぶつけていく。マリカは襲い来る火炎を切り払いながら、離れていくサンに右手を伸ばした。魔法陣が展開する。


「ミラージュ・レイド」


 マリカの手の先。空に浮かぶ魔法の鏡。その美しい鏡面にマリカの姿が映った時、彼女の姿が世界から消えた。次の瞬間には生み出した鏡の中からマリカが出てくる。彼女の力を利用したワープ。彼女はさらに剣を構える。


「ミラージュ・レイド・エクシミウス」


 剣を中心に魔力の渦。マリカがサンに剣先を向けた時、彼女の影を追うように魔法の鏡が螺旋状に展開される。マリカの体が鏡に映る。それは合わせ鏡のように光の速さで空に昇る。


「……っ。メギド・フレイム!」


 サンが鏡を溶かしつくすために炎を放つ。一瞬遅かった。彼女の側面に剣を構えたマリカが現れた。サンは視線を動かす。殺されると体が警鐘を鳴らした。瞬間に彼女は自らの胸に炎を放った。火炎に胸元が破れ、後方に飛ぶ。


「!」


 斬撃、が空を切りマリカが目を見開く。サンがにやりと笑う。殺意にこもった目でマリカに言う。


「死ね」


 空中に浮かび、さかさまに下がりながら指先をマリカに向けるサン。小さな指から発射された炎の玉。マリカは剣で受けようとして、その手前で爆発する。剣先に当たれば『改変』されるのであればその前に攻撃を完了させる。サンが読み切っていた。だがお互いにダメージを受けた。マリカは小さく悲鳴を上げて下がる。彼女のドレスも肩が破れ、落ちていく。


「はあ、はあ、はあ」

「……っ」


 サンとマリカが空中で対峙する。お互いにボロボロであり、消耗は激しい。


 だが、炎と鏡の魔法が交差する。


 二人は同時に動いた。


 死力を尽くした二人の魔力が輝く。炎が縦横無尽に舞い。鏡の魔法が光となってマリカを運ぶ。互いに相手の攻撃をまともに受ければ致命傷になるだろう。それでも互いに引くことはない。時間にすれば何十秒だろうか、ただその数千倍は濃密さを持っていた。


 しかし、どんなことにも終わりは来る。


「ぐっ」


 炎を受けそこなったマリカが下がる。その瞬間にサンが笑う。ここだと残った魔力を右手に込める。彼女は羽を広げてマリカの上を取る。そして指先を向けた。


「ダーク・フレア!」


 サンは指先に集めた黒い球体。収束した魔力の塊を高速で打ち出す。マリカはそれを剣で受けようとした。その瞬間にサンが邪悪に笑う。


「『ブラック・サン・リアム』よ! 閉じろ、私の世界!」


 ワールド・エンドの解除。


 世界が反転する。壊れた世界が光を失ってすべての音と熱と光を消し去っていく。世界が生み出される瞬間と壊れていく時、その刹那にマリカは何も見えない。何も聞こえない。サンはこの瞬間を待っていた。


 刹那の闇。サンの生み出した魔力の塊は『黒』。闇に溶け込むそれを、マリカに向けて撃ちだした。


 マリカの胸に黒い魔力が直撃する。それは一瞬で燃え上がり、闇の世界に炎を上がる。


「はあはあ、やっと、やっと、殺したっ、あははは、あははははは!!」


 サンは世界が崩れていく中で笑う。


 全ては燃え盛る東京ドームの中央に戻っていく。ぼろぼろのまま肩を抑えて荒い息を吐くサン。


「はあはあ、私の……勝ちだ」

「……それは、どうかなっ!」

「……っ!?」


 振り返った先にいたのは『魔法の杖』を構えた。『鏡の魔法使い マリカ』だった。魔法の杖で物理的に殴ってきた。サンは慌てて転んだ。マリカもたたらを踏む。危うくこけるところだった。


「はあはあ」


 合体が解けていた。あどけない少女の表情に疲れをにじませる。それでも紫の髪がキラキラと魔力で光っている。


「貴様、なんで」

「あの、一瞬に私は私を『改変』した。何も見えないから自分に剣を向けて魔法をかけた。分離してそれぞれ離れるように。……貴方も同じような手を使ったでしょ」


 見ればバオウとシャドウがそれぞれ片膝をついて倒れている。二人とも相当な疲労で立つことができない。だが、それでもマリカは立っていた。サンをまっすぐな瞳で見下ろして言う。足が震えているのは恐怖ではない、疲労の限界だった。それでも悪の少女は膝をつかない。


「この勝負は私の勝ちよ。だから、全部やめてもらう」

「…………」


 サンは言った。


「しつこい」


 頭を抱えて、彼女は叫んだ。羽を広げて炎を体にまとわせる。相当に弱っているがそれでも驚異的だった。


「しつこいしつこいしつこいっ!」

「まだ、こんな力が」


 最初にマリカが思ったのは勝ち負けでも自分のことでもなく。自らの後方で動けないバオウとシャドウだった。彼女は魔法の杖を構えて鏡の魔法を盾にする。


「うあああああ!!!」


 サンの炎が鏡にぶつかり、その勢いでマリカが飛ぶ。


「ぐ、ぐう」


 背中をしたたかに打つ。ゆらゆらと立ち上がるサンはさらに魔力を高める。いや、残った魔力を絞り出している。熱した空気がゆがみ、彼女が右手を動けない3人に向ける。


「こ、こんどこそ、死ね……」

「う、うう」


 マリカは立ち上がる、杖をついてでも。魔力を何とか絞り出そうとするが変身を保つので精いっぱいだった。サンの最後の一撃を防ぐことができるとはおもえなかった。彼女はシャドウとバオウをみた。


「こうなったら、私が盾に」

「はあはあ、なんにゃ……みかん」


 シャドウがうつろな目でマリカを見る。彼女は合体しているときも含めて常に自らの世界に人々を保護している。意識が朦朧としていた。限界は近い。逃げるのは無理だろうとマリカは覚悟を決めた。


「マリカ……」


 バオウが笑う。絶望的状況で彼はマリカに言った。


「案ずるな。すでに感じた。ここに向かう一人の男の力をな」

「……えっ」


 バオウはふっと息を吐く。そして空を指さす。


「天を見ろ、我らは魔の四天王。我らは四人。そうだろう? 戦友はもう一人いるはずだ――」


 全てを打ち消すようにサンが叫んだ。


「しねぇっ!!」


 ――空に影。


 バオウは微笑み、マリカは天を仰ぐ。それに合わせてサンもはっと振り返った。


 バオウの言う通りだった。『魔の四天王』は4人そろって四天王なのだ。バオウとマリカ、そしてシャドウが空を見上げる。東京ドームの屋根から飛び降りてくる影! 両手に鎌を構えた巨大な体躯。


「ぎーちぎちぎちぎちぎちっ!!!!」


 そう、カ・マキリーであった!! 


 ドクター・セレニコに作られたカマキリ型怪人である!! 魔の四天王が4人なのは事実だが、何も関係がない。バオウが勝手に言っているだけである。サンを含めて全員が事態を飲み込めない。


「わははは! セレニコ様もいるぞ!」


 カ・マキリーの背に乗る少女が叫ぶ。


「!?」

「!?」

「!?」

「!?」


 流れ星のようにサンの元に降りたカ・マキリーは両手の鎌を構える。居合をするかのように、腰をかがめてサンに斬撃を放つ。


「ぐあっ!!???」


 何が起こったかわからない顔で背中を斬られるサン。魔力での防御が弱まりドレスが切り裂かれ、地面に倒れる。


「な、なんだ。わ、わたしが、こ、昆虫に? お前ら狙っていたのか」

「……え?」


 サンよりもマリカが呆けていた。頭の思考が追い付かない。カ・マキリーは勝ち誇っている。マリカは「いや、……え?」と言ってバオウを見るが、この男が「なんだ、あいつは……」と驚愕の顔をしている。何の役にも立ちそうになかった。


「ぎーちぎちぎちぎち!!」


 サンがずりずりと体を動かす。今の一撃で魔力が霧散してしまった。まともに戦闘ができる状況ではない。


「この私をどこまでコケにすれば」

「はーはっはっはっ!! げほ、ごほ」


 高い笑い声が響く。全員がそちらを見ればがれきの上で仁王立ちをするぐるぐるメガネの青い髪の少女が一人。白衣にホットパンツとサンダルというちぐはぐな格好をした悪の科学者、ドクター・セレニコが立っていた。カ・マキリーから降りていたのだ。


 ポニーテールが風に揺れている。


 サンが信じられないものを見るように言った。彼女は高速道路で焼き殺したはずだった。


「き、貴様は殺したはず……ど、どうしてここに」

「くくく、悪の科学者である私がマリカ君たちと同じようにワールド・エンドを使えないと思ったことが君の敗因だね。ふふふ、まさか魔の四天王の3人を助けることができるなんて、お金せびれそう」

「お前の能力……どうやって」

「くくく、それは秘密だね。あーはっはっは。まあ、私を倒すには炎がぬるかったということさっ。ちょっとカ・マキリーに助けられたけどね。ふふふ、この私を慕って居ってきてたってわけさ」


 サンはセレニコが苦手であった。苦手というよりも全てにおいて合わない。抽象的でてきとうでありお調子者でありつつ邪悪さも持っている。だが、この死闘の中でいきなり現れた彼女にサンの中の何かが切れた。


「はははは、ははははは」


 膝をついて空を見上げながらサンは笑う。


「私が、この私が、こんなやつすらも、ひとりも殺せなかったとはね。あはは、お笑いだよ。くくく。可笑しいだろう? あははは」


 立ち上がる。その瞳には今までにないほどの敵意がむき出しになっていた。彼女はまだ何が起こっているかよくわかっていないマリカを見た。


「この勝負はお前の勝ちでいい。私は、私がゴミなのだと今わかった。……それでも私はこの世界を燃やす」


 サンの足元が黒く染まっていく。泥のようにあふれ出ていく。カ・マキリーは「やべ」と言いながら逃げ出していく。その中でサンが笑う。マリカは呆然とそれを見ている。


「私は黒の太陽の欠片をコアにした。現身でしかない。黒の太陽の全ては鏡の魔法使いマリカのせいでぶち壊され、完璧には修復はできなかったが、この胸の奥にあるコアで呼べば、『残り』もあつまってくるようにしている」


 セレニコから奪った残りの『黒の太陽』の欠片。それをサンは泥のように溶かして地中深くに隠していた。それを今自分の体を捧げて呼び出している。


 邪悪を煮詰めたような黒。それがサンの足元に広がる。彼女の体がだんだんとその泥の中に沈んでいく。


「マリカもう一度いってやるわ。私の負け。だけど、世界全ては私が壊してあげる。……悔しいけど」


 本当は『ブラック=サン』としての自分が決着をつけたかった。泥の中に取り込まれればもうなにもなくなるだろう。胸の奥に感じる痛みをサンは口に出さず、泥の中に沈んでいく。


 泥が溢れていく。それは高温を持ち、じゅうと周りを溶かしていく。それにマリカははっとした。


「みんな。逃げよう!」


 魔法の杖でマリカが鏡を生み出す。この場にいる全員を映した。


 次の瞬間にあふれ出た黒い泥がドームを埋め尽くした。


☆


 鏡の中からマリカ達が出る。


 東京ドームから少し離れた公園だった。マリカが見ればドームの中心に黒い泥の塔が立っている。それはだんだんと巨大化していく。泥は両手を作り出し、口が開く。泥の化け物は山のような巨大さでドームを取り込んでいた。


『ガアアアアア!!!』


 サンの成れの果てが叫んだ。凄まじい魔力の波。巨大な泥の化け物は先ほどのサン以上の魔力を持っていた。星空の下で化け物がうなる。マスコミのヘリが遠巻きに映像を映している。


「うっ」


 マリカにはわかった、もはやどうしようもない。バオウとシャドウを連れて逃げるべきか、足元に引っ付いたセレニコをどうするべきか。彼女は残った力の使い方を考えていた。今からもう一度の合体は無理だろう。かといって一人でどうにかできるわけではない。


 バオウも立ち上がれないが、シャドウは一言もしゃべれないくらいに消耗している。


「このままじゃ、世界が本当に終わる……」

「黒の太陽を壊したのはマリカ君なんだから、9対1……」


 足元のセレニコが何か言っていた。マリカが反応した。


「も、もしかしてあんた、責任の割合の話している!? あ、あんたがあいつを作ったんでしょうがっ!!」

「わ、わぁあ」


 マリカはセレニコの頬を思いっきり引っ張る。セレニコも普通に引っ張り返してくる。世界の滅亡寸前に醜い争いであった。セレニコはなんとかマリカを振り払う。白衣を直して、ちっちっちと指を鳴らす。


「まあ、大丈夫。こんなこともあろうかと思って3か月前から準備をしていたんだよ」

「準備……!?」

「そう、マリカ君! 今こそ呼ぶんだっ!」

「よ、呼ぶって何を」


 セレニコは両手を組んでふふんと顎をあげて得意げに言った。


「超巨大宮廷合体 ザーングルゴーン・マキシマム をさっ!!」


 マリカはそれを聞いて。


「は、はあ?」


 何のことかわからなかった。


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