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世界を滅ぼすってどうなの?

 黒の太陽の化身であるサンは涙を流していた。


 マリカやレオと敵対した今悪の組織は彼女のことを探しているだろう。彼女はいずれそれらすべてを返り討ちにするつもりだったが、マリカの見せた第二形態ともいうべきダーク・シンフォニアへの対抗策を延々と考えていた。


 玉ねぎをむきながら涙を流す。


「なぜ……涙が……でる?」


 ぐすぐすしながらサンは泣いていた。黒の太陽がこの世界に生まれてどの程度の時が経ったかはわからないが玉ねぎを自分で剥くのは初めての経験だった。


 ここはウィークリーマンションの一室。家具もすべてレンタルの期間限定で借りれる賃貸である。ここが彼女の隠れ家だった。いや、そもそもここを借りたのは悪の組織である。魔法天使マリカとして活動するにあたりここをあてがわれたのをそのまま使っている。借りたのはセレニコのため、絶妙に隠れ家になっていた。


 とはいっても彼女は悪の帝国が来れば始末する程度にしか考えてない。


 ただ、この生活は自炊が基本である。


 サンはエプロンを着て手元にスマートフォンを置いている。流れるのはUtubeの動画『おいしいカレーの作り方』である。


 サンは見よう見まねで包丁を手にして涙ながらに玉ねぎをみじん切りにして、ニンジンやジャガイモなどを切っていく。ちょっとだけ手の先を切ってしまい。涙目で人差し指を咥えてみる。血の味がした。


 これが黒の太陽の末路である。


 セレニコに流し込まれた無駄な知識はだいたいアニメや漫画に偏っていた。なぜかよく食べられているカレーを作ってみようと思い立ってさっきまでスーパーで買い物をしていた。


 カレーのルーだけですさまじい種類がある。様々なメーカーのパッケージの並んでいる棚の前でサンは茫然とした。


 それだけではない。肉も野菜もよくわからないが大量の種類があった。どれを入れればいいかわからずに彼女はスマートフォンでAIに頼った。オリジナルであるマリカも困ったときに同じような行動をしていた。


 なんとか買い物を終えて家に帰ってきて、お米を炊く。これはもう慣れた。びちょびちょだったり無駄に硬いごはんを何度も作った経験に学び、炊飯器の使い方をサンはマスターしている。


「くっ人間ごときができるんだから、私だって」


 お肉だとかを炒めて、お湯を張る。


 そして満を持してカレールーを入れる。サンは意外と丁寧にルーを入れた。お湯に溶けていくカレールーがいい香りを立ち上らせる。


 暇つぶしにスマートフォンで動画を流す。Vチューバ―ものだった。サンにはよくわからないが暇つぶしによかった。


『あれ知っている? 魔法天使マリカってかわいいよね』

「…………」


 画面の向こうの誰かの声にサンは眼を少し背けてほんの少しだけ嬉しそうにした。


 時間はあっという間に流れて初めてのカレーができた。エプロンをとり、お皿にご飯をよそってカレーをかける。ぶつ切りになったでかいニンジンやジャガイモと肉。ただ見事にカレーだった。サンはテーブルについてスプーンでそれを食べる。


「ん!」


 目を開いておいしそうにする。誰もいない今、すごく幸せそうな顔でカレーを食べている。手が勝手にスマートフォンに伸びて動画を再生しながらもぐもぐと食べる。


「……明日は撮影ね」


 与えられた使命である『魔法天使マリカ』を演じる意味はもうない。彼女は黒の太陽としてこの世を滅ぼすことがその存在価値だった。だからこそザングルゴール皇帝も彼女のもとである『黒の太陽』を探していたのだ。だが明日は彼女は出かけるつもりだった。どこかでマリカやレオ達とであってもそれはそれで戦うまでとも思っている。


 『黒の太陽』として気の遠くなるほどの昔から彼女はただそこにいた。存在していることに意味はない。どうやって生まれたのかは彼女にもわからない。だが、生まれたときあからその力を放てばこの世界を焼き尽くす魔力を宿していた。


 本当にわけのわからない経緯で肉体を得た。気に喰わない顔をしているサンは最近のことを思い起こしていた。


 マリカを陥れるためにボランティア活動にいそしんだり。マリカを陥れるためにアイドルのようにふるまってTVに出たり。マリカを陥れるために愛想よくいろんな人物と出会い。自分で料理してみたり、散歩してみたり、買い物してみたり。


「あれ?」


 サンはスプーンを咥えたまま涙を流していた。


「……玉ねぎが残っていたのか?」


 目元をこすってからふんと鼻を鳴らす。彼女はこれから当初の予定通りに人間たちを集めて燃やしつくすつもりだった。ただその時には『鏡の魔法使いマリカ』が邪魔をしに来るだろう。


「正義の味方みたいなことをしやがって」


 そもそもあいつ悪いことをしたことがあるのか? とサンは思った。


「自称悪の魔法使いのくせに妙に魔力だけは強いところがむかつく」


 サンはマリカのむかつくところをいわせたら100個は言える気がした。カレーを食べながら彼女は考えた。


「私の欠片をもう少し取り込まないと力不足か。全力を出せればこの世界ごと燃やし尽くしてやるというのに……あのポンコツのせいで……」


 食べ終わって手を合わせたが「ごちそうさま」は言わなかった。サンは洗い物をしようとしてこびりついたカレーをどうやって洗うべきなのかわからず、水で流そうとした。


「これシンクが汚れるな」


 シンクという言葉を使う黒の太陽の化身はキッチンペーパーで皿を拭いてみる。きれいに取れた後は水で洗っても大丈夫な気がした。


「あっ良さそう」


 それで鼻歌を唄いながら洗い物を終えてサンはソファーに寝転がってスマートフォンをいじくった。この辺りはオリジナルと似ていた。


「あいつも今頃私を探しているのか、この私を始末するために」


 マリカに思いをはせるが、この時間のマリカはフライドポテトをハンバーガーショップで食べている時間だった。


「あいつと私は似ていない……だが決着をつけなければならない」


 『魔法天使マリカ』と『鏡の魔法使いマリカ』の因縁はザングルゴール皇帝の世界征服をマリカが偶然阻止してしまったところから始まっている。マリカが黒の太陽を破壊していなければ今のサンはここにはいない。


 その時、サンは跳び起きた。遠くを見る目をする。


「わかる」


 彼女は立ち上がった。


「私の欠片が近くにいる……誰だ? 私を動かしているのは」


 『黒の太陽』の欠片が近くにあることをサンは感じ取った。彼女はくくくと笑う。


「誰だが知らないが私のためにやってきたな」


 口角を上げて、彼女は笑う。


 終わりの時は近いと彼女は心の奥底で、ほんの少しだけ


 寂しがった。




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