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ここはなにかが欠けている

弟分の言う事にゃ

作者: 浮月重月
掲載日:2026/10/12

「ん?お前もしかして、ロッカか?」


王都の冒険者組合で孤児院時代の弟分を見かけ、思わず声をかけた。


「えっ?バッサルト兄(にぃ)?なんでこんなところに?」


いや、なんでこんなところ、はこっちのセリフなんだがな。

孤児院出てから随分経つから、王都で会ってもおかしくはないか。

ロッカも覚えている姿からかなり背が高くなっている。


「王都までの護衛依頼を受けてて、今完了報告したところだ。

 ロッカお前、王都に来て冒険者やってるのか。知らなかった。

 久しぶりだな、元気だったか?」


「うん、元気元気。あ、こっちにはロド兄もシアン達も来てるよ。

 実はみんなして王立中央学院に通ってるんだ、今」


◆


へっ?一体何があったんだ?


いやロドは分かる。あいつは何考えてるか分からん奴だったけど、

頭は間違いなく良かった。あいつのおかげで食事に肉増えてたし。

野菜だって採れる量が増えたおかげでみんな喜んでたものな。

あのハーフエルフ十二人もロドに教わったせいか頭が良かった。

ロドにめちゃくちゃなついてたから、ついてきたのも分かる。

孤児院の院長先生も推薦したっておかしくはないだろう。


しかし、ロッカまで通ってる?どういう事だよそれは。

こいつ勉強嫌いじゃなかったっけか?頭もそれほど良くは…。


詳しい話を聞こうと、ロッカを誘って冒険者組合の食堂に入った。

注文したものが来るまで、ロッカと向き合って聞き出している。


「ミト姉(ねぇ)と結婚したくて、騎士になろうと思ったんだ。

 で、騎士になるには王立中央学院を卒業しないと難しいらしくて、

 ロド兄達に勉強教わりながら何とか通ってる。


 特待生にはなれないんで、学費とか食事代とかかかっちゃうから、

 ロド兄からお金借りてるんだけどさ」


んー…騎士になりたい、は分かった。

しかしミトと結婚したい、とどう関係しているのかが分からん。

ミトって確か、料理人になりたいって言ってなかったっけか?

まあここにいるのは騎士になるため、なんだよな。うん。


冒険者見習いも続けるためには、月に一度は依頼しないとだから、

王都の冒険者組合に来ていたんだろう。そこは予想出来る。

あとは依頼で稼いでロドへの借金返済ってとこか。


「なるほど、騎士になるつもりなのか、ロッカは。

 そういや院長先生も領主様も騎士だったらしいもんな」


二人とももう、五十歳ぐらいのはずだけど結構がっちりしてたよな。

同じぐらいの年齢の人達と比べても随分と若々しかったし。

ロッカがあの人達に憧れるのは良く分かる。


お、料理が来た。

さすがにここは兄貴分たる俺のおごりだが、高いものは頼んでない。

ロッカも借金持ちみたいだし、このぐらいで充分喜ぶだろう。


「バッサルト兄は、あんまり腹減ってないの?」


む。それはあれか?量をケチってるって遠回しに言ってるのか?

少しイラッと来るな、その言い方は。


「んー、まあそんなところだ。腹減ってるなら俺のも食うか?」


ここは器の大きさを見せてやろうじゃないか。


「いやあ、さすがに人の食事まで奪えないよ。

 オレ出すんでもう少しいろいろ頼もう。すいませーん」


おいおい、借金どうした借金。いくら借りてるのか知らんけど。


◆


結構な量の料理を食うなあ、こいつ。

それだけ腹を空かしていたのか、あるいは何も考えていないのか。

一応忠告はしておくか。逆にごちそうになっておいてなんだが。


「ロッカよお、ロドに借金あるんじゃなかったのか?

 おごってもらっといて言うのもなんだが、見てて不安になるぞ」


ロッカはけろっとした顔で、


「ん?ああ、ロド兄への借金は『出世払い』とかいうやつなんだ。

 返すのは卒業してからでいいよ、って言ってくれてるんだよ。


 なので依頼の稼ぎはオレが使っていいんだってさ」


随分とロドのやつは気前がいいと言うか。

高いんだよな?王立中央学院の学費とかは。確か六年間だっけ?

よく払えるなあいつ。


「ロドも大変だな、おい。特待生ったって金ある訳じゃないだろ」


思わずそう口にしたが、


「いや、ロド兄は今すげえお金持ちだから。だって男爵様だし」


…はあ?


そこからの話はなんかもう無茶苦茶だった。

男爵様って、領主様と同じ爵位じゃなかったか?


ロドが十歳の時にいろいろ手柄を立てて男爵にまでなっちゃって、

その手柄っていうのが最近あちこちで見かける夜間照明とかで、

他にも冒険者階級が上級の五つ星になっているとかなんとか。


俺まだ三つ星なんだけど。しかもロッカがもう二つ星だと。

この四年間で一体何やってたんだ、あいつは。


◆


この後。

バッサルトはロッカに連れられて、ロドが借りている借家へ行く。

借家、というから集合住宅を想像していたバッサルトだったが、

ほぼ領主邸と同等の豪邸だった見た目に仰天する事になる。


屋敷の中で久々にロドやハーフエルフ十二人と久々に顔を合わせ、

四年間に何があったか聞いてまた驚く。


その日一泊する事になるが、なかなか落ち着かず寝付けなかった。


彼は他人を妬んだり弟妹をいたぶったりする男ではなかったが、

この変貌ぶりには何とも言えぬものを感じざるを得なかった。

ロッカに関しては「騎士への不純な道」をご覧いただければ。

バッサルトは孤児院出身の彼らの兄貴分。ロッカより五歳年上。

ロドが進学する少し前に孤児院を出て冒険者の道へ入った。


増えた食用肉はゴブではありません。さすがに食用にはならない。

罠に引っ掛かったシカやらイノシシやらウサギやらです。

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