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『無能と言われた【鑑定士】、実は世界樹の管理人でした 〜パーティーを追い出されたので、辺境で伝説の聖域を作っていたら、聖女や女騎士が「泊めてくれ」と泣きついてきた〜』  作者: やまご
第2章:聖域都市・建国無双編

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第76話:再構築のその先、あるいは真の共同生活――「介護」という名の至福の檻

教会の崩壊と共に降り注いだリリィの「良心」の光。それは、ヒロインたちの魂にこびりついていた「魔王アルスへの狂信」という名の呪いを、春の雪を溶かすように洗い流していった。

 

 瓦礫の山となった広間の中心で、アルスはリリスの腕から開放され、ふらつく足で立ち上がる。

 目の前には、合体魔術(共生結合)が解け、力なく座り込むセレスティア、アイリス、ロザリア、カゲロウ。そして、独裁の権能を失い、呆然と自らの手を見つめるリリスの姿があった。

「……みんな。終わったんだね」

 アルスが掠れた声で呟くと、セレスティアがゆっくりと顔を上げた。その瞳には、かつての濁った暗闇はない。しかし、澄み渡ったその瞳には、これまでの執着とは質の違う、より**「深く、静かな覚悟」**が宿っていた。

「……ええ。終わりましたわ、アルス様。……私たちが、貴方を『力』で支配しようとしていた、あの愚かな日々は」

 セレスティアは穏やかに微笑み、泥のついたアルスの裾を、まるで宝物に触れるように優しく払った。

「……私たちは理解しました。貴方を閉じ込め、壊すことは、貴方の輝きを奪うこと。……だから、もう貴方を縛る鎖も、監視の魔法も使いませんわ」

「……本当か!? じゃあ、俺は自由になれるんだな!」

 アルスが歓喜に震えた瞬間、アイリスが音もなく立ち上がり、彼の反対側の裾を掴んだ。

「……あぁ、自由だ。……貴殿が望むなら、世界の果てまで歩いていくがいい。……ただし、貴殿は今、魔力を使い果たし、食事を摂る気力もなく、服のボタン一つ留めるのにも苦労するほど衰弱している。……そんな貴殿を、誰が支えるというのだ?」

「……え?」

「……アイリス様の言う通りですわ。……主様、貴方はあまりにも『脆い』。……私たちが、貴方の手足となり、目となり、耳となり……貴方のすべての『生活』を代行いたします」

 ロザリアが氷の椅子を再構築し、アルスを優しく、しかし抗えない力でそこへ座らせた。

 

 ――それは、新たな地獄の始まりだった。

 彼女たちの「ヤンデレ」は、暴力的な支配から、**「過保護すぎる献身(介護)」**へと完全に再構築されたのだ。

「……さあ、アルス様。お口を開けて? 私が丹精込めて作った、聖水のスープですわ。……あーん」

「……セレスティア、俺は自分で食べられ……っ」

「……いけませんわ。こぼしてしまったら大変ですもの。……さあ」

 アルスの唇に、強引に(しかし最高に丁寧に)スプーンが押し込まれる。

 アイリスはアルスの足を膝に乗せ、靴を脱がせてマッサージを始め、カゲロウは影の中でアルスの体温を常に最適に保つための「毛布」と化した。

「……リリス。お前……お前は管理を諦めたんじゃないのか?」

 アルスが助けを求めてリリスを見ると、管理者の少女は、無機質な表情のまま「アルスの排泄・睡眠スケジュール」を緻密に書き直していた。

「……マスター。私は管理を諦めたのではありません。……『マスターの意志を尊重した上での、完璧な生命維持』へと方針を転換したのです。……貴方はこれから、呼吸以外のすべての挙動を、私たちに委ねるだけでよろしいのです」

「……ひ、ひゃははは! 傑作だ、鑑定士! ……暴力で縛るより、慈愛で骨抜きにする方が、逃げ出す気力さえ奪えるってわけだ! ……お前、もう一生この椅子から立ち上がれないぞ!!」

 ネルガルが瓦礫の上で転げ回りながら爆笑する。

 

 アルスは、温かいスープを飲み込みながら、絶望的な多幸感に包まれていた。

 痛くない。怖くない。みんなが優しく笑っている。

 だが、自分の指先一つ、自分の意志で動かすことが許されない、「究極の幼児退行ハーレム」。

「……お兄ちゃん。……みんな、すっごく仲良しだね。……私も、お兄ちゃんの頭、撫でてあげようか?」

 リリィがバケツを置いて、アルスの膝に頭を乗せてくる。

 

 第3部、終盤。

 「魔王」でも「不遇な鑑定士」でもなく、**「世界の中心で愛でられる赤子シンボル」**となったアルス。

 このまま、彼は至福の介護の中で魂を溶かしていくのか――。

 その時。

 聖都の空が、前世のアルスガルドの墜落さえも超える「黄金の裂け目」によって切り裂かれた。

「――見つけたぞ。……禁忌のループを繰り返し、因果を汚す『鑑定士』よ」

 雲の向こうから現れたのは、前世でさえ姿を見せなかった、この世界の理を司る**「真の管理者(神)」**。

 アルスの「介護」を巡る、地上の女たちと、天上の神との、最終決戦が始まろうとしていた。

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