番外編:崩壊する『最強』、あるいは身の程知らずの末路
本編をお読みいただきありがとうございます。
今回は番外編として、アルスを追い出した後のSランクパーティ『獅子の咆哮』の視点をお送りします。
「鑑定士一人いなくなったくらいで」……そう思っていた彼らを待ち受けていた、残酷な現実とは。
迷宮都市ゼノス、冒険者ギルド。
かつてそこは、Sランクパーティ『獅子の咆哮』の独壇場だった。彼らが現れるだけで他の冒険者は道を譲り、ギルド職員は揉み手で出迎えたものだ。
だが、今は違う。
「……おい、聞いたか? 『獅子の咆哮』、また依頼に失敗したらしいぞ」
「昨日なんて、ただのオークの群れに追い回されて、装備を全部捨てて逃げ帰ってきたんだってよ。格好悪いよな」
酒場の隅で、冒険者たちがヒソヒソと笑い声を漏らす。
その中央のテーブルで、ガイル、ルナ、そして新入りの聖騎士の三人が、通夜のような顔で座っていた。
「クソッ……! なんでだ! なんで攻撃が当たらない! なんであんな安物の鎧が、一撃でバラバラになるんだ!」
ガイルが震える手でジョッキを掴む。
彼の大剣は、あの日アルスの聖域でへし折られたままだ。今は予備の安物の剣を差しているが、重心がバラバラで、振るたびに手が痺れる。
「ガイル……もう、魔法が撃てないわ……」
魔導師のルナが、泣きそうな声で呟いた。
彼女の愛用していた杖は、アルスが日々魔力の循環を調整していたおかげで「暴発」を防いでいた特級品だ。
それが今では、魔力を流すたびに持ち主を焼く呪いの道具と化していた。
「聖騎士の君! 君の『加護』はどうしたんだ! 聖騎士がいれば、パーティ全体の運気が上がるはずだろう!」
ガイルが新入りの少年に八つ当たりする。少年は青ざめた顔で首を振った。
「無理ですよ! そもそも、このパーティ、基本のメンテナンスが全然できてないじゃないですか! それに、ギルドの鑑定士に見てもらったら……僕たちの装備、全部『呪い』に近いレベルで劣化してるって言われましたよ!」
「なんだと……!?」
「アルスさんでしたっけ? あの人がいなくなった途端にこれって……あの人が一人で、このパーティの『不運』を全部肩代わりしてたってことじゃないですか!」
その言葉に、ガイルとルナは凍りついた。
かつてアルスが言っていた言葉が蘇る。
『この剣はもうすぐ折れる。俺が再構築して、なんとか繋ぎ止めているだけだ』
『君の魔力回路は不安定だ。俺が毎日鑑定して、暴発しないように調整しておいたよ』
当時は「恩着せがましい」と鼻で笑っていた。
だが、現実は違った。
彼らは、アルスという**「最高のブレーキと最高のエンジン」**を積んだ車に乗っていながら、それを自分たちの実力だと勘違いして、運転手を放り出したのだ。
そこへ、ギルドマスターが冷徹な表情で近づいてきた。
「ガイル。残念だが、通告だ」
「……あ? なんだよ、ギルマス」
「お前たちのパーティランクを、SからCへと降格させる。さらに、先日の依頼失敗による賠償金――金貨五百枚を今すぐ支払え。払えないなら、装備を没収し、鉱山送りだ」
酒場が静まり返る。
Sランクからの二階級特進ならぬ、二階級陥落。
「ふ、ふざけるな! 俺たちは王国最強の――」
「最強だったのは、アルス君がいた頃の話だ。彼がいないお前たちは、ただの『声の大きい素人』にすぎない。……おい、衛兵! 連れて行け!」
「待て! やめろ! アルス! アルスさえ戻ってくれば――!!」
ガイルの叫びは、冷たい石床に響くだけだった。
かつての栄光は砂のように崩れ、彼らには絶望と借金だけが残された。
彼らが連行されていく中、酒場の掲示板には、新しい依頼が貼り出されていた。
『緊急調査:辺境の森に突如現れた「世界樹」と、それを守る謎の賢者について』
その報酬額は、彼らが一生かかっても手にできないほどの、莫大なものだった。
番外編、いかがでしたでしょうか。
主人公を失ったパーティが坂道を転げ落ちるように没落していく様を描くことで、アルスの凄さを再確認する回でした。
次回、第6話からは再びアルス視点に戻ります。
「世界樹の噂」が広まり、ついに国の大物が動き出す……!?
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