第28話:エルフの里、空から降ってきた救世主にひれ伏す
第27話では、聖域都市がまるごと浮遊要塞へと進化しました。
時速数百キロで空を駆けるアルスガルドが最初に向かったのは、深淵の使徒に包囲された「エルフの隠れ里」。
地上で死を覚悟していたエルフたちの頭上に、太陽を遮るほどの巨大な黄金の影が差し込みます。
「……もはや、これまでか」
エルフの里の長、大長老は杖をつきながら天を仰いだ。
里の守り神である『世界樹の苗木』は、深淵の呪いによって黒く変色し、今にも枯れ果てようとしている。周囲を囲む魔族の軍勢は、獲物を前にした獣のように嘲笑っていた。
「ククク、森の長よ。その苗木が腐り落ちる時、貴様らの命も――」
魔族が剣を振り上げた、その瞬間。
突如として、周囲の夜の闇を吹き飛ばすほどの**「黄金の光」**が空から降り注いだ。
「な……何事だ!? 空が……光っている!?」
見上げた彼らの目に映ったのは、雲を割り、凄まじい風圧と共に降下してくる**「空飛ぶ白銀の城」**だった。
『――不法投棄された「深淵のゴミ」を確認。吸引、および焼却を開始します』
無機質なアークの声が空から響き渡ると、都市の底部から巨大な光の柱が放たれた。
それは攻撃魔法ではない。アルスが設定した「広域浄化」の輝きだ。
「ぎゃああああああっ!! 溶ける、体が溶けるぅぅ!!」
里を包囲していた数千の魔族たちが、その光に触れた瞬間、塵一つ残さず消滅した。
後に残ったのは、驚きで腰を抜かしたエルフたちと、静かに着陸する巨大な浮遊都市の影だけだった。
◆
「……あ、驚かせてごめん。ちょっと急いでたから、着陸が荒くなっちゃって」
都市のゲートから、アルスがのんびりと降りてくる。その後ろには、アイリスやフィオナたちが「いつものこと」と言いたげな顔で続いている。
「あ、アルス様……!?」
同族の姿を見つけたフィオナが、真っ先に駆け寄った。
「長老! 無事ですか!? ……アルス様、この里の苗木が……!」
「ああ、見てるよ。【鑑定】……。ひどいな、これ。バグだらけだ」
アルスは黒く腐りかけた苗木に手を置いた。
「【存在再構築】――根源修復」
パキィィィィィィン!!
一瞬。
枯れかけていた苗木から黒い霧が弾け飛び、次の瞬間には、元の大きさを遥かに超える大樹へと急成長した。
放たれる魔力の波動によって、森全体の木々が息を吹き返し、エルフたちの傷が一瞬で癒えていく。
「……一瞬で、神域の森に書き換えたというのか……?」
大長老は震える手で地面を触り、そしてアルスの前に跪いた。
「救世主様……。我らエルフの一族、今日この時より、貴殿を『森の神』として崇め、一生の忠誠を誓います……!」
『エルフの里を救済しました』
『世界樹のネットワークが復旧。各地の「バグ」が見えるようになりました』
「神様なんていいよ。……それより、お腹空いてない? うちの街、今ジャムが余ってるから、みんなで食べよう」
空飛ぶ街から大量の食糧と物資が運び出され、エルフの里は一瞬にして「絶望の淵」から「祝祭の場」へと変わった。
一方、天空からその様子を『鑑定』していたアルスは、遠く離れた海を越えた先――「聖教国」の中枢に、巨大なバグの反応を見つけていた。
「……次は、あそこかな」
アルスガルドの旅は、いよいよ世界を揺るがす「聖域化」へと加速していく。
第28話をお読みいただきありがとうございました!
空から街が降ってきて、一瞬で平和にする……これぞ天空要塞アルスガルドの真骨頂です。
エルフたちにとっての「絶望」が、アルスにとっては「ちょっとした修理」でしかない格差がたまりませんね。




