第27話:聖域、空に浮く
第26話では、謎の勢力「深淵の使徒」の第一席・ゼノンを、アルスがその「存在概念」を書き換えることで一時的に退けました。
しかし、奴らが狙っているのは、この聖域だけではありません。
「世界樹が枯れれば、世界が死ぬ。……なら、俺が世界中の世界樹を直しに行けばいいじゃないか」
アルスの、あまりにも短絡的で、かつ壮大な「お引越し」が始まります。
「……主様。ゼノンが残した『深淵の杭』の魔力、各地の微弱な世界樹の苗木を汚染し始めています。このままでは、大陸全土の魔力が枯渇します」
イヴが深刻な顔で、魔力の流れを示すホログラム(アルス製)を見つめる。
世界各地にある「小さな世界樹」が、黒い霧に飲み込まれようとしていた。
「なるほど。……じゃあ、俺たちが直接、助けに行こうか」
「助けに……? ですが主様。ここを空ければ、聖域が狙われます。かといって、移動には数ヶ月――」
「いや、街ごと行けばいいだろ?」
「「「……はい?」」」
アイリス、フレア、そしてフィオナが、揃って耳を疑った。
アルスは庭に降り立ち、黄金に輝く世界樹の根元に手を当てる。
「【広域構造再構築】――飛行属性:『天空の城』への変換」
ゴゴゴゴゴゴ……ッ!!
地響きと共に、聖域都市アルスガルドを囲む白銀の壁が、深く地中へと沈み込んだ。
……いや、沈んだのではない。
都市全体が、巨大な浮遊石へと再構築され、大地を切り離して浮き上がり始めたのだ。
「う、うわぁぁぁ!? 浮いてる! 街が、空を飛んでるわぁぁ!!」
元スパイのカレンが、手すりにしがみついて絶叫する。
高度数百メートル。
雲を突き抜けた先で、アルスガルドは巨大な「飛行要塞」へと姿を変えていた。
世界樹の葉がプロペラのように魔力を放出し、都市全体を優しく、かつ音速を超える速度で前方へと押し出していく。
『都市機能:【天空要塞・アルスガルド】へと進化しました』
『新メニュー:【主砲・世界樹の咆哮】が開放されました(※アルスは「ただの照明」だと思っています)』
「よし、舵取りはイヴにお願いするよ。……まずは、一番近くで悲鳴を上げている『エルフの隠れ里』に向かおうか」
「御意、主様。……全速力で、救済(お掃除)に向かいます」
◆
一方、地上では。
深淵の使徒たちが、次の標的としてエルフの里を包囲していた。
「ククク……。この里の世界樹さえ汚染すれば、我らが主の復活は――」
その時。
彼らの頭上から、太陽を遮るほどの巨大な「影」が降りてきた。
「な、なんだ……!? 空から、街が降ってきているぞ!?」
見上げた彼らの目に映ったのは、黄金の光を撒き散らしながら、雲を切り裂いて突進してくる「空飛ぶ都市」の姿だった。
「……あ、危ないから、そこどいてくれるかな?」
アルスののんびりとした声が空から響き渡り、聖域の底面から放たれた「浄化の光」が、一瞬にして地上の深淵を焼き尽くした。
第27話をお読みいただきありがとうございました!
ついに「家」が「飛行要塞」になりました。
これで世界中どこへでも数時間でお届け(物理)可能です。
アルスの「助けに行こう」という善意が、敵にとっては「空から都市が降ってくる」という悪夢に変わる瞬間でしたね。
次回、第28話。「エルフの里、天空都市のあまりのデカさに腰を抜かす。……そして、アルスが『枯れた世界樹』を1秒で全快させる!」。
お楽しみに!




