第19話:帝国の呪いは最高の肥料
第18話では、帝国最強の戦乙女フレアが朝食の美味しさに敗北し、仲間に(?)加わりました。
三万の軍勢を失い、将軍まで奪われた帝国は、ついに正気を失います。
「物理が効かないなら、呪いだ!」
放たれた大陸最悪の呪いに対し、アルスの【再構築】が唸ります。
「……主様。空の色が変わりました。帝国の魔導師団が、禁忌の儀式を強行したようです」
イヴが空を指差す。
聖域の美しい青空を侵食するように、どす黒い雲が渦を巻き、禍々しい紫の雷鳴が轟いていた。
『極大禁忌魔法:死を招く霧』
それは、触れるものすべての命を吸い尽くし、土地を千年腐らせるという、帝国の最終兵器。
かつて一つの小国を一夜で「死の国」に変えたとされる、最悪の呪いだ。
「ひ、ひぃぃっ! あの雲は……! 帝国が本当にやりやがった! 逃げてくださいアルス様、あれに触れたら魂ごと腐り落ちます!」
元スパイのカレンが顔を青くして叫ぶ。
だが、アルスは動じない。それどころか、その「死の霧」をじっと見つめて……少し嬉しそうに呟いた。
「……なるほど。あれ、すごい密度の『高純度魔力』が詰まってるんだな。……ちょうど良かった、最近、畑の元気がなくて困ってたんだ」
「は……? はたけ……?」
アルスは世界樹の梢に手をかざした。
「【広域再構築】――属性変換:『死』から『生命』へ」
パキィィィィィィン!!
空気が割れるような音が響き、アルスの手から放たれた白銀の光が、押し寄せる紫の霧を包み込んだ。
瞬間。
毒々しい紫の雲は、一瞬にして黄金色に輝く「光の粉」へと分解され、聖域全体に優しく降り注ぎ始めた。
『禁忌魔法を分解・再構築しました』
『名称:世界樹の特製肥料(神話級)』
『効果:植物の成長速度を1000倍にし、果実の魔力含有量を極大化させる』
光の粉を浴びた畑の野菜が、見る間に巨大化し、瑞々しく輝き出す。
枯れかけていた薬草は花を咲かせ、世界樹はさらに一回り大きく成長した。
「……あ、ありえない。帝国の最終兵器が、ただの『肥料』にされた……?」
フレアが呆然と呟く。
彼女たちの常識では、あの魔法は防ぐことすら不可能なはずだった。それを、資源として活用するなど、もはや理解の範疇を超えている。
「よし、これで今年の収穫は安泰だな。……あ、カレン、フレア。あのお礼に、帝国に『お返し』を送っておこうか」
「お、お返し、ですか……?(また掃除機で吸うのか?)」
「いや、向こうも魔力を使い果たして疲れてるだろうし。……これでも送ってやろう」
アルスが【再構築】で作り出したのは、黄金の林檎をたっぷり使った、とびきり甘い『聖域特製ジャム』。
それを、自動防衛ゴーレム・アークの投擲機能を使って、帝国の王宮へ向かって正確に射出した。
◆
数分後。軍事帝国ヴォルガ。
魔力を使い果たして息も絶え絶えの魔導師たちと、絶望に沈む皇帝の前に――。
ドゴォォォォォン!! と凄まじい音と共に、一つの巨大な木箱が突き刺さった。
「な、なんだ!? 爆弾か!? 聖域の報復か!?」
恐る恐る箱を開けた皇帝が見たのは……。
一通の手紙と、眩いばかりに輝くジャムの瓶だった。
『呪いの霧、美味しかったです。肥料として役立てました。お礼に、このジャムを食べて落ち着いてください。――アルスより』
「………………ぐふっ」
皇帝はあまりの屈辱と、そして一口舐めてしまったジャムの「抗えない美味しさ」に、その場で気絶した。
帝国の戦意は、文字通り「甘く」溶かされてしまったのである。
第19話をお読みいただきありがとうございました!
禁忌魔法を肥料に変えるという、アルスらしい平和(?)な解決策でした。
「お返し」のジャムが、帝国の心臓部に止めを刺した形ですね。
次回、第20話。第2章の節目です。「聖域都市に、ついに『冒険者ギルド・聖域支部』が誕生。……そして、アルスに憧れる新米冒険者たちが大挙して押し寄せる!」。
拠点がさらに賑やかになります! お楽しみに!




