第18話:捕虜の女将軍、聖域の飯を食わされてあっさり屈服する
第17話では、帝国軍三万をアークの「バキューム」で一網打尽にしました。
今回は、その中で唯一(?)意識を保ったまま捕虜となった帝国将軍のお話です。
鉄の規律を誇る彼女が、聖域の「甘い罠」にどこまで耐えられるのか……?
「……くっ、殺せ! 帝国将軍としての誇りは、貴様らのような辺境の民に屈することはない!」
聖域の応接間に、拘束魔法(と言っても、アルスが作った『魔力循環を良くする健康ベルト』)を巻かれた女性がいた。
帝国軍・第三軍団長、紅蓮の戦乙女と恐れられる「フレア」だ。
「殺せと言われても困るな。掃除した後の仕分けで、イヴが『この人はまだ使える』って言うから連れてきたんだ」
アルスは困った顔で、焼きたてのパンをテーブルに置いた。
「とりあえず腹が減ってるだろ? 捕虜と言っても、うちは食事抜きなんて残酷なことはしないから」
「ふ、ふん! 毒でも盛るつもりか? 私は帝国で最高の栄養食を――」
言葉が止まった。
アルスが【再構築】で旨味を100%引き出した『世界樹の蜜入りデニッシュ』と、エルフのフィオナが作った『魔導コンロ産・極厚ベーコンエッグ』から放たれる香りが、フレアの理性を強襲したのだ。
「……っ!? な、なんだ、この香りは……。肉が……肉が笑っているような……」
「肉は笑わないと思うけど。まあ、食べてみてよ」
フレアは震える手でフォークを握った。
一口。ほんの一口、ベーコンを口に運んだ瞬間。
「…………っ!!」
彼女の脳内で、帝国の軍歌が消え、祝福の賛美歌が流れ始めた。
噛みしめるたびに溢れ出す肉汁。そしてパンの、雲のように軽やかで甘美な食感。
「な、ななな……何なのだ、これは! これが食べ物だというのか!? 私たちが戦場で噛み締めていた干し肉は、靴の底だったというのか!?」
「あ、美味しい? おかわりもあるよ。セレスティアが淹れた『聖域ハーブティー』もどうぞ」
「……はふぅ。……もう、帝国には戻れぬ……。このような美味を知ってしまっては、泥水を啜るような生活には戻れぬのだ……」
フレアは、ボロボロと涙を流しながら完食した。
帝国将軍としての威厳は、アルスの「朝食」の前に、ものの五分で霧散したのである。
『個体名:フレア(元帝国将軍)』
『状態:完全陥落、主への忠誠心:急上昇、胃袋の奴隷(120%)』
「……主殿。一つ、頼みがある。……私を、ここの『警備員の見習い』にしてはくれまいか? 給料は、三食昼寝付きで構わない」
「え、将軍なのにいいの?」
「将軍など、この至福の前に比べればゴミ同然だ!」
こうして、帝国最強の戦乙女は、カレンに続く二人目の「移住希望者」となったのであった。
◆
一方、軍事帝国ヴォルガ。
「……報告します。三万の軍勢が……消えました」
「消えた? 撤退したのではなくか?」
「はい。……巨大な筒のようなものに吸い込まれ、そのまま……」
玉座に座る皇帝の顔から、血の気が引いていく。
彼らはまだ、自分たちが手を出した相手が「神」の領域にいることを、理解し始めていた。
第18話をお読みいただきありがとうございました!
帝国将軍フレア、即落ちでしたね。なろうにおいて、美味しいご飯と温泉はどんな軍隊よりも強力な武器です。
これで聖域には、隠密と前衛騎士という強力な実務部隊が揃い始めました。
次回、第19話。「帝国の逆襲(笑)。残された精鋭たちが放った『禁忌の呪い』が、アルスの力で『最高の肥料』に再構築される」。
お楽しみに!




