第14話:聖域の昼下がりと、乙女たちの主導権争い
第13話では、エルフの技術によって「聖域グルメ」が完成しました。
今回は、その豊かな食卓を囲むヒロインたちの様子をお送りします。
聖女、王女、精霊、そしてエルフ。
アルスの隣に座るのは誰か? 乙女たちの静かなる戦いが幕を開けます。
迷宮都市への食糧供給を「聖域の管理下に入る」という条件で承諾してから数日。
俺の生活は、これまでになく穏やかで、そして賑やかになっていた。
「アルス様、食後のお茶を淹れ直しました。……エルフの秘伝、月の雫をブレンドした特製です」
フィオナが、エルフ特有のしなやかな動作でカップを差し出してくる。
彼女は最近、工芸師としての仕事の合間に、こうして俺の身の回りの世話を焼くことに命をかけているようだ。
「ありがとう、フィオナ。……いい香りだ」
「ふふ、お口に合って光栄です。……あ、あの、アルス様。お茶菓子に、私が【再構築】された小麦で作ったスコーンもいかがですか?」
フィオナがグイグイと距離を詰めてきたその時。
「あら、フィオナさん。アルス様の健康管理は、聖女である私の役目ですよ?」
セレスティアが、神々しい微笑みを浮かべながら割って入った。
その手には、聖域で採れた薬草をふんだんに使った、見た目も鮮やかなサラダが握られている。
「アルス様、お茶も良いですが、栄養バランスも大切です。……はい、あーん、してください?」
「ちょ、ちょっと待てセレスティア。俺は自分で――」
「いけません。聖女の祈りを込めた食事は、食べさせて差し上げることで効果が倍増するのです(嘘)」
セレスティアの目が、いつになく真剣だ。
そこへ、中庭で剣の素振りを終えたばかりのアイリス王女が、汗を拭きながら加わった。
「ふむ……二人とも熱心だな。だが、アルスに必要なのは『強靭な肉体』だろう。……アルス、午後は私と手合わせをしないか? 汗を流した後の温泉は格別だぞ。……もちろん、背中を流してやっても構わん」
「「「アイリス様!!?」」」
フィオナとセレスティアが同時に声を上げる。
王女様、さらりととんでもない提案をしないでほしい。
「主様。……皆様がこれほど熱心なのは、主様がそれだけ魅力的な証拠ですね」
イヴが俺の背後でクスクスと笑いながら、肩を揉んでくれる。
彼女は精霊としての余裕か、一歩引いたところでこの状況を楽しんでいる節がある。
「……なんだか、追放される前より忙しい気がするな」
「それは『幸せな悩み』というものですよ。……ですが主様、平穏な時間も長くは続かないようです」
イヴの視線が、聖域の入り口へと向けられた。
そこには、一人のドワーフが、巨大なハンマーを杖代わりにしながら、フラフラと歩いてくる姿があった。
「……お、おぉ……。ここが、伝説の『神の金属』が湧き出すという聖域か……。頼む……ワシに、一打ちさせちくれ……」
どうやら、聖域の噂を聞きつけた「変わり者」が、また一人引き寄せられてきたらしい。
第14話をお読みいただきありがとうございました!
ヒロインたちの「あーん」合戦、書いているこちらも楽しくなりました。
アルスの自覚なきモテっぷりが加速していますね。
次回、第15話。第1章の最終回です。
「ドワーフの老鍛冶師、聖域の素材に感涙する。……そして、ついに『聖域都市』の建国を宣言!」。
物語は大きな節目を迎えます。お楽しみに!




