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第二話

 柔らかな天井照明に照らされたシンプルな廊下。

 大会の全てのイベントが終了してスタッフの動きにも一段落がついた中、ラ・ムルシエラゴのオーナーであるホセ・エクスぺランドは、山梨ほたるのスタンバイルームを訪れた。

 付き添いと待っていたほたる。

 立派な個室で彼を迎えた電動車椅子上の眼鏡の少女は、そのアームレストにホタルゴゼンを腰掛けさせていた。割れたバイザーはまだ交換されていない。

「あなたがホセ・エクスぺランドさんですね。大会前夜セレモニーでお姿を拝見しました。私が山梨ほたるです」

 ポルトガル語で喋ったのはホタルゴゼンだった。ALSによる筋力低下で喋れないオーナーの代わりに、翻訳した合成音声を外付けマイクロ・シンセサイザーで発したのだ。ほたるの手元のタブレットは少女のアイコン注視で作成された文章を発音する。発声アプリは『初音ミクⅢ』。

「優勝おめでとう」

 心の底から祝福した日本語がラ・ムルシエラゴによって伝えられた。このドローノイドによってホセのポルトガル語は翻訳されている。

 彼が捧げた赤い薔薇の大きな花束を受け取れる筋力は今のほたるにはない。

 ホセの四肢はラ・ムルシエラゴにそっくりな義手義足なのだが、健常者と比べて動作に何の遜色もない。

 可動義手義足は世界各国のドローン・レスラーの試合によって集められた実践的な動作データが蓄積されている。その洗練によって世界の医療技術は二一世紀に飛躍的進歩を遂げていた。

 小型の人型ドローンを操るドローン・レスリング。その全世界的流行と社会進出は、身体障がい者の義手義足等補助機器やコミュニケーションの介助機器の発展に多大なる恩恵を与えていた。義手義足やバランサー、インタフェースの技術更新はドローン・レスリングの進化に貢献し、また、そのフィードバックで医療界を急速進化させている。高度な人間補助機の更なる成長はドローン・レスリングの流行なくしては考えられなかった。

 六分の一の身長はバディという名のミニ・ヘルパーとしてオーナーの身の回りも世話していた。リング上の操縦モードから自動AIモードに切り替えられたドローン・レスラーは、オーナーの生活をサポートするヘルパーとして日常空間を共にしていた。屋内外で重度身障者のオーナーを介助し、食事やコミュニケーションを助け、スマホやPCを操作する。

 現在、身障者は人型ドローンという自由に動く、長く精密な手足を手に入れていた。。

「ラ・ムルシエラゴの発展機が来月、宇宙ミッションの為に宇宙ステーションに上がるスペースシャトルに五機ほど搭載されるらしいですわね」

「ホタルゴゼンの搭載バランサーと精密動作制御システムが、次世代型人型ドローンの基礎設計に組み込まれるとか」

 医療だけではなく宇宙空間や深海、高地、地下、戦地、原子力発電所などエクストリームな環境に、人型ドローンは活躍の場所をどんどん広げていた。

 汎用性の高い人型でありながら、武闘が出来る大パワーと精密な動作、極限環境に対応出来る軽薄短小なハード。それは人類の生存と発展を大きく助けていると言っていい。

 数年後には有人よりも先にドローノイド搭載型宇宙船の初の火星着陸も計画されている。

 人型ドローンはまさしく人類の欠かせないパートナーだった。

「ところで」ほたるとドローノイドを介した歓談をしていたホセは携えた鞄から一枚の電子ペーパーを取り出した。「今回は山梨ほたるさんにこの運動に署名をいただきたくて」

 書面を映し出した電子ペーパーをホタルゴゼンが受け取り、ほたるが読みやすい位置に広げた。

『ドローン・プロレスにおけるKIZUNAシステム採用に対する反対署名とそれに付する意見書』

 ほたるはそれを一瞥しただけで内容が全て解った。彼女にしても常日頃の関心の範囲内だったのだ。

「KIZUNAシステム。ドローンレスラーのダメージを共感出来るように、ストレス・メーターに対応した電気ショックシステムをオーナーに装着させようとする、馬鹿げたアイデアですわね」

「全くです。馬鹿げています。……オーナーはドローノイドの苦痛に対して全く無関心である、これはドローン・プロレスにヒューマニズムを導入する倫理を確立させる……そんな如何にもな部外者の浅知恵でドローン・プロレスがかき混ぜられてはたまりませんね」

「ホタルゴゼンがダメージを受ければ、オーナーの私の心も同じ様に痛みますし」

「ラ・ムルシエラゴが背骨を傷めつけられれば、私の心の背骨も軋みますからね」

「……最初から『絆』は」

「ドローノイド・オーナーならあって当たり前」

 ほたるは、ホセが持ってきた書面をタブレットに無線接続し、QRコード入りの電子署名をした。

 第二回日本大会の優勝者と準優勝者の二人の署名は、KIZUNAシステムの導入に大きく影響を及ぼすはずである。

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