エピローグ
ジョーカーは一命を取り留めた。
だが、右半身は白黒のまま戻らなかった。反転の痕跡が、永遠に刻まれた。
「こいつの処遇は俺に任せてくれ」
各国の代表が集まる中、ジャックが申し出た。
「待て」
キングが立ち上がった。
「トランプ連邦がジョーカーを管理する?そもそもこの災厄は、連邦がジョーカーを放置していたから起きたのだ」
「それは...」
「我が国は多くの兵を失った。被害の責任を、どう取るつもりだ」
険悪な空気が流れた。
「まあ待ってくれ」
声を上げたのは、フォビアだった。UNO国の代表として、会議に出席していた。
「俺は目の前で仲間が反転させられるのを見た。国が消えていくのを見た。誰よりも恨んでいい立場だと思う」
フォビアはジョーカーを見た。
「でも、あいつを処刑したところで、あの日の恐怖は消えない」
「ならばどうしろと」
「見張る者が必要だ。ジャックはジョーカーと話ができる唯一の人間だ。それを活かした方がいい」
雀荘国の東風も頷いた。
「我々には格言がある。『順時勿喜、逆時勿愁』——順調な時に浮かれず、逆境の時に怯えるな、と」
東風はジョーカーを見た。
「今は逆境の時。だが、怯えて処刑しても何も変わらない。過去を罰するより、未来を縛る方が賢明かと」
キングは黙り込んだ。やがて、小さく息を吐いた。
「...好きにしろ」
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病室で、ジョーカーは天井を見つめていた。
「なんで俺を助けた」
「さあな」
ジャックは窓の外を見ながら答えた。
「体が勝手に動いた」
ジョーカーは少し笑った。
「...そうか」
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将棋国とチェス帝国は、正式な終戦条約を結んだ。
調印式の後、飛車とナイトが向かい合った。
「まさか、お前と握手する日が来るとはな」
「ああ。俺もだ」
二人は手を握った。
「また戦場で会おう。今度は、敵としてじゃなく」
「ああ。そうだな」
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歩一は、故郷に戻っていた。
焼け跡だった。家も、畑も、何も残っていない。
「これから...何を積み上げていけばいいんだろう」
呟いた。
「それを探しに行こう」
振り返ると、角行が立っていた。
「角行殿...」
「戦争は終わった。だが、終わりは始まりでもある」
角行は焼け跡の向こうを見つめた。
「お前の一歩が、この国を変えた。次の一歩は、お前自身のために踏み出せ」
歩一は頷いた。
「...はい」
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数週間後、盤上世界初の国際会議が開かれた。
将棋国、チェス帝国、トランプ連邦、UNO国、雀荘国。
五つの国の代表が、一つの円卓を囲んでいた。
「新たな秩序について、話し合おう」
王将が口を開いた。
「二度と、あのような悲劇を繰り返さないために」
会議室の末席に、フードを深く被った男が座っていた。
白黒の半身を隠すように。
誰も、その男を追い出そうとはしなかった。
完全な和解ではない。
傷は残っている。
許せないことも、忘れられないことも、まだたくさんある。
それでも——
何かが、確かに変わった。
盤上の駒たちは、自らの意志で動き始めていた。




