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シークレット・アンリアリティ

 この世界には、リアリズムと呼ばれる怪物がいるらしい。リアリズムは、全国各地に出現し、人々に被害を与えているが、リアリズムが魔法少女に倒されると、その存在自体がなかったことになり、建物が破壊されたという事実がなくなるため、街は自動的に修復される。

 しかし、生物はその対象ではなく、奪われた命は戻ってこない。リアリズムと共に、存在ごとなかったことにされる。

 よって、誰も死者を記憶することができない。

 私も、大切な誰かを忘れているのかもしれない。


「私、マコト。あなたは?」

 ロック音楽が響く車内で、マコトと名乗った彼女は私に言った。いつの間にか魔法少女の服ではなく、普通の女の子の服を着ている。

 車の運転手はマコトさんだ。

「えっと、その前に……マコトさんって、おいくつですかね……?」

「十六歳よ」

「では、免許証の方は……?」

「持ってないわ。私はまだ取れないからね。……あ、でも安心して。私、運転うまいから」

 そういう問題じゃない。安心できない。

 ちなみに今は、私の家まで送ってもらっている。特別サービスだそうだ。

 それにしても、魔法少女が車で移動か……。空を飛んだりじゃないのか。

「私は、夜霧ネムです。十二歳です」

「夜霧……そう。やっぱり、エルさんの子どもだったのね」

「ああ、はい……そうですね……」

「一目見たときから、もしかしたらって思ってたのよ。あなたの顔は、古家さんが何度か写真で見せてくれたから」

 そうか……古家さんの知り合いか……。だったら、また定番のあれがくるかも――

「ネムちゃん、魔法少女になってみたら?」

「……………」

 言葉を返せなかった。この質問が来るって分かっていたのに……、少し、迷ってしまった。

「魔法少女って……どんな仕事ですか?」

「あら、興味あるの?」

「興味、というか……、私たぶん、後悔してるんです」

 自分でもうまく理解できていない、ぐちゃぐちゃとした想いを吐き出す。

「理由は分からないのに、さっきからずっと……『魔法少女になっておけばよかった』って、思ってしまうんです。あれほど、魔法少女にはなりたくないと思っていたのに」

 なのに、心の奥の方で、私が私に呼びかける。

「『魔法少女にならなきゃ』って、思ってしまうんです」

「それで、魔法少女になりたいと思えるように、魔法少女について知りたいの?」

「……そう、ですね」

 こんな、受け身で消極的なやり方はよくないって、分かってる。

 だけど、この後悔を抱えたまま生きていきたくはないし、かといって、こんな気持ちのまま魔法少女になるのもいやだ。

 私の心は、もう……、私が魔法少女にならないことを、許してくれない。

「それじゃ、見学でもしてみる?」

「見学、ですか?」

「そう。魔法少女の現場の、社会科見学よ」

 社会科見学。懐かしい響きの言葉だった。



 現在、この国にいる魔法少女はおよそ八百五十人。それら全てをまとめ上げる、魔法少女統率組織が、『リアルステルス』。私のお母さんも、この組織に所属していた。

 リアルステルスの目的は二つ。一つはリアリズムの脅威から人々を守ること。そしてもう一つは、魔法、及びリアリズムの存在を隠し通すことだ。

 そして今、私はそのリアルステルスの支部へと向かっている。マコトさんの運転で。

「私の仲間たちは、いい子たちばっかりだから。きっとネムちゃんも、仲良くなれるわよ」

「そうですかね……私、友達作るの苦手なんですけど……」

 中学校に入って一週間経っても、友達は一人しか――いや嘘だ。一人もできなかった。

「大丈夫よ。ちょっとクセのある子はいるけど……」

 そのときのマコトさんの表情を見ると……あまり大丈夫じゃなさそうだ。

 それから数分が経ち、都会と田舎の狭間のような土地にある、アパートのような建物の駐車場に、車は停まった。

「ここが、リアルステルス山口県西支部。私を含む五人の魔法少女が、ここを拠点に活動している。ネムちゃんにも、見学中はここの寮で寝泊まりしてもらうから」

「え、でも私、着替えとか持ってないですけど……」

「さっき古家さんに連絡して、持って来てくれることになったから、大丈夫よ。こっち側とも話はつけてあるから、もしもの時には貸してくれると思うし」

 いつの間に連絡したんだろう。……古家さん、泣いて喜んだだろうな。

 マコトさんの後について、入口から建物に入る。白と黒を基調とした、シックな雰囲気のロビーには、長椅子に並んで座った、二人の女の子の姿があった。一人は赤髪のロングヘアで、もう一人は青髪のショートヘア。二人の話し声がこちらまで聞こえてきた。

「ま、待って、アイちゃん……ダメだよ、ここでしたら」

「ごめん、あたし……途中で呼び出されちゃったから、まだ、足りなくて……」

「それは、わたしもだけど……、あっ」

「マコトさんが帰ってくるまで、まだ時間がかかるはずだからさ。すぐ終わるから大丈夫だよ」

「でも……っ、バレちゃったら、怒られる、から……っあ」

 これって、もしかして……えっち、なこと、してる? ……女の子同士でこういうことする人って、ほんとにいるんだ。

「ごめんネムちゃん、殴ってくるからちょっと待っててね」

「え?」

 そう言ってマコトさんが、二人の方へと歩いていく。その直後、青い髪の子にだけ、げんこつが振り下ろされた。「ぐへぁっ!?」という悲鳴が、室内に響く。

「あなたたち! またこんなことして……! 自分の部屋以外ではするなっていつも言ってるでしょ!」

「なっ、なんであたしだけ殴るんですか!?」

「だって、またアイちゃんが誘ってたじゃない! 私、見てたからね!」

「あの、マコトさん! これは止められなかったわたしも悪くて……!」

「ひーちゃんは無駄に責任を負おうとしなくていいから!」

「ちょっと、ひーちゃんだけ贔屓しないでくださいよ!」

 何か言い合いになっている。あの子たち、前にもこんなことがあったのかな。

「ほら、お客さん来てるから。ひーちゃんは、服をきちんと整えておきなさい」

「は、はいっ!」

 なんだか、愉快な人たちだ。……私がここでやっていけるのか、さっそく不安になってきた。

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