うわさの心霊映像、あなたは見たことがありますか?
つい先日、久しぶりに友人数人と会い、チェーンの居酒屋で酒を飲んだ。この友人達は、インターネットを通じて知り合った、心霊好きの人達だ。
今はもうなくなってしまったけど、「心霊好き集まれ」なんて名前の登録制サイトがあって、心霊好きの私は迷わず登録した。
心霊好きと一言で言っても、様々なタイプがいる。怖い話――怪談が好きな人もいれば、心霊写真や心霊映像が好きな人、心霊スポットへ行くのが好きな人もいる。そんな中、私は心霊写真や心霊映像が好きな人に分類される。
そして、友人達も私同様、心霊写真や心霊映像が好きだったため、お互いに意気投合し、気付けばリアルで会うほどの仲になった。
話す内容は、当然ながら心霊写真や心霊映像の話題で、お互いにインターネットで見つけたものを紹介し合ったり、レンタルされている心霊系のビデオの感想を言い合ったり、近くに座っている人からしたら、何を話しているんだと不審に思われるようなものだ。ただ、そうしたことを話せる相手は限られるため、思う存分好きなことを話せる、この友人達との時間は、私にとって大事なものになっている。
「そうだ。この前、おまえ抜きで話した時、話題になったことがあるんだけど、聞いてもいいか?」
私は友人達と会うのが久しぶりだけど、それは仕事の都合で何度か集まりに参加できなかったからだ。そして、その友人の話だと、前回の集まりで話題になったことがあるとのことだった。
「何の話?」
「元々、俺が職場で、あるうわさを聞いたんだよ。まあ、俺が心霊好きだってみんな知ってるから、それで話してくれたんだけど、昔どっかで見た心霊映像について、何か知ってるかって聞かれたんだよ」
昔、何かの心霊番組で見たもの。心霊系のビデオで見たもの。インターネットで見たもの。様々な形で、心霊写真や心霊映像を見たことがあるけど、その中で印象に残っているものは、たくさんある。ただ、具体的にそれをどこで見たか、覚えていないものも多く、そうしたものを偶然見つけた時は、嬉しくなる。
友人の話を聞いて、私はそういった話だろうと思った。
「それで、その心霊映像、俺は見たことがあるんだけど、どこで見たかとか、詳細はわからなかったんだよ。だから、その話をこの前みんなにしたら、みんな見たことがあるってなって、盛り上がったんだ」
「だけど、その映像の詳細については、誰もわからなかったんだよね」
「あの後、僕は家にあるビデオとか全部確認したけど、見つからなかったよ」
「私の職場でも、この話をしてみたよ。そしたら、それ知ってるって言われて、詳しく聞いてみたら、私の職場でも、何かうわさになってたみたい。でも、詳細はわからなかったんだよね」
「そんなわけで、このうわさの心霊映像、おまえは見たことがあるかどうか聞こうと思ってたんだよ」
心霊好きの私として、この話は興味深いものだった。
「それ、どんな映像なの?」
「ああ、何か古い映像というか、誰も人がいない、ド田舎って感じの風景を映した映像なんだ。それで、途中に線路があるんだけど、丁度そこを電車が横切るんだ。そうそう、これもド田舎って感じで、電車は一両編成なんだ。それで、その電車が通り過ぎる時、撮影してる男性が『ごめんなさい』って言うんだ」
そこまで聞いたところで、私は思うところがあったものの、話を聞き続けた。
「これの何が心霊映像かというと、この電車がおかしいんだ。というのも、まず運転手らしき人がいないんだ。それで、乗客らしき人については……何て言えばいいか、普通に電車に乗っている感じの人は一人もいないんだ」
「ということは、普通じゃない乗客はいるってこと?」
「ああ、その通りだ。これは、初見でもわかるけど、窓から顔を出すようにして、こちらを見る人がいるんだ。ただ、その人には身体がなくて、それこそ首から上だけを窓に貼り付けたような、見ていてゾクッとする感じなんだよ」
「その顔って、おばさんの顔じゃない?」
「ああ、そうだ! やっぱり、おまえも見たことあるんだな!?」
私は、その心霊映像を見たことがある。その事実に、周りは興奮した様子だった。
「この映像、どこで見たか覚えてるか?」
「どこで紹介されていたかというと、わからないかな」
「でも、みんな知ってるし、やっぱり結構有名な映像ってことだよね?」
「俺もうわさで聞いたし、そういうことだよな? でも、だとしたらどこで見たんだろうな?」
「昔、心霊映像を動画にして、アップロードしてる人とかいたじゃん? 完全に著作権を無視してたから、ほとんど閉鎖しちゃったけど、そこにあった映像じゃない?」
「まあ、俺達が知り合うきっかけになった『心霊好き集まれ』ってサイトも閉鎖したし、その可能性が高いかもな。てか、全員知ってるなら、そのサイトにアップロードされてたんじゃないか? あそこも、結構色んな心霊映像とか、心霊写真とか投稿されてただろ?」
「それはないよ。僕はあのサイトに投稿されてた写真や映像、全部保存してるけど、うわさの心霊映像はなかったよ」
「やっぱり、小さい頃にテレビで紹介された映像なのかな? 昔は昼間から心霊特集とかあったし、そこであったものとか?」
「むしろ、それなら見つかるんじゃね? 前に話題になった、子供を映してる映像に『こーうしゃーん』っておばあちゃんの声が入ってる映像は、心霊好きの間で話題にしたら、見つかったじゃん」
その映像は、私もよく覚えている。昼間にやっていた番組で心霊特集をしていた時、紹介された映像で、当時見た時は幼かったこともあり、本当に怖かった。
そして、この映像については誰かが見つけたようで、久しぶりに見た時、改めて怖いと思いつつ、懐かしいという思いの方が強かった。
「確かに、そんな感じで、今回も見つかるかもね」
「てか、この心霊映像、何か妙な立体感があって、気持ち悪くなかった?」
「ああ、そうなんだよ。ホント、窓からこっちに向かって飛び出してきてるというか、それこそ3Dじゃねえかって感じで、それも気持ち悪いんだよな」
元々、インターネットを通じて知り合った人同士だから、みんな好き勝手に話をしていて、それこそ掲示板やチャットの書き込みを音声化しているかのようだった。
それを聞きつつ、私は少しだけ迷いを持ったものの、話すことにした。
「そのうわさの心霊映像について、詳細らしきもの……話せるけど、合っているかどうかわからないから、みんな心当たりがあるかどうか、よく考えながら聞いてね」
そんな前置きをすると、みんなが私に注目した。
「マジで!?」
「やっぱり、流石だね!」
みんな、うわさの心霊映像について、とにかく知りたい。少しでも情報がほしい。そんな状態になっていることに、多少の懸念を持ちつつ、私は話すことにした。
「その映像は、男性が一人旅をしている時に撮ったもので、男性は一人きりになろうと、ほとんど人がいない場所を目指していた。だから、一両編成の電車が走るような場所に来て、そこでビデオカメラを回していた」
私の話を、みんなは真剣に聞いていた。
「問題のところで映っていた顔だけど、男性は少し前に母親を亡くしていて、その母親の顔にそっくりだったみたい。これは、電車が通り過ぎる時に、男性が『ごめんなさい』と言ったことと、何か関係があるのかもしれない」
そう言えるのは、この後の結末を知っているからだ。
「この映像を撮った男性は、その後に自殺しているの。それは首吊り自殺で、人通りの少ない場所での自殺だったから、発見もかなり遅れたみたい。それで、その自殺した現場にあったビデオカメラに、問題の映像が残されていた。これが、私の話せることだよ」
そうして私の話が終わったところで、みんなは興奮した様子を見せた。
「そこまでわかってるなら、特定できるんじゃね?」
「てか、話を聞いて思い出したけど、確かにそんな話だったかも! だから、何か映像を見た時、悲しくなったんだよね」
「もしかしたら、母親が亡くなったことについて、何か思うところがあって、それで『ごめんなさい』って謝ったのかもしれないもんね」
「撮影した男性が自殺したということなら、そこから特定できないかな?」
そんな風に盛り上がるみんなを見ながら、私は心を落ち着けると、本当に伝えたいことを伝えることにした。
「本当に、うわさになっているの?」
私の質問に、みんなは少し驚いたような反応を見せた。
「さっき、私が話したことについて、みんな何も疑問を持っていないの?」
そこまで言っても、誰も反論してこなかった。それを確認しつつ、私は核心を伝えることにした。
「さっき、私が話したことは、最近私が見た夢の話だよ」
それは、つい先日のことだ。
悪夢にうなされて、目を覚ますという経験は、誰しもあるだろう。そんな経験を、私も最近した。
その夢の中で、私は誰かが撮影した映像を見ていた。誰かが撮影している映像を見ると、まるで自分が撮影しているかのように感じるなんて人がいるけど、そんなことは一切なく、それこそ何か心霊系の番組か、ビデオを見ているような感覚だった。
映像には、畑や林などが映っていて、いかにも田舎といった感じだった。そんな所を進んでいくと、目の前に古臭い線路があった。
そこは、一応踏切のようだったけど、遮断機のようなものもなく、ただ線路が通っているといった感じだった。
ただ、撮影者が近付いたタイミングで、丁度電車がやってきて、前を通り過ぎた時、撮影者のものと思われる男性の声で「ごめんなさい」という声が聞こえる。
そして、通り過ぎる一両編成の電車の後部に、問題の顔が映っている。それは、何度かリプレイされる形で、はっきりと確認できるものだった。
それから、この映像がどういった経緯で見つかったかという説明があり、撮影者の男性がその後自殺したことなどを知った。
これが、私の見た夢の内容だ。
「そんな夢を見て、私は目を覚ましたの。ただ、まだ深夜だったし、すぐにまた寝たんだけど……その夜は、その夢を何度も見ちゃって、それで記憶に残っていたの」
「いや、夢って……」
「私は、その夢を見た後、どこかで見た心霊映像だなんて感じなかった。何か、変な夢を見たって感想しかなかったよ」
「いや、待てよ。それだけ覚えてるなら、どっかで見た心霊映像を夢で見たとかじゃないのかよ?」
「私だって、これまで色んな心霊映像を見てきたし、全部ではないけど、印象に残った心霊映像については覚えているよ。ただ、夢で見た心霊映像のことは、本当に覚えていないの。それなのに……今日、みんなからこんな話を聞いて、むしろ私から質問してもいい?」
私は少しだけ間を置いた。
「私は、夢で見ただけだし、うわさの心霊映像が存在しているかどうかすらわかっていないんだけど、みんなは本当に見たことがあるの?」
私の質問に、みんなはどう答えていいか、悩んでいる様子だった。
「……見たことがあると思ってるから、こんな話をしてるんだけど?」
「見たという記憶だけあって、それがいつどこでって記憶はないって、おかしくない?」
「確かにおかしいかも」
「僕も、おかしいと思う」
そうして、うわさの心霊映像については、結局よくわからないという結論になった。
ただ、私が夢で見ただけの映像を、これだけの人が見て、しかもうわさになっているというのは、やはりおかしいと思う。
だから、最後にこんな質問を「あなた」に送る。
うわさの心霊映像、あなたは見たことがありますか?