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第36話:ザグレスの最期


 ラルク達が村へと帰る途中。


「……」

「……」


 さっきまで仲良く抱き合っていたラルクとディアだったが、今はなぜかディアは気まずそうに無言のまま歩いていた。元々ラルクは無口な方だが、彼女はというと、さっき勢いで言ってしまったことを脳裏で何回も再生させてしまっていた。


 〝ラルクさんが……好――〟


「あああああああ!」

「どうしたディア」


 羞恥心で急に叫びはじめ、手を顔の前でバタつかせるディアを見て、ラルクが驚く。


「な、なんでもありません!」

「そうか」


 と、再び無言に戻る二人の見て、後方を歩いていたリーシャが思わず気持ちを漏らしてしまう。


「もう、じれったいわね」

「あはは、まるで子供みたいだ」


 その横をいくシエルが愉快そうに笑う。

 ディアと出会った時、彼女は最初、大好きな兄を取られたような気分だった。


 だが話しているうちにディアが良い子だと分かり、気付けばその気持ちもなくなっていた。

 結果として、今は二人を応援したいと思っている。


 しかしリーシャはというと、やはりまだ複雑な感情を抱いたままだった。


「はあ……」


 思わずそんなため息が出てしまう。


「というか君、なんでもう怪我が治りかけてるの? うちのお兄ちゃんはバケモノみたいなもんだから、あれだけど」


 怪我が治りつつあるリーシャを見て、シエルが苦笑する。さっきまで満身創痍なのが嘘のようだった。


「自己治癒魔術を常に掛けているからよ」

「あはは、それも十分バケモノだね」


 なんて二人が話していると――


「……っ!」

「おや」


 後方からの微かな気配に二人が同時に反応する。

 普段ならまっ先にそれに反応するであろうラルクは気が抜けていたのか、あるいはもう戦う意思がないことの表れなのか、それに気付かない。


「どうした?」


 急に立ち止まったリーシャとシエルへとラルクが振り返った。

 しかし二人は笑顔を浮かべたまま、リーシャが代表して言葉を返す。


「――ちょっと忘れ物があるから取りに戻る」

「忘れ物?」


 不審がるラルクだったが、そんな彼の背中をシエルが手で押した。


「僕も一緒に行ってくるから……ラルクとディアちゃんは先に帰ってて」

「あ、ああ」


 そのままラルク達を送り出し、シエルとリーシャが来た道を戻っていく。


「どういうことだと思う?」


 リーシャが、先ほど感じた気配――複数の竜の気配について聞くと、シエルが肩をすくめながら答えた。


「気配的にあの強そうな方じゃないし、数も少ないね。仲間内で意見が分かれた結果、強硬派がディアちゃんを取り返しにきた……ってとこかな」

「同感。悪意と殺意も感じるし」

「流石に、もうあの二人に関わらすわけにはいかないしねえ」


 ラルクはもう竜を殺さないと誓っていた。さらに竜の気配に気付いてすらいない。

 そんな彼をもう矢面に出すわけにはいかなかった。


「あいつがボロボロだったのも、どうせ相手の竜に対して無抵抗だったからでしょ。馬鹿よね、ほんと」


 リーシャが笑いながらそう思わず言葉を零してしまうと、それをシエルがニヤニヤしながら見つめた。


「そんなところが好きなんだろう?」

「ち、違うわよ!」

「え~? ほんとかなあ?」

「ほんとよ!」


 なんてじゃれ合っていると――西の空から竜達がやってくる。

 案の定、先頭を飛んでいるのは先ほどの場にいた赤い竜だった。


「じゃ、やりますか」


 シエルが剣を抜き、臨戦態勢になる。


「とりあえずまずは降りてきてもらわないとね」


 さてどうしようか、とリーシャが考えていると――森の中から、赤い光が何条も竜達へと向かっていく。


「……あれは?」

「さあ」


 それらの赤い光は正確無比に竜達の翼を狙撃していく。

 翼が灼かれた竜達が、次々と森へと落ちてきた。


「いずれにせよ、落とす手間が省けたね」


 なんて言っていると、偶然にも先頭にいた赤い竜――ザグレスがリーシャ達の近くに落ちてくる。


「クソ! 今のはなんだ!? まさかお前らか!?」


 翼は穴あきになったものの、まだまだ元気そうなザグレスがリーシャ達を見て吼えた。


「一応聞くけど、この先は人界だけどそんな殺気撒き散らして何の用?」


 シエルがそう尋ねる。


「ディアは俺のものだ。だから取り返しにきた!」


 ザグレスの言葉を聞いて、リーシャとシエルが顔を合わせた。

 

「でも、その話はさっき終わったけど?」


 リーシャの言葉に、くだらないとばかりにザグレスが再び吼える。


「あれはアダマン様が勝手に決めたことで、俺は納得していない! だからディアを取り返す!」

「お前の納得なんてこっちは知ったこっちゃないんだけど?」


 シエルが剣先をザグレスへと向けて、不敵に笑った。

 見れば、ザグレスの仲間と思わしき竜達がこちらへと向かってきているのが分かる。


「邪魔するなら殺す。あいつらが住んでいる村とやらも全部燃やして、今度こそあの男を殺せれば――ディアも諦めるだろう!」


 その言葉を聞いてシエルが笑顔のまま、リーシャへと問う。


「これって、あれよね。Sランク冒険者のなんちゃら権限で動けるやつだよね」

「そうね。そういうそっちもあるんじゃないの。こういう時に命令なしで動けるやつ」


 リーシャの言葉にシエルが頷き、とある言葉を口にした。


「〝悪意を持って領界侵犯した竜は――邪竜と判定し、()()()()()()()()()()〟」


 それを聞いて、ザグレスが馬鹿馬鹿しいとばかりに鼻で笑った。


「女二人で何ができる!? 俺の部下がくれば、もうお前らは終わりだぞ!」

「ふーん……で、その部下とやらは――あれかしら?」


 リーシャが視線をザグレスの背後へと向けた。

 同時に彼の背後の森から、複数の物体が転がってくる。


「あ?」


 ゴロゴロと転がってきたものは――竜の生首だった。

 どれも切断面が焼けており、高熱の何かで斬られたであろうことに、リーシャもシエルもすぐに気付いた。


「お、お前ら!」


 そうして驚くザグレスの前に、少女が現れた。

 無機質な赤い光を宿す瞳。先が触手のようになっている赤髪がうねっている。


 腕を覆う金属製の手甲から伸びた赤い光刃が、静かに空気を焦がしていく。


「――残敵、一」


 その少女――メアの言葉で、自分を除き、竜が全滅したことに気付いたザグレス。

 そんな彼へとリーシャとシエルが歩み寄る。


「で、誰が終わりなんだっけ?」

「アアアアアアアアアアアア! 舐めるな猿共がああああああああ!」


 激昂するザグレス。

 しかしあまりに状況が、相手が悪かった。


 結果として、彼と彼の部下達は結局何も出来ずに――ひっそりと誰にも知られることなく、始末されたのだった。


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