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浮気疑惑編-3

 初美姉ちゃんや鈴子とは川辺で別れ、町の八百屋で買い物をしながら帰った。


 今は青菜やじゃがいもが安いのだという。青菜は家に菜の花があるので買わなかったが、じょがいもは買って帰る。


 隆さんは私が作る料理には基本的に文句を言わず完食してくれるので、作りがいがある。じゃがいもはそのまま煮物にしても良いし、潰してコロッケという西洋料理にしても面白いかも知れない。


 私は幼い頃から母に良妻賢母になる様に家の手伝いもしていたし、料理は嫌いではない。それに夫の為だと思うと作りがいがあるものだ。


 何を作ろうかと考えているち自然と鼻歌もこぼれ、家に帰った。


 家の隣にある牧師館や教会の方からは子供達の騒ぐ声もする。今は子供が十人もいるから騒がしい。私も朝や夕方は子供の面倒を見ているので、夕食の下拵えは早めに済まさなければ。


 子供達の世話も大事だが、自分の家の事は最優先にしている。隆さんに命令された訳でがなく、牧師さんから言われている事だった。


 結婚したら、夫を第一優先にしないと夫婦関係が悪くなるという。聖書にも独立した男女が結婚する事が示されている。他所の家や実家に構ってばかりいるのは、聖書的ではないと牧師さんに口酸っぱく言われて、実際そうしていた。


 今のところ、そうしていても何も問題が無いので、やはり聖書通りにした方が良いのだろう。牧師館に子供は十人もいる訳だが、太郎くんがお兄ちゃん気取りでしっかり下の子を面倒を見てくれる為、子供達の方も大きな問題はなかった。もっとも親がいない子供達なので、これから何も問題が無いとは言い切れないが。


 そんな事を考えつつ、玄関の門に近づくと人影が見えた。


「どなたですか?」


 玄関に近づいてすぐにわかった。向井だった。


 今日は前と違って書生姿ではなく、洋装姿だった。黒い帽子もかぶっているので、顔がよく見えなかったので分からなかった。


「おぉ、奥さん! 久しぶりですよ!」


 向井はあの時のように、八重歯を見せながら人懐っこく笑った。


「どうしたんですか? 隆さんとお約束でも?」


 そんな話は聞いていない。あらかじめ知っていれば、もっとおもてなしの準備も出来たものだが。


「実は、困った事が起きたんだよ」

「え?」


 向井は明らかに困った顔を見せた。


「実は、今の仕事中の華族のお嬢様が行方不明になってね」

「本当?」


 確か向井は華族のお嬢様の家に潜入調査をしていた。婚約が決まっているのに、身分違いの酒屋の男性と通じているという話は覚えている。


「ああ、本当に困ったよ。どうやら酒屋の男の友人がいるこの辺りの家に逃げている情報は掴んだが、全く見当がつかん」


 以前あった時と違い、向井の表情は真剣そのものだった。やっぱり職業でちゃんと探偵をしている事が伝わる。前に会った時は、勝手に向井に悪い印象を持ってしまったりした事は反省するべきだと思い始めた。


「奥さんは、何か心当たりは知らないかな?」

「どんな方ですか?」

「お嬢様は、こんな感じの人だ」


 向井は持っているカバンから、一冊の婦人雑誌を見せる。栞を挟んであるページからは、一人の華族令嬢の写真が写っていた。


 浅山夏美という名前の令嬢だった。髪は短めに切り、花柄のオレンジ色のワンピースに身を包んでいた。洋装がよくにあう。活発で明るい雰囲気の女性だった。


「あ!」


 思わずそんな声がこぼれてしまった。


「もしかしたら、隆さんが知っているかも…」

「何だって!?」


 向井が大きな声で身を乗り出すが、教会の子供達がやってきて、はしゃぎ始めた。玄関先で立ち話は色々不都合がある様だ。


 とりあえず、私は向井を家に入れゆっくりと話を聞く事にした。


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