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友達編-5

 向井は夜まで帰らなかった。


 夕飯を召し上がって行きますか?と社交辞令で言っただけではあるが、本当に堂々と夕飯を食べていた。一人分増えたぐらいでは特に準備は大変ではなかったが、味噌汁と焼き魚に漬け物という質素な夕食にかなり感動していた。母親が作っていた味噌汁とそっくりだと涙まで流して鍋にあるもの全て完食してしまうほどだった。


 そこまで褒められるのは、正直嬉しい訳だが、隆さんはかなり不機嫌になっていた。いつのは穏やかで優しい表情であるのに、眉間に皺がより、向井を睨みつけている。


 泣くほど感動している男と、いつになく不機嫌になった隆さんに挟まれて私はオロオロするばかりだった。


 向井が帰っていくと、私はつい安堵のため息をついてしまった。


「向井さん帰ったのね…」


 向井がいなくなった茶の間はとても静かに感じるほどだ。


 隆さんと二人でお茶を飲みながら、思わず愚痴の様な言葉も漏れる。


「今日はちょっと疲れたわ。隆さんのお友達がこんな陽気な人だったとは思わなかったわ」

「いや、志乃。もっとはっきり言っていいぞ。向井は陽気というより変人だ」

「え、そんなにはっきり言っていいの?」


 私が思わず笑ってしまうと、隆さんも難しい顔をやめ笑い始めた。不機嫌だった様子は、向井の喧しさにうんざりしたからと思い、その事にも私はちょっとホッとしてしまう。


 ただ、向井のおかげで今日和菓子屋で言われた事はすっかりと忘れてしまった。向井は変わった人だとは思うが、根は悪い人ではないだろうし、あの明るさは自分には無いものなので少し羨ましくも思う。


「ところで隆さん。輪廻転生なんてあるの?」

「あぁ、あの話か」


 ただ、向井から聞いたカルト教団の話は少し気になってはいた。


「そんなものは無い。おそらく悪霊の惑わしだろう」

「本当?」

「真理は一つだ。聖書に書いてあるだろう」

「本当に死んだら天国に行けるのね」


 そう思うと嬉しくて少し涙が出そうだ。さっきの向井に影響されたのか、この嬉しさをちょっと大袈裟に表現したくもなってしまう。


「まあ、死後に裁きはあるけどな」

「私は罪深い人間に何度も生まれ変わるより、ちゃんと正義の神様に裁かれたい」

「そうだな」


 気づくと私達は寄り添うように肩をくっつけて座っていた。


「その為には罪を悔い改めてイエス様を信じないとな」

「どうしてみんなは輪廻転生なんて信じてしまうのかしら」

「向井も言っていたが、人間は弱いんだよ。自分は正しくて清い人間だと思い込んでいるし、現実逃避もしたい。そんな人間は悔い改めなんて出来んだろう。まあ、あいつは妙に鋭いところがあるなぁ」


 隆さんは私の頭をそっと包み込むように撫でていた。


「天国に行っても私と仲良くしてくださいね、隆さん」

「ああ、天国でもずっと仲良くしよう」


 隆さんはそう言って私の手をとり、そっと頬やおでこに口付けをした。


 輪廻転生があるとしたら、現世で仲の良い人とも離れる可能性がある。そう思うと、それはあまり嬉しく無い考えだと思った。


「私はとても幸せね。神様がいつもそばで見てくれていると感じるわ」

「そうだな」


 気づくと私達は唇を重ねていた。下唇を齧られ涙目で痛がっていると、隆さんは悪戯っ子のような表情を見せていた。

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