表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
56/58

番外編短編・一目惚れ

 結婚式があと数日で迫っている時の事だった。


 新居の準備と相まって、一日中動き回っていた。ミッションスクールは無事卒業できたが、友達と離れる生活はほんの少し寂しさを覚える。


 そんなある夜、隆さんから書斎に呼び出された。


「隆さん、お呼びだって聞いたんですが」

「ああ、入れ」


 文机の上で何か書きものをしていた隆さんが顔をあげて、私を招き入れた。少し距離をとって座る。


 結婚前にあまりくっつき過ぎるには良く無いという事になり、微妙な距離で座ると決めていた。誰に言われた訳ではないが、やっぱり何か間違いがあってはいけない。


「何書いてたんですか?」

「いや、私はいつ志乃に恋愛感情を持ったか思い出していてな」

「そういえばいつだったんですか? 突然求婚されてビックリしたんですけど……」


 嬉しかったが予想外の言葉すぎて、当時は全く頭がついていけなかった。求婚された後、頭は真っ白になりどうやって帰ったかも思い出せない。


「火因村に行くちょと前あたりですかね?」

「いや、もっと前だ」

「初美姉ちゃんの結婚式ですか? それとも龍神との縁切りするお祈りした時ですかね?」

「もっと前だ」

「え!? そんな前? お箸の持ち方を教えて貰った時かしら」


 信じられなくてちょっと大きな声を出してしまった。


 隆さんは私と出会った時から一目惚れしていた事を告白した。川辺で倒れていた花嫁姿の私をみて、「こんな美人が妻だったらどんなに良いか」と頭の中で何度も考えたらしい。


「そ、そんな前から……」


 恥ずかしくて俯いてしまった。


「ただ、そんな事を頭の中で思うのも罪だからな。あの夜、ずっと悔い改めの祈りをしてた。正直言うと、それから何度か似た様な事は考えた事がある」

「そ、そうだったんですか……」


 結局、本当にこの人の妻になる予定なので、私は恥ずかしくて居た堪れない。この家に保護されてから隆さんがやたら厳しかったのも、そんな気持ちの裏返しという部分もあるような気もしてきた。


 そんな私も今思えば、初めて隆さんを見た時からちょっと気になっていた。怖そうには見えたが、洋装はよく似合っていたし惹かれるものはあったと思う。


「あ、なんか本当に恥ずかしい……」

「うん、本当に恥ずかしいな……」


 二人の距離はちょっと離れているのに、この場の空気は薔薇色みたいに染まっていた。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ