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永遠編-4

 家に帰って昼ごはんを作った。余ったご飯をおにぎりにし、醤油をつけて焼いた。


 昨日も焼きおにぎりを作ったが、今日も何となく食べたくなってしまった。


 夏実さんの事を思い出すが、単純に昨日青空の下で食べた焼きおにぎりは美味しかった。昼はどうせ一人しか居ないので、ちょっと手抜きしたい気持ちもある。


 焼きおにぎりを皿に盛り、茶の間に持って行って食べ始めた。香ばしい醤油の香りを嗅いでいると、ようやく平穏ば日常に戻って来れた事を感じる。


 食べている途中、隆さんが帰ってきた。急いで玄関の方に行く。平日の昼間でこんな風に隆さんに会う事は滅多に無いので不思議な気分だ。


 死んだ父は翻訳家だったのでずっと家で仕事していた。伊馬時代は隆さんのようの昼間努めている夫の方が多いと思われるが、今の状況はちょっと父の生きていた頃を思い出す。


 上着や鞄を受け取り、夫婦の部屋の向かう。


「夏実さん、大丈夫だった?」

「ああ、夏実は静かに警察に従っていたぞ。ただ、警察がキリスト教のものだと知ると、色々疑ってきてな。今だにキリスト教徒を迫害しようとする者がいる」

「仕方ないわ。ちょっと昔は不敬事件もありましたし、戦争が始まったらもっと辛くなるかも知れないけど、それも喜びましょうね」

「そうだな。私は殉教しても構わないな」


 隆さんは、ネクタイを解きシャツの上のボタンを外しながら深く頷く。卒業したミッションスクールでは、また世界大戦が始まったら世間で厳しく迫害されるだろうと予想を立てていた。


「あなた、お腹空かない? お昼ご飯は食べた?」

「ああ、今日はちょっと疲れたし、軽くでいいぞ」

「ええ」


 その後、台所に行き隆さんの為にも焼きおにぎりを作った。


「ちょっと手抜きで、ごめんなさいね。昼はいつもこんな感じなのよ」

「ああ、いいよ。焼きおにぎりの香り良いな」

「ありがとう。夕食は何にします? 昨日は酷い事になってしまったから、何でも好きなものを作るね」

「いや、お前は本当によく出来た妻だな。そうだな、今日は肉でも食いたいな」

「じゃ、お肉いっぱい入れた野菜炒めにでもしましょうか」

「それは良いな」


 隆さんは笑って私の前髪を撫でるように触る。優しい手つきにちょっと頬が熱くなる。慌てて誤魔化すように出来上がった焼きおにぎりを皿に盛る。


 やっぱり聖書に書いてある通り、夫を敬うと上手く行くようだ。前のように浮気を疑って、大騒ぎしてしまった事はやっぱり良くない事だった。


「それにしても悪霊が憑くと、あんな風に操られてしまうのね」

「そうだな。ああやって人間を操るのは、あいつらよくやるんだよ。占い師にも似たような悪霊が憑いている」

「夏実さんの刑は軽くならないかしら」


 夏実さんは無罪とは言えないが、ちょっと厳しいとも思う。


「それは仕方ないだろう。夏実も現実に罪を犯したのは事実だから」

「そっか……」


「ただ親父とも話したけれど、彼女にはちゃんと福音を伝えたいと思う。また父と警察に行ってくるよ。まあ、親父もよく犯罪者と面談やってるけどな」

「そうなの。だったら夏実さんは安心ね」


 これで福音を信じて貰えれば、夏実さんの死への恐怖も解放されるだろう。そう思うとホッとして、安堵の涙が溢れる。


「ああ、志乃は本当に泣く事が多いな」

「いえ、これは条件反射というか」


 手で涙を拭おうとしたら、隆さんは自分のハンカチーフをズボンのポケットから出して私の頬を拭う。


 優しい手つきで涙が拭われ、ちょっと心臓が落ち着きなくなってしまった。昨日の夜は、寝不足になってしまうぐらいずっと一緒にいた事も思い出した。より心臓が高鳴る。


 そんな気持ちが伝わってしまったようで、この場の雰囲気が甘いものに変わる。


「志乃」


 隆さんは、私の頬を包むとそっと鼻や頬に口付ける。くすぐったさにギュッと目を見て瞑ると、隆さんの笑い声が耳に響く。


 口付けの嵐を一つ一つ受け止める。だんだん深く唇を重ねられて行き腰が砕けてしまった。隆さんもしゃがみ、私を抱え直す。しばらく座ったまま口付けを交わした。いつの間にか割烹着を脱がされ、一つに纏めた髪の毛が解かれていた。


 まだ少し痛い首筋を齧られ、思わず小さな悲鳴のような声を上げてしまった。


「嫌か? まあ、昼間からはちょっと嫌か。というかここ台所だったな……」

「ちょと痛かっただけです。夫婦になったんですもの。私の身体は神様のものでもあるけど、あなたのものでもあるわね」


 隆さんは苦笑しながら私を抱き上げると、夫婦の部屋に戻った。


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