神様の愛編-4
藤沢さんがやって来た事を聞かされた太郎くんは、最初は意地を張っていたが、牧師さんや私に諭され、一度会う事に話が進んだ。
これ以上は他人の家庭の事なので、私も余計な口出しはできないが、とりあえず良かったと思う。
そして、日曜礼拝の日がやってきた。
いつものように座席を出したり、受付をやったりしていると、礼拝堂に向井の姿が見えた。
向井は意外とあっけらかんとして受付にいる私や隆さんに話しかけてきた。
「嫌ぁ、志乃さん。無事だったんだね」
「ごめんなさい。向井さんにもとても迷惑をかけてしまいました」
「志乃、この男とは話さなくて良い。向井、さあ、一番前の特等席が空いている。そこに座ろう」
「え! はじめて来たのに最前列?」
向井はちょっと騒ぎながらも隆さんの連れられて、礼拝堂の信徒席の最前列に座ってしまった。
本当に向井が来たののかちょっと信じらてなかったが、人懐っこい向井は、さっそく周囲の信徒さんと親しくなっていた。受付にいる私は、「隆さんはあの新しく来た男の人に嫉妬でもしているんかね」と一部始終を見ていた他の信徒さんに笑われてしまった。
それは信じられない事で少し恥ずかしくなってしまったが、何はともあれ向井が来てくれて良かったと思う。
こうして讃美歌から礼拝が始まり、最後の報告の時には向井はすっかり場に馴染んで大声で自己紹介をしていた。讃美歌も歌詞の意味がわかっていないはずだが、楽しそうに歌っていた。思わぬ新しく人が来たという事でいつもより礼拝の雰囲気が明るいものだった。
「奥さん! 色々悪かったよ」
礼拝が終わると、再び向井に声をかけられた。
私の隣に座っていた隆さんは、向井を軽く睨んでいて、ちょっと険悪な雰囲気にもななったが、向井は気にせずペラペラと話していた。
「いや、讃美歌は良いもんですね。説教の内容は、訳わかりませんでしたが」
「だったら、俺が創世記から黙示録まで聖書をみっちり教えてやるよ」
「おぉ、隆。相変わらず厳しいな。でもあんな死にかけていた奥さんが今はこんな元気そうにしているの見ていると、本当に神様が居るんじゃないかと思ってしまいます」
ふいに真面目な口調で向井に言われて、私はとても驚いてしまった。隆さんも同様に驚いていた。
「私、死にそうだったの?」
「うん。隆も顔真っ青にしてずーっと祈ってた。よかったね。祈りが通じたんだね」
そう言われてしまうと俯いてしまう。自分はちても隆さんに心配をかけてしまったらしい。神様に感謝するのは当然な事であるが、隆さんにも感謝の気持ちでいっぱいになってしまい、ちょっと泣きそうだった。
「ところで、向井が追っていた令嬢の件はどうだった? 夏実っていう令嬢は、確実にカルト信者だったのか?」
この話題は隆さんちょっと恥ずかしいらしく、話題を変えたようだ。
「うん。前にも話したけど、夏実嬢がカルト信者であるのは確実。もしかしたら夏実嬢が動物を殺しているかもしれない」
「嘘!」
「本当か?」
新しい聞いた事実に私達夫婦は二人とも驚いてしまっていた。
「まあ、証拠はないけどそういう噂を耳にしたんだ」
「清美さんは? 清美さんは何か関係ある?」
私は向井の話題に前のめりに聞いていた。
「さあ。でも夏実嬢がしつこく勧誘していたのは事実だね。彼女は病気を抱えているし、信じれば病気が治ると言われたり、来世で良いものに生まれ変わるなんて言われたりしたら、心揺れるんじゃない?」
向井はこの2人の令嬢には、かなり他人事で八重歯を見せて笑ってもいる。
「耶蘇教はそういう勧誘ないの?」
「ないわ」
「無い。病気も悪霊の影響でなる事もあるが、その人に必要だから神様が与えている場合がある。新訳聖書の使徒・パウロは目の病気だったが、いくら祈っても治らなかった」
「そうなのか。お前らの神様は本当にご利益宗教ではないんだな」
「パウロは、イエス様の力が私を覆う為に、むしろ大いに喜んで自分の弱さを誇るって言ってるんだよな。『私が弱いときにこそ、私は強いからです』と。クリスチャンは弱い時こそ強いんだよ」
「おぉ、隆、それなんか凄いな……。じゃあ、輪廻転生思想がいう『不幸が前世のせい』っていうの、すんごい薄っぺらいじゃん……」
向井はなぜか深く頷き納得していた。
「私達と神様は、親と子供というか妻と夫みたいな感じよね? 救い主というヒーローとお姫様みたいでもあるかな」
「ああ、志乃の言う通りだ。病める時も健やか時も神様を信じてる」
そうはっきりと言う隆さんは、我が夫ながらとても素敵に見えた。向井もこの隆さんの姿に何かを感じたのか、牧師さんに詳しく話が聞きたくなったらしい。牧師さんを捕まえてしばらく質問攻めにしていた。
「向井も信仰を持ってくれれば少しは落ち着くかね」
「どうかしら。余計に元気になる可能性もあると思う。とっても前向きにもなりますしね」
「それはちょっと頭が痛いな」
隆さんがため息混じりの呟き、私もちょっと苦笑してしまった。




