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美味いな……

「ジラール男爵の勝利だ」


 セラビミアが宣言すると、周囲がざわめいた。


 抗議しようとするヤツらもいたが、俺が剣を向けると止まる。


「文句のあるヤツがいたらこの場で戦っても良いぞ」


 名乗り出るような人物は出てこなかった。


 今まで俺を見下していたヤツらが怯えているのは気分が良いな。


「イングリッド嬢も異論はないな?」

「もちろんです。素晴らしい戦いでした」


 見届け人である二人の意見が一致している。


 もう、決闘の結果が覆ることはないだろう。


「ふむ。いないようだな。それでは勝者に拍手を」


 誰も勇者の存在には逆らえず、貴族たちは複雑そうな顔をしたままパチパチと手を叩く。


 傲慢なヤツらの鼻っ柱を折って満足な気分に浸っていると、セラビミアが近づいてきて俺の前に立つ。


「決闘の勝者を讃えたい。私とイングリッド嬢と話す時間をくれないか? もちろん、美しい二人の妻も同行しても良い」


 イングリッド令嬢と縁ができたので、早速、使う機会を作ってくれたのか。


 良いアシストだ。


 決闘を見守っていたアデーレとユリアンヌを見る。


 勝利をした瞬間に抱き付きたかっただろうに、貴族として舐められないよう大人しくしているみたいだ。教育の成果を感じる。


「セラビミア様のお誘いだ。一緒い行こう」

「はいっ!」


 スカートの軽く持ち上げながら、ユリアンヌが走ってきた。


 喜びのあまり礼儀を忘れやがったな……。


 ゆっくりと歩いているアデーレの方がまともである。


 先ほどの意見は撤回だ。まだまだ教育は必要そうである。


「では皆様、しばらくこの場を離れます。引き続きパーティーをお楽しみ下さい」


 死体を放置して主催のセラビミアとイングリッド令嬢が会場を後にしてしまった。


 誰が処分するのか気になったものの俺には関係ないと思考を切り替える。


「俺たちも行くぞ」


 二人の後を追って会場を出て行くことにした。


* * *


 案内された場所は人が十人も入れば狭く感じるほどの小さな部屋だった。


 天井にはシャンデリアがぶら下がっていて、部屋の壁にはワインの入った瓶がずらりとならんでいる。ラベルは分からないが非常に高そうだ。窓があるのだが、真っ暗で外は見えない。


 視線を部屋の中心にウスつとガラスで作られたローテーブルがあり、囲むように真っ赤でふかふかなソファが四つある。一つは三人用。残りは一人用だ。


 俺たちは三人用、イングリッド令嬢は一人用のソファに腰を下ろした。


「決闘、お疲れ様。祝いの酒でも飲もうか」


 棚からワイングラスを五つ取り出すと、セラビミアがテーブルの上に置いた。


 イングリッド令嬢が手伝おうとして腰を浮かせかけたが目で制する。


 この場は任せてくれ、ということか。


 大人しくしておこう。


 すべてのグラスにワインが注がれたので、全員が手に持つ。


「ジラール男爵の勝利に乾杯!」


 グラスを軽く上げてから唇につけて口に含む。


 官能的な果実の香りが鼻腔を包み込む。


 フルーティーな甘さが口内に広がり、まろやかな口あたりが心地よい。


 ジラール領でも何度かワインは飲んでいるが、これほど質の高いものはなかった。


「美味いな……」


 思わず言葉が漏れてしまう。


 ユリアンヌやアデーレも同じ意見のようで、ほぅと感心したような表情をしている。


「このワインはね。年間で百本しか作られない貴重なものなんだ。ジラール男爵のために用意したんだから、そう言ってもらえると嬉しいよ」


 恩着せがましく言われてしまったが、このワインを飲んだ後では文句言えない。


 それほどまでに美味いのだ。


「セラビミア様は、それほどジラール男爵を想っていられるので?」


 チラチラと俺と、ユリアンヌ、アデーレを見ながら、イングリッド令嬢が突っ込んだ質問をしてきた。


 下手したら修羅場になるかもと思いつつも、報われない恋心を抱いている少女としては聞かずにはいられなかったんだろう。


 どのような反応をするのか気になるので、俺は何もいわない。


 周囲の様子をうかがうことにする。


「そうだねぇ。王国内で一番親しい貴族と言っても過言ではないかな」

「それ以上の気持ちは?」

「イングリッド令嬢はどう思う?」

「私は……特別な感情があるのではと思いました」

「理由を聞こうか」


 ちらっとイングリッド令嬢は、二人の嫁を見た。


 地雷原を歩いている認識はあるようだな。


「私は気にしていません。どうぞ会話をお楽しみください」


 正妻であるユリアンヌが代表して言った。


 彼女たちもセラビミアが俺のことをどう想っているのか、それが気になって仕方がないんだろう。


 勇者が俺を好いていると判明したときの影響は計り知れない。


 ジラール領の今後を揺るがすことになるのだから。


 ユリアンヌから許可をもらったイングリッド令嬢は、セラビミアを真っ直ぐ見る。


「地方の男爵でしかない方をパーティーに招待するだけでも他の貴族より懇意にしていることが伝わります」

「領地がお隣だから呼んだだけだよ」

「であれば、他にも招待するべき貴族もいますよね? それに一緒に王都へ入ったという情報もあるので、やはり特別扱いしていると思います」


 恋愛に溺れた令嬢というイメージが強かったので、ここまで冷静に話せるとは思わなかった。


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