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俺はコレを使わせてくれ

「どうしても俺を平民扱いしたいみたいだな」


「事実なんだから当然だろ。死にたくなければさっさと家に帰るんだな」


 扇で口元を隠している貴族の女どもから、クスクスと笑う声が聞こえた。


 俺を下に見ることで優越感を覚えているのだろう。


 ここまで侮辱されて黙っているわけにはいかない。


 貴族は舐められたら骨の髄までしゃぶりつくされてしまうので、この場は抗議するべきなのである。


 大人しくしようと思っていたのだが仕方がない。


 小さくため息を吐いてからポケットを漁って白い手袋を取り出す。


 目の前にいる不快なポエール男爵に思いっきり投げつけてやった。


 ぺしっと音がなって体に数秒張り付き、重力に従って落ちていく。


「決闘しようぜ」


 喧嘩を売られたと分かって、ポエール男爵は顔を真っ赤にさせて肩をふるわせている。


 周囲にいる貴族は興味深そうにことの推移を見守っているだけで、口を出そうとはしていない。


 表には出たくないが裏で馬鹿にしたいのだろう。


 陰湿なヤツらだ。


「調子に乗るなよ。私に決行を申し込んだことをあの世で後悔するんだな」


「じゃ、決闘は受理されたと言うことで問題ないな。見届け人はどうする?」


「私がやろう」


 人がさーっと左右に分かれると、真っ赤なドレスを着たセラビミアが優雅に歩いてくる。


 ここでお前が登場するのかよ。


 タイミングが良すぎる。


 どこかで様子を見ていたな。


「セラビミア様! よろしいのですか!?」


 聞いたのはポエール男爵を囲っている貴族の女だ。


「もちろんだ、ブリア夫人。面白い余興になりそうだから、私も関わらせて欲しい。どうだい? 皆様方!」


 セラビミアが問いかけるとパチパチと賛同する拍手が聞こえてきた。


 これじゃ反対意見は出せないだろうと思っていたのだが、どうやらブリアは違うようだ。


「この男は間違ってパーティーに潜り込んできた平民なのかもしれません。貴族同士の決闘法は適用されないのでないでしょうか」


「夫人は何を言っているんだ? ジラール男爵は、私が招待した正式な客だぞ」


 本当に招待された客だと知って、俺を馬鹿にしていたヤツらが一気に黙った。


 誰も反論できないどころか、勇者の招待客を馬鹿にしたことに気づいて顔が真っ青になっているヤツもいる。


「そうだ。イングリット嬢も一緒に立ち会わないか?」


「わ、私ですか!?」


 長い黒髪をした大人しそうな女性が自分自身を指さしていた。


 暗い色のドレスを着ていて、身につけている宝石もダーク系が多い。


 中身だけじゃなく外見すらも重い女、それがイングリット令嬢で、ゲームで見た立ち絵と同じ顔をしている。


「ええ。良い刺激になりますよ。殿方の戦い方の勉強にもなりますし」


「勉強ですか。確かに興味はありますが……」


「では参加と言うことで。安心してください。私が全てを取り仕切るので、隣に立っているだけで大丈夫ですから」


 決闘する本人を置いて話を進めているが、誰もセラビミアの邪魔はしない。


 主賓だからと言うよりも、勇者の機嫌を損ねたくないという理由の方が大きいだろう。


 なんせ国王に頼まれて再就任したのだから、重要度や注目度は昔より高いと言える。


 少なくとも、今はな。


「では見届け人も決まったので決闘を始めましょう。二人は武器をどうします?」


「事情があって外せないから俺はコレを使わせてくれ」


 ポンポンと軽くヴァンパイア・ソードの柄を叩いた。


 脳内にうざいという声が聞こえて来るかと思ったが、意外にも静かだ。


 人と関わりたくないのだろうか。


「ポエール男爵が許すなら良いだろう。どう思う?」


 公平な対応をするつもりらしく、セラビミアが俺の決闘相手に聞いた。


「平民が持っている武器など大したことはない。負けた言い訳にされても面倒なので、好きなものを使え」


「だって。ジラール男爵。よかったね」


 こういった反応をポエールがすると分かっていたから、公平だと思わせるために聞いてみたのか。


 目的は決闘の結果にケチをつけさせないためか?


 俺が勝ったときのことを考えて振る舞っているのであれば、ずる賢い女だ。


「で、ポエール男爵の武器はどうするんだ? まさか素手で戦うわけじゃないだろ?」


「もちろんさ。平民と違って殴り合うような野蛮な行為はしない」


 言動の一つ一つが俺を挑発している。


 冷静な判断をさせないようにしているんだろうが無駄な努力だ。


 この程度でキレてしまうのであれば、セラビミアとは付き合っていられん。


 俺は心が広いのだ。


 ポエール男爵が指をこすり合わせてパチンと音を鳴らした。


 執事らしき若い男性が槍を持って入ってくる。


「私の獲物はこれだ。長いからと言って卑怯とは言うなよ?」


 確かにリーチはある方が有利な場合も多いだろう。


 ここは室内ではあるがパーティはできるほど広いし、観客も離れてみるから邪魔にはならない。


 槍の力を充分に発揮できる環境ではある。


 だがな。


 その武器はミスリルで作られている逸品だが、言ってしまえばそれだけある。


 ヴァンパイア・ソードのように特殊な能力はなさそうだ。


『お前の思っているとおりで間違いないぞ。アレは私よりも遙かに劣る武器だ。お前の勝ちだな』


 急に話しかけてきたと思ったら、笑いやがって。


 大した武器じゃないと言われたことを根に持っているのだろうか。


『…………』


 返事がないから当たりっぽいな。

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