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姉さん。でもさ

「その覚悟は受け取った。奴隷にするかどうかは、お前の働き次第で決めよう」


 娼館の主となれば自然と注目されるだろう。


 奴隷にすると持ち主を調べるようなヤツが出てくるかもしれない。


 裏に俺がいるとバレたくはないので、働きさえ悪くなければ普通の平民として扱おうと考えている。


「ということは、交渉は成立でしょうか?」


「もちろんだ」


 ココットは、ほっと、安堵したような顔をした。


「契約書はないが俺は裏切らない。早ければ一週間後に王都を出るから、それまでに引き継ぎは終わらせておけ」


「わかりました。私と一緒に、ここで働いている娘を連れて行ってもよいでしょうか?」


 娼婦は後で用意しようと思っていたのだが、まとめて手に入るのであれば歓迎だ。


 王都で磨いたテクニックをジラール領で発揮してくれるのであれば、リピート客は増えるだろうな。


 自然と、プロの技に溺れる私兵どもの顔が浮かんでしまった。


 ……気持ち悪い。


 忘れよう。


「問題ない。支度金を渡そう。必要な物の購入と、検査をしておけ」


「……もし病気だった場合は、どうされますか?」


 俺を試すような視線だ。


 普通なら捨てておけ、もしくは病気が蔓延してもいいから働かせ続けろという所だろう。


 だがそんなことはしない。


 領地、そして俺のために働いてくれるのであれば、報いる必要があるからだ。


 もちろん慈愛に目覚めたわけではない。


 病気になっても薬がもらえると分かれば娼婦のなり手は増えるだろうし、病気の蔓延を防げば税収が下がるようなこともない。


 俺にとっても利益はあるのだ。


 お互いに得をする状況が続けば人は裏切りにくい。


 娼館の運営は、ある程度安心して任せられるようになるだろう。


「治療してやるから隠さず伝えろ」


 金貨が入った革袋を優しく投げると、ココットは両手で受け止めて抱きしめた。


 まるで大切な宝物のように。


「このご恩、忘れません」


「死ぬまで覚えておけ」


 振り返るとルートヴィヒに命令を下す。


「お前はココットが変な行動をしないか監視しろ。一週間後になったら俺が泊まっている宿の前に来るんだ」


「奥様の護衛はどうされるので?」


「俺がする」


「大丈夫なんですか……?」


 疑わしそうな目で見やがって。


 無礼だと叱るべきか? と悩んでいたら、ルミエに先を越されてしまう。


「その態度、ジラール男爵に対して失礼ですよ」


「姉さん。でもさ」


「でも、じゃありません」


 こんなところで姉弟ケンカされても面倒だ。


 多少強引になっても止めるべきだろう。


「二人とも黙れ。俺は意見を聞いているのではない。命令をしているのだ。わかったな?」


 殺気すら感じる言葉にルートヴィヒは無言で頷いた。


 まずいことをしたと、反省してくれれば良いのだが。


「話は聞いていたな? 俺に用があればルートヴィヒに伝えろ」


「かしこまりました」


 深く頭を下げたココットに満足した。


 こうやって素直に従ってくれれば良いんだよ。


 嫁とルミエを連れて外へ出る。


 帰る途中、勘違いさせてしまったお詫びとして、高級アクセサリーショップで三人分のネックレスを購入する。


 大切な女性の機嫌が取れるのであれば、多少の出費は気にならない。


* * *


 ついに、セラビミアが開催するパーティ当日になった。


 娼館の経営者も見つけたので、ヴァンパイア・ソードの問題が解決すればミッションは全てクリアである。


 ユリアンヌとアデーレは昼過ぎから化粧や髪型のセット、衣装の着付けに悪党苦戦している。


 ルミエが手伝っているのだが、時間がかかっているようだ。


 王都にいる貴族たちの前に出ても恥ずかしくないレベルに仕上げるのは大変らしい。


 俺はタキシードにヴァンパイア・ソードをぶら下げるスタイルだったので、女の準備がこんなに大変だとは思わなかった。


「旦那様! これでどうでしょうか?」


 両手を広げながら聞いてきたのはユリアンヌである。


 薄いピンク色のドレスを着ていて、首元まで隠れるデザインだ。


 傷を隠すために露出度は低くしているが、そのおかげでおしとやかな印象を与える。


 白い花の刺繍が施されていて、黙っていれば貴族の令嬢として見えるだろう。


 王都で購入したダイヤのネックレスも着けており、光を反射させて美しい。


「似合っているぞ」


「ジャック様! 私はどうですか?」


 控えめに聞いてきたアデーレは、髪の毛を結わいている。


 パーマをかけているのか緩いウェーブになっているようで、少し大人っぽい雰囲気を出せている。


 胸は控えめなので背中がパカッと開いているタイプにしていて、鍛えられた背筋が美しい。


 おそろいのネックレスも着けているので、本妻と側室の仲の良さをアピールできていることだろう。


 本当はミニスカートにしたいと思ったのだが、娼婦じゃないとそんな格好はしないと猛反対されて、二人とも足首ぐらいまで隠れるスカートになっている。


「もちろん。アデーレも似合っている」


「ありがとうございます!」


 嬉しそうにクルクルを回っている。


 大人っぽい見た目にしたのが台無しだ。


 ユリアンヌとダンスの練習を始めたし、少しはしゃぎすぎだろ。


「ジラール男爵、お迎えの馬車が到着いたしました」


 ドアの外からホテルの支配人の声が聞こえた。


 ルミエが応対しているので、ユリアンヌたちのダンスを中断させる。


 鏡の前に立って手ぐしで髪型を整えてから服のシワを伸ばす。


 うむ、完璧だ。


「旦那様」


「一緒に行きましょう」


 ユリアンヌが右側、アデーレが左側の腕を掴むと微笑んでいた。


 悪い気はしない。


 そのまま部屋を出ると馬車に乗り込んで、パーティ会場へ向かうことにした。



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