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早く質問しろ

 ユリアンヌたちと話し合ってから数日経過すると、ようやく王都に向けて出発した。


 馬車は二つあって、一つ目に俺とユリアンヌ、アデーレが乗っている。


 後方の馬車にはセラビミアと緑の風だ。


 今までの傾向からして、無理やり俺と同じ馬車に乗り込んでくると思っていたのだが、さすがに嫁を優先してくれたようだな。


 セラビミアが用意した馬車の護衛は百人規模で、大行列となっている。


 この数を襲ってくる無謀な野盗なんていないから道中は安全に進めている。


 ジラール領付近は田舎道で代わり映えしない景色が続いていたが、王都に近づくと立派な建物が見えるようになり、人々の行き来も増えていく。


 王都へ入る直前に泊まった宿は五階建てになっており、俺が想像していた以上にこの世界の技術力は高いと気づいた。


 田舎に引きこもっていたら一生気づけなかっただろう。


「こんな高い建物があるんですね」


 俺と同じく田舎で育ったユリアンヌは驚いてばかりだ。


 むろん、アデーレも同様である。


 そんな俺たちを連れて、セラビミアは観光までさせてくれたのだから、自然と嫁との仲は良くなっていく。


 その事実が気になったものの楽しんでいる二人を見たら何も言えなかった。


 甘いと言われるかもしれないが、若い内に色々と楽しい経験して欲しいと思ってしまったのである。


 そんな事情もあって王都に着く頃には、俺がいる馬車には緑の風が同席し、セラビミアの所にアデーレとユリアンヌがいるようになっていた。


「奥様に振られた気分はどうですか?」


 緑の風の妹、リリーが笑顔で失礼なことを聞いてきやがった。


 ムキになって反論しても相手を楽しませるだけだ。


 こういったときには冷静に対応するのが良い。


「隣領の領主と仲良くなれるのであれば都合が良い。気分は悪くないな」


「寂しくないんですかーー?」


「いつも一緒に居るんだから、たまには別々に行動するの良いだろう」


「ちぇ。詰まんない反応ーっ!」


 リリーは背もたれに寄りかかった。


 同席している姉のオリビアは申し訳なさそうに頭を軽く下げた。


「男爵様に失礼な発言をしてしまい申し訳ありません」


「えー、このぐらいいいじゃん。私に怒るほど、ジャック様の心は狭くないよ?」


 と言いながらリリーは俺をチラッと見た。


 貴族はプライドが高いので、こう言ってしまえば否定出来ないと思っての行動なのだろう。


 無邪気に振る舞っているように見えるが、ちゃんと計算しているようだな。


「この場であれば許そう」


 客車は他人の目がないので多少の無礼は許してやれるが、大衆の前では話が変わる。


 舐められないよう、強気に出なければいけないのだ。


「だって。じゃあ、すごく聞きたいことがあるんですけど、質問良いですか??」


「ちょっと、もう止めなって!!」


「でもー! お姉ちゃんだって気になってるじゃん」


「だからって本人に聞くべきじゃないから」


 気になる言い方をしやがって。


「俺はかまわんと言っている。早く質問しろ」


 緑の風の二人が同時に俺を見た。


 双子だからか息がぴったりである。


 こいつらがすぐ仲間になっていれば、レッサー・アースドラゴンはもっと楽に倒せたんだがなぁ。


 ジャックの体を乗っ取った時を思い出しながら待つ。


「それではですねーー」


「早く言え」


「セラビミア様といつ結婚するんですか!?」


「するはずないだろッッ!!」


 思わず大声で否定してしまったが、曖昧な回答をするよりかはマシだろう。


 本人だけでなく、周囲の人たちにも脈がないと理解してもらう必要があるのだ。


「えー。でも、一緒に長期でお出かけするほどの仲じゃないですか。今回も護衛費を負担していますし、何かあるんじゃないですかーー? ってか、何かあってくださいっ!」


 好意を利用して護衛を出させているだけで、それ以上の理由はない。


 

リリーのように疑いたくなるというのも理解はできるが、本当に何もないのでうなずけない。


「何もない。俺とセラビミアは領地が隣り合っている以上の関係にはならない」


「えーー。面白くない!」


「当然だ。お前たちを楽しませるために生きているわけじゃないからな」


「でもー。何かあるんじゃないですか? キスとか下着を見ちゃうとか、そんな感じのっ!」


「ねぇよ」


 下着ぐらいは見た気もするが記憶から抹消しているので、俺の回答は間違っていない。


 リリーは噂が好きのようで腹が立つ。


 しかし利用できそうだ。


 ちょっとした情報を植え付けておこう。


「セラビミアは男になんて興味ないぞ。女の方が好きだったりする」


「えっ。マジですか……?」


「それは自分に聞いてみろ。身に覚えぐらいあるだろ」


「…………確かに」


 やっぱりな。


 アデーレの首を舐めたことから、女も好きだと思っていたのだ。


「何があったんだ?」


「ボディタッチが多いんです。肩や背中、お尻とか」


「オリビアは?」


「私は胸をよく触られますね。同性だったので気にしてなかったんですが……」


 日頃の行いというのは大事だな!


 こういう大事なときに疑問を持たせてしまう。


 忠誠心が揺らいでいるのであれば、引き抜きのチャンスだ。


 今すぐ快い返事をもらえるとは思わないが、種まきぐらいはしておこう。


「セラビミアのセクハラが嫌になったら俺の所にこい。良い待遇で雇ってやる」


「ありがたいお話ですが、お断りいたします」


「すぐに決めろと言わん。俺は何時までも緑の風を待っている。そのことを覚えてくれればいいさ」


 逃げ道を作っておけば、いつか来てくれるかもしれない。


 あとは事態が動くまでゆっくりと待つことにするさ。

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