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妻から聞いたのか

 孤児院の視察が終わってから数日後、処刑した別の役人からも隠し財産が見つかり、お小遣いがさらに増えた。


 資金は充分用意できたので、新規事業の必要品の購入を始め、さらに娼館を始めるために建築や女性の募集も始めた。


 表向きには別の領地で娼婦が独立して新しく店を建てるという見え方にして、裏ではケヴィンが資金と経営方針を伝える役割になっている。


 今のところは真の運営元は隠せているようで変な噂は立っていない。


 相変わらず周囲の貴族との関係は悪いが、セラビミアの領地から商人や冒険者が訪れるようになっているので、人や物の流通も増えている。


 他の貴族達は俺を馬鹿にして領地運営を邪魔できても、元勇者であるセラビミアに頭は上がらないようだ。


 虎の威を借る狐とみたいな状態ではあるが、使えるものは何でも使う。


 月一回、あいつと会えば文句言わないので楽なものだ……と思っていたのだが、意外と面倒だった。


* * *


 頼んでいた毒をハイナーからもらった翌日。


 セラビミアに呼び出されて、アイツの屋敷に来ている。


 応接室に案内されるとすでに金の装飾が施された豪華なソファに座る。


 腰が深く沈む。


 ふわふわなクッションだ。


 これ、俺が普段使っているのより高いだろうな。


 部屋の調度品を眺めながら待っていると、メイド服を着た緑の風の二人を引き連れたセラビミアが入ってきた。


 青いドレスを着ている。


 スカート丈は長く、ふんわりと膨らんでおり、首には大きなサファイヤが埋め込まれたネックレスをして着飾っていた。


 黒い髪が揺れるとダイヤのイヤリングがチラリと見える。


 優雅に歩いて俺の正面に置かれたソファへ座った。


 腰まで届くほど長い銀髪のエルフが、カップをテーブルに置いて紅茶を注いでいく。


 あれは姉のオリビアだったな。


 見た目は大人しそうだがキレると手の付けられない性格だったはず。


「今度、王都に行くんだって?」


 俺の身内にしか知らせてない情報を既に把握しているか。


 そういえば、ユリアンヌが手紙のやりとりをしていると言っていた気がする。


「妻から聞いたのか」


「うん」


 カップに口を付けたセラビミアが紅茶を飲む。


 動作一つ一つが洗練されていて、貴族としての振る舞いは問題ないと言えるだろう。


 ユリアンヌどころか俺よりも貴族らしいな。


「私も行くと言ったら怒る?」


「当たり前だろ。新婚夫婦の邪魔をするなよ」


 月一回の密会ですら変な噂が立つんだ。


 王都の旅行に連れて行ったら、側室二号として認めるようなものであり、絶対に避けなければいけない。


「ふーん。だったら、私抜きでヴァンパイアと戦うつもりなの?」


 新しい肉体を手に入れる方法、そして地下で陵辱されているヴァンパイアの存在も当然のように知っているか。


 王都に行く目的を知られているのであれば、誤魔化す必要はないな。


「俺だけでも勝てる相手だからな」


「勝てるねぇ……難しいと思うよ?」


 意味深な笑みを浮かべやがって。


 さっさと詳細を話せと目で伝える。


「そんな態度をするなら教えてあげなーい」


「嫌なら言わなくて良い。自分で調べる」


「え? 無理やり聞き出そうとしないの?」


 淡泊な対応をしてやったら、きょっとんとした顔をしやがった。


 前に攻めるばかりじゃなく、たまには一歩引いて距離を取るテクニックを使ってみたのだが、効果はあったようだな。


 妻が二人も居るおかげか、女の扱いには慣れてきた。


 これならセラビミアを手のひらでコロコロと転がせるだろう!!


「だったら重要な情報は秘密にしておくね」


 むむ……。


 ゲーム制作者が秘密にするといったら、非公開設定のことだろう。


 俺は続編をプレイしていないこともあって、中途半端な知識しか持っていないので気になる。


「教えて欲しそうな顔をしているね」


「そんなわけないだろ」


 言葉で否定しても心は正直だ。


 知りたいと思ってしまっている。


「良いのかなぁ。知らないと死んじゃうかもよ?」


 メイドとして後ろに控えている緑の風が、声を押し殺しながら笑っていた。


 俺を侮蔑しているようには見えない。


 幼稚な言動をしているセラビミアの姿がおかしかったんだろう。


「ふーん。私よりエルフの方が良いんだ?」


 ぞくっと背筋が寒くなるほどの圧力を感じた。


 数秒前まで機嫌良く笑っていたくせに。


 地雷がどこにあるか、まったくわからないな。


「捻くれた女よりかはマシか……いや、冗談だ」


 試しに煽ってみようと思ったのだが、セラビミアの体からバチバチと電撃が流れ出たので途中でやめた。


 最後まで言っていたら雷魔法を使われて、こんがりと焼かれてしただろう。


「エルフが珍しいから見ていただけだ」


「そっか。でも勇者の方がもっと珍しいよ?」


「元だろ。いい加減、昔の肩書きは忘れるんだな」


 勇者をやめたことで貴族を取り締まる権限は剥奪されている。


 驚異的な戦闘能力は警戒しなければいけないが、機嫌を損ねても爵位の剥奪なんて事態にはならない。


 俺の言葉で黙ってしまったセラビミアは後ろを向く。


「君たちは下がってて良いよ」


「やったー! もう足がパンパンで座りたかったんだよね」


 短い銀髪のリリーが喜んで応接室から出て行ってしまった。


 妹の方は元気だな。


「では失礼しますね」


 オリビアの方は落ち着いた様子で退出してしまう。


 しまった。


 これじゃ二人っきりじゃないかッ!!


「ようやく秘密の会話ができそうだね」


 全く嬉しくないんだが……。


 早く帰りたいなと思いながら紅茶を飲み、セラビミアから視線を外して窓を眺めることにした。



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