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いつも客がいないな

 ヴァンパイア・ソードとの会話を終えると、一階に戻って外に出ようとする。


「ジャック様、お出かけですか?」


 声をかけてきたのはルミエだ。


 後ろにはメイド見習いのイナがいる。


 ようやく慣れてきたようで、俺を見ても怯えることは少なくなった。


「必要な物があってな」


「でしたら私たちが買いに行きます。結婚したばかりなんですから、ジャック様は奥様との時間を大切にしてください」


 毒をメイドに買わせることなんてできない。


 誰に使うんだって疑心暗鬼になるだろうから。


 特にルミエは両親を毒殺した事実に気づいていることだし、次は誰を殺すんだって俺を問い詰めてくるだろう。


 だからヴァンパイア用とはいえ、黙っていたいのだ。


「俺が買うことに意味があるんだよ」


「そういうことですか」


 あえて誤解するような言い方をしたのが良かったんだろう。


 ユリアンヌやアデーレのために、買い物とすると思ってくれたみたいだ。


「近日中に王都へ行く。ケヴィンと一緒に準備を進めておいてくれ」


「時期は決まってないのですか?」


 毒がいつ手に入るか分からないから出発時期は決められない。


 だが遅すぎてしまえば、王都にとらわれているヴァンパイアが暴れ出す危険があるのだ。


 ゲームの中盤までジャックが生き延びた場合、王都に呼ばれるイベントがあるのだが、そのときにヴァンパイアが牢獄から出て混乱が起きる。


 ヴァンパイアを飼っている子爵家の令嬢――イングリットが、愛する王子様を手に入れるためにライバルを殺そうとして、解放してしまうのが原因だ。


 子供を産まされ通づけたヴァンパイアの恨みは深く、イングリットの命令なんて聞かない。


 子爵一族を殺した後は目につく人々を虐殺していく。


 そんな大事件に運悪くジャックが遭遇してしまい、死にそうになりながらも戦い、生き残る。


 といったプチ破滅イベントが起こる予定だった。


「早ければ一週間、遅いと三週間後ぐらいだ」


「かしこまりました。ケヴィンと準備を進めておきます」


 距離を感じるほど丁寧に返事をしたルミエは、イナを連れて俺の側から離れてしまった。


 思うところはあるが、今はそれどころでない。


 呪いを解くチャンスでもあるので、毒を手に入れる方を優先したのだ。


 屋敷を出ると一人で外を歩く。


 平民が着るような服装をしたので領主だとバレてないはずなのだが、領民たちは道を譲ってくれる。


 コソコソと話す声も聞こえた。


「あんな豪華な剣をぶら下げて変装できていると思っているの?」

「黙ってなさい。聞かれたら殺されるよ」

「大丈夫よ。最近は優しいみたいだから」


 ヴァンパイア・ソードが原因だったのか……。


 呪いのせいで手放すことはできないので、変装をしても無駄であったようだ。


 周囲の目を気にしながらハイナーの店に入る。


 今日も客は入っていないが、ちゃんと商売できているのだろうか。


「お前の店は、いつも客がいないな」


 商品を整理しているハイナーに声をかけると、乾いた笑いを出しながら俺を見た。


「うちは貴重品を取り扱ってますからね」


 領民だと手の出ない値段だから仕方がないと、言いたいのだろう。


 ジラール領が発展すれば状況は変わるだろうから、しばらく待つ考えだな。


 アラクネの集落から手に入れたミスリル鉱石を王都で捌いてもらっているので、利益は出ている。


 店に客が来なくても倒産の可能性は低い。


 時間が味方してくれることだろう。


「なるほどな」


 商品の棚を見ると高級食材や宝石、六級の能力アップポーションなどが並んでいた。


 統一性がない。


 ゲームの時は気にならなかったが、現実として目の前にあると違和感が残るな。


「仕事を一つ頼みたい」


 六級の能力ポーションを手に取りつつ、ハイナーに話かける。


「なんでしょう?」


「強力な毒を用意して欲しい」


 毒というワードを聞いてハイナーの警戒心が上がったように感じる。


 俺が政敵を殺す為に使うと勘違いしたのだろう。


「安心しろ。使う相手は人じゃない」


 魔族は人ではなく魔物だと言い張る差別主義者もいるのだから、俺の発言は嘘ではない。


 実際、ヴァンパイアに毒を使ったとバレたら、罪に問われる場合もあるので注意は必要だが。


「本当ですか?」


「本当だ。俺を信じろ」


「…………」


 疑っている目をしているハイナーだったが、しばらくして元に戻る。


 なんとか納得してくれたようだ。


「わかりました。ジラール男爵には恩があるのでご用意します。引き受けても詳細は教えてくれないんですよね?」


「もちろんだ」


「はぁ、やっぱりですか」


「貴族からの依頼なんてそんなもんだ。諦めろ」


 金払いは良い代わりに面倒な依頼をするのが貴族というものだ。


 俺に助けてもらい、使いを始めた段階で無難に生きるのは諦めるんだな。


「人が数滴舐めただけで即死ぐらいの毒で頼んだぞ」


「ついでに取り扱いが簡単な種類にしておきますね」


「気が利くじゃないか。頼んだぞ」


 保存方法がわるいと毒素が弱くなるパターンもあるからな。


 ゲームと違って色々と気をつけなければいけない。


 その点についても、目利きができるハイナーに任せれば何とかなるだろう。


 恩を売って仲間に引きずり込んで良かった。




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