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サンタ ✖(クロス) ???  作者: しらたま
9/20

サンタ ✖ 休日

 空調が行き届いたフロアには数十の個室があり、キーボードを叩く音やいびき声が聞こえてくる。

 その内の一室、二十一番の個室でヨシオは漫画を読みながら笑いこけていた。


 「ちょっとヨシオ、こんな所で何をしてるのですか?」

 「あん? 漫画喫茶に来てるんだから、漫画を読んでるんだよ」

 「そうではなくて、ここには対象者がいませんよ。プレゼントは誰にでも渡せば良いというものではないんです。私のリストに載っていなければ、意味がありません」


 ヨシオは漫画をそっと閉じ、真剣な表情を見せる。


 「あのさ、俺って、今まで結構働いたよな?」

 「……はい?」

 「だから、これまで休まず働いたよなって訊いてんの! 今日ぐらい休ませてくれてもいいんじゃね?」

 「いえ、言っておきますけど、ヨシオは働いている内に入りませんよ。他の神様はヨシオの十倍は働いています、甘えないでください」

 「他は他、俺は俺なの! それに今は傷心してるんだから、少しぐらい休んだっていいじゃんか」

 「傷心って、ただヨシオが空回っただけですよね? 女性を相手にした依頼はこれまでにもあったでしょうに、何をそんなに怯えていたんですか?」

 「お子ちゃまのお前には分からないだろうけどな、女性と肌が触れ合うような距離間で冷静に対処できる男なんて、枯れ果てた爺か煩悩を捨て去った悟り人くらいなもんなんだよ」

 「つまり、あなたは神であるにも関わらず、下世話にも欲情を催したということですか?」

 「ち、違えーし! 初めての出来事でちょっとテンパっただけだし!」

 「嘘までついて、自分を良いように見てもらおうとしたのも?」

 「……円滑な会話を成り立たせるためだ」

 「最終的には、適当にあしらわれていましたけどね」

 「うっせーよ! 元はと言えば、お前の余計な呟きのせいだろうが! 悪魔が囁いているのかと思ったわ!」


 ヨシオの声が大きかったのか、左隣から壁を叩かれる。すみません、と思わず声に出す。


 「とにかく、あのサファリパークの傷が癒えてないから、今日はここで漫画を読んでリフレッシュするから」

 小声でヨシオは告げる。


 「そもそも、ここのお金はどうするのですか?」

 「お前から貰った金が、まだある。正直、パチスロに行こうとしたが、なぜだかまったく勝てる気がしないから、ここに来た」


 ちっ、とキラは舌打ちをする。もしパチスロに行っていたら、一時間と持たずにお金は溶けて無くなっていたことだろう。こういうしょうもない決断の時に限って、最善の選択をする。腐っても神の直観は馬鹿にできない。


 「では、私はどうすればいいのですか? ヨシオの任務不履行か達成以外、私も天界に帰れないのですが」

 「漫画読めばいいじゃん。面白いぞ、スラ○ダンク」

 「この狭い空間で? 何で二人掛けの席にしなかったのですか?」

 「……一人のおっさんがカップル席なんて、拷問すぎるだろうが。察しろよ」


 察してほしいのは、私の状況だとキラは悪態をつく。何を好き好んで、仕事の最中に漫画を読まなければならないのか。

 キラは特に興味もなく、漫画が陳列されている場所へと足を運び、適当にパラパラと本を捲る。一巻だけを手に取り、流し読みを繰り返し、ある漫画で手が止まる。


 「やっぱ、熱いよなぁ。不純な動機で入部したのに、いつの間にか本気で好きになっていく物語。これぞ王道だよなぁ」


 ヨシオは独り言で頻りに頷いてから、手元にある漫画を読み切ったので、漫画の返却と補充を行う為に、陳列棚へと向かった。

 すると、キラが熱心に漫画を読んでいる光景が目に入った。

 何だかんだ文句を言いながら、あいつも嵌っているじゃないか。そう思ったヨシオは、すれ違いざまに何を読んでいるのか、確認しようと試みた。


 ウ○ジマくんだった。えっ? ウ○ジマくん? どうなったら、天使がウ○ジマくんに興味を抱くの? 確かに面白いけど、爽やかさとは無縁の漫画だぞ?


 あまりの突拍子さに、ヨシオは硬直して素通りするはずが、立ち止まってしまった。背後に視線を感じたのか、キラが振り向く。


 「あー、えーっと、漫画もそれぞれ好みが分かれるよな?」

 ヨシオは当たり障りのない感想を述べ、努めて自然にたまたま通りかかったように振る舞った。


 「ヨシオちょっと待ってください、この漫画にヨシオが鮮明に描かれています。まるで、ヨシオをモデルにしたかのような描写、そしてその相手に容赦のない主人公。私、とてもこの主人公に共感します」

 「はあ? 共感って、その主人公悪徳業者だからな。お前、自分の立場忘れてない?」

 「私が共感しているのは、仕事に対する姿勢です。屑には慈悲もない所とか、私も見習わなくてはいけませんね」

 「えっ? 屑ってもしかして俺のこと? おいおいおい、いくらなんでもそこまでじゃないだろうが。俺は神だよ神。下界の落ちぶれ者と一緒にしないでくれる?」

 「この漫画にはいい台詞があるんですよ。債権者に主人公が言うんです。『信用を積み重ねてこなかったお前の明日は信用できねぇ』ですって。おや、ヨシオどうしたのですか? 冷や汗かいてますよ。こんなに暖かいのに」

 「……休日は終わりだ。次の仕事に行くぞ、晴子さんが待っている」


 足早に外へ向かうヨシオを見て、この漫画で当分引っ張れるなとキラは思った。 

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