サンタ ✖ キラ その1
私は憚らずに言ってしまえば、エリートだ。天使養成所では何十年も掛けて学ぶ天使見習いが多い中、私はたったの二年で卒業し、本格的に天使の仲間入りを果たした。周りの天使は大人ばかりだが、中には私の様に短期間で天使になった者もいる。そういう天使と仲良くなるのは、ごく自然のように、そしてあっという間であった。
「ねえねえキラちゃん、私たちもいつか神様に昇格できるのかな?」
ミアが満面の笑みで私に訊ねてくる。緩いウェーブのかかった緑色の髪が、ふわりと揺れる。
「うん、ミアなら大丈夫。これからもちゃんと仕事をしていれば、きっと神様になれるよ」
「もう、私の方がお姉さんなのに、キラちゃんは落ち着きすぎだよ」
ミアは頬を膨らませて抗議するが、その仕草が可愛らしくて私は笑ってしまう。
「何事も冷静に状況を判断すること、これが私の取柄だからしょうがないよ。それにお姉さんって言っても、ちょっとじゃない。私と変わらないよ」
「ぶー、周りがお姉さんやお兄さんばかりだから、キラちゃんにお姉さんらしく振る舞いたいのに」
「私はミアの事をお姉さんとは思えないかな。大事な友達だけどね」
ミアは膨らませた頬を笑顔に変え、私に抱きついてくる。私よりも少し高い身長のミアを受け止めるのは少し苦労するが、ミアの笑顔の為ならそれも苦ではない。
「キラちゃんの次のお仕事はドコ?」
「ある神様の付き添いで、日本に行く予定だよ」
「えっ! すごい! 神様のお付きなんて中々無いのに、さすがキラちゃんだね!」
私はありがとうと応えながらも、ミアの反応に自尊心をくすぐられた。そうなのだ、神様直々の依頼は滅多に無く、大変名誉なことである。ましてや私にとって初めての依頼。頑張るなという方が無理な相談だ。
「神様だもんね、きっと素晴らしい方なんだろうなぁ。帰ってきたら、話をたくさん聞かせてね!」
「うん、ミアも仕事頑張って。お互い、良い仕事になるように頑張ろう」
私はミアと別れて、天界の書庫で調べものをした。サンタクロースの仕事について。これのお手伝いが私の役目だ。どんな神様と仕事をするのだろうと、逸る気持ちを抑えながらもしっかりと資料に目を通す。
日本についても下調べをする。何度か、魂を天界に連れていく際に行ったことがあるが、比較的治安も悪くなく、人間が活気に溢れている印象があったが、少し疲れている人間も散見した。
きっと神様はあのような疲れた人間の為に、サンタクロースという形式を用いて癒しを与えて下さるのだろう。そしてそれをお手伝いする私は、間接的であるにしても人間を幸せにできるはずだ。ああ、神様、私を選んでいただき感謝します。
「と、思っていた時期が私にもありました」
私は警察に怯える隣のおっさんを尻目に、虚しさを覚えながら回想する。
「お、おい! 何でパトカー来んの? お前、まさか本当に呼んだ?」
「呼んでいませんよ。あれはヨシオの本来の力です」
「何だよ本来の力って! 不審者ってか? 不審者って言いたいのか?」
「これに懲りたら、子供相手には細心の注意を払ってくださいね」
「子供、おっかねぇ。つーか、あの子にプレゼント渡せなかったけど、良かったのか?」
「彼女は大丈夫でしょう」
私は先程の可愛らしい少女を思い浮かべる。癪だが、あれはあれでプレゼントになっていると感じた。
何だかんだと言いながら、ヨシオはこれまでサンタクロースとしての仕事をこなしている。私の心労と引き換えに、だが。
無性にミアに会いたくなった。何が悲しくて神と形容していいのか分らない存在のおっさんと、仕事をしなければならないのか。冷静な判断が取柄の私でも、限度というものがある。
とりあえず、トナカイ。あなたは許さない、絶対にです。